第一章9  『略奪した異能――万能の司書』

「きーちゃん。略奪した異能が壊れてたってのはどういう意味……?」


「文字通りの意味だよ。僕の中に取りこんだ時には壊れていたんだ。”万能の司書アンリミテッドブック”という異能が、僕の中に取り込まれたことで”閉鎖図書館クローズド”に劣化変異した」


「彼から奪った異能はどんな能力だったの?」


「もともとの能力は、あらゆる知識を自在に引き出すことができる自我を持った異能だったようだ。所有者の魔力量に依存するけど魔力の限度内であればいかなる高等魔術であれ無詠唱で発動できるという戦闘能力も兼ね備えていた」


「なんともチートなスキルだね。ミミ的には”あらゆる知識を引き出す”っていう部分が特に気になるけど。これはどうやって実行していたのかとかも分かる?」


万能の司書アンリミテッドブックバベルの図書館アカシックライブラリというところからほぼ無制限に情報を引き出し、

その情報を独自分析の上、最適解を提示していたそうだ。自分で話しておきながら意味が僕にはさっぱり理解できないけど。ミミには分かる?」


「うん。ミミは意味はわかるよ。文字通りの意味なら――。そうだ、ところでせっかくだからちょっとためしに新しい異能を使ってみてよ」


「了解。閉鎖図書館クローズド発動。僕がとるべき最善の行動を提示してくれ」


所有者ユーザーに5つの提言。脳内に直接投影》


――――――――――――

提言1.焼身自殺

提言2.服毒自殺

提言3.飛び降り自殺

提言4.入水自殺

提言5.首吊り自殺

――――――――――――


「ミミには、きーちゃんが独り言をブツブツ言ってるヤバい人にしか見えないんだけど、その異能はなんって言ってるの?」


「なかなか物騒ユニークな回答が返ってきた。焼身自殺、服毒自殺、飛び降り自殺、入水自殺、首吊り自殺が僕にとっての最適解だそうだ」


「はは……。すごい提言だね。自律思考を持っている異能というのは本当だったんだね。それじゃ次に”バベルの図書館アカシックライブラリ”の具体的な場所について聞いてみて」


「了解。閉鎖図書館クローズド起動。バベルの図書館アカシックライブラリの場所を答えろ」


《回答不可。バベルの図書館アカシックライブラリへの接続アクセス権限が剥奪されています。》


バベルの図書館アカシックライブラリとやらへは接続ができないと言っている。僕には何のことやらさっぱりだ」


「うーん。せっかく得た異能だけど現状は使えなさそうだね。それとも”略奪テイカー”で得た異能はオリジナルよりも劣化するってーことなのかな?」


「仮に能力が劣化していなかったとしても使いこなすのは難しそうだ。今後他の異世界転生者を殺して異能を奪っても同じことだと思う」


「きーちゃん。どういうことかな?」


「説明しづらいんだけど、二本の腕しかない人間に後天的に無理やり3本目の腕を無理やり神経を繋げて植えつけたような感じかな。

この”略奪テイカー”で奪った異能が3本目の腕だとすると、力の入れ方や指の動かし方が分からない。自分の物ではない異物感がある。

腕を事故で失って義手をつけた時の感覚が近いのかもしれない。そこに腕はあるけど自分の体の一部として自由に動かすのが難しいという感じ」


「なるほど、ね。きーちゃんの略奪テイカーがあればミミたちの目的も簡単に達成できるかもとちょっとだけ期待していたど、これはミミの考え方が浅はかだったね。

今後の計画は略奪テイカーで得た異能は考慮せず、純粋にきーちゃんのアサシンとしての能力だけで作戦を組んだ方が良さそうだね」


「ミミ。”今後の活動”っていうのはどういうこと? 他にも異世界転生者が見つかっているということか?」


「確定情報じゃないけど、異世界転生者の可能性が高い人物のピックアップ自体は完了しているよ。今後の活動方針については放課後にでも話し合おう」


「ミミに一つ質問がある。他にも異世界転生者と思われる者の候補者が複数人いる中でミミが峰岸亨を最優先の殺害の候補にした理由は何?」


「彼を最初の殺害対象に選んだ理由はその影響度の強さだよ。彼は無自覚な振る舞いによってこの国の秩序を破壊していた。

ミミたちの資金源スポンサーからはかなり危険視されていたみたい。――だけどミミときーちゃんが、彼の行いをを責めるのはお門違いだけどね」


「2ヵ月の間彼の行動を監視していた僕の感想としては、真っ先に始末しなければいけないほど危険な人間という感じはしなかったけどね」


 そう。彼は僕と違って本当の意味で善人だった。 


「うん……。それは見る角度というか立場の問題かな。当人の善悪は関係ないよ。資金源スポンサーにとって彼の考え方や生き方そのものが劇薬だったってことだね」

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