第一章8  『僕より強い転生者の倒し方』

「報告書に書いてあった悪趣味な生首爆弾……。あれはさすがのミミも顔が引きつったけど――なぜきーちゃんはあんな物を作ったのかな?」


「生首の口腔内に火薬と噛み砕かれたダガーの鉄片、更に時限式の着火剤を詰め込んで簡易的な炸裂弾を作ったんだよ」


 全くミミの質問に対しての答えになっていない。

 熱と吐き気が酷くて頭が全然回らない――。

 質問に対して正しく答えろ! イセカイジン


「ミミが聞きたいのは爆弾の製法の話じゃなくて……。どーしてきーちゃんはわざわざ人の生首を使って爆弾なんかにしたのかという意図で聞いたんだよ。炸裂弾を作るなら生首じゃなくて別な物で作る方が簡単だよね」


「峰岸亨の注意をそこに向けるためだ。僕には彼がどれだけ彼女を大切にしていたからわかっていたから。だから、起爆するまでの数秒だけでも注意を引き付けておける爆弾である必要があった。

彼にとってはソレは目を背けることのできないものであったから。当然、炸裂弾を凝視するということは急所が無防備になるということ。

爆発した場合は目や喉などの人体の重要な器官に致命的な損傷を負わせられるという副次的な効果も期待できた」


 ――今すぐ死ね。外道。


「彼も冷静な状態だったら、僕から投げられた不審物に過剰に気を取られることなどなく回避なり防御なりしていたはずだ。僕は人殺しとして考えられる最高のタイミングで合理的な行動をとっただけだ」


「冷静な状態の彼を真っ向から倒すのは無理だろうからね。きーちゃんがあの日失敗していたらここ教会は、彼だけではなく街全体を敵に回すことになっていた。

報告書読むだけでは分からなかったけど。こーやって直接話を聞くとなんというか薄氷の勝利という感じしかしないね」


 薄氷の勝利――正にミミの言う通りだ。


「もっとも想定外だったのは炸裂弾で殺しきれなかったことだ。十二分過ぎる殺傷能力をもった爆弾だったはずなのだけど」


「一撃で殺せなかったことにきーちゃんの非はないよ。脚部、腕部、眼球の損壊、更に全身火傷の状態でなお立っていること自体おかしいんだから。それで、彼はそんな体で何をしたの?」


「彼は壊れた体のまま立ち上がってきた……。そして漆黒の球体を僕に向かって放ってきた。魔術のようなものに見えたけどアレが何だったのかは、不明だ」


「それはおそらく魔術じゃなくて”召喚”かな。ミミも禁書指定聖典で存在は知っていたけど実物を見たことは無いよ。まさか”奈落アビス”が実在するとはね」


 何故だかミミは困ったようにあたまをかく


「召喚って何?」


「ごく短時間の間だけどいわゆる異界並行世界とも別次元の領域から呼びだすことができる混沌の塊。そういうたぐいのもの」


「そうか」


 ミミのいう事は理解できないことが多い。

今回の解答もその類の解答だったので、

適当に流すことにした。


「露骨にきーちゃん関心なしだね。じゃ、どうやってその禁術をかわしたのか教えてくれる?」


蜘蛛アラクネの糸の固有能力だよ。糸で拘束した物質の位置と自分の位置を入れ替える能力。あの球形は回避不能な暴力。だから――彼岸花で殺した彼女の肉体を身代わりにした」


 殺してなおも死体を冒涜するもてあそぶ悪鬼の所業。


「あとは特に語ることもない。満身創痍の彼を背後から忍び寄り頸部の大動脈を切断し、絶命させた。報告は以上だ――ミミ」


「お疲れ様。彼の異能をきーちゃんの異能”略奪テイカー”で奪ったんだね。きーちゃんのその異能の実存をこれで初めて証明できたわけだ」


「そうだね。確かに僕の転生時に授けられた異能は機能した。彼の”万能の司書アンリミテッドブック”も僕の一部として取りこめた。だけど……」


「何か問題でもあったのかな……。調子が悪いなら今日は無理に話さなくてもいいよ。今日はもう、休んだ方がいいんじゃないかな。ミミはそう思うのだけど……」


「僕は――大丈夫だ。心配ない。確かに彼の異能を取りこむことには成功した。だけど取り込んだ時には壊れていたんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る