第一章7 『真剣白”歯”取り』
ミミは僕の言葉に同意する。
「そうだね。カッツェという子は在学時は獣人としての身体能力とスピードを活かして広けた空間で面で闘うスタイルが得意だったみたいだね。
だけど逆に裏路地とかの、狭い場所。つまり前後しかない直線的なフィールドでの闘いは苦手だったようだね」
「そうだね、ミミ。彼女の戦闘実績の中で、貴族邸の大広間でものの数分で
その報告書を読んだ時は絶句したけど。おかげで彼女相手に広い面での戦闘だけは絶対に避けなければならないと理解したよ」
カッツェは在学中に白昼堂々、正々堂々
10人の
暗殺者の中のエリートであった。
「きーちゃんが彼女のことをよく調べていたことは理解したよ。彼女は暗殺者には異色な正々堂々と力でねじ伏せるタイプだったみたいだね。
「そうだね。彼女はアサシンにしては珍しく、罠や小細工を使わない。直接的な物理攻撃で多数の暗殺対象を一気に殺害する戦闘スタイルを得意としていたみたいだ」
「彼女の身体能力があってこそできる芸当だけど、
「そうだね。彼女は身体能力を活かして短期決着を好む殺し方がクセとして染みついている。だからこそ僕がつけ入るスキがあった。
僕は防御に徹し、あえて彼女の一撃必殺の初撃をダガー二刀をクロスさせることで受けきった。反動が想定以上で力を受け流すことができず死にかけたけど」
二刀のダガーで受け――なおかつバックステップで
衝撃を逃したにも関わらず、刃が欠けるほど強烈な
「彼女の
「奇跡じゃないよ。彼女は相手と自分との間の彼我の戦力差が大きければ大きいほど慢心――というよりも遊ぶ傾向があった。彼女は相手に自分の力を理解させた上で殺す。
だから、僕の連撃を
「ずいぶん物騒な遊びもあったものだね……」
「そうだね。顔面を狙った渾身の一撃を彼女の歯で受け止めたのも自分と相手の力の差を知らしめるためのパフォーマンスだったのだろうね。
集団相手の闘いなら、力の差を見せつけば他の暗殺対象の戦闘意欲をくじくことができるから効果的だから全く合理性がない行動というわけではないけど」
「ミミだったらドン引きして逃げちゃうね……」
「僕も回避不能のタイミングで渾身の力を込めて顔面に凶刃を振りおろしたのだけど、口で受けられ――あまつさえ自分の歯だけで鉄の塊を
「真剣白”歯”取り――か。常軌を逸しているね」
文字通り“歯”で“刃”を受け止められたのだから
その通りとしか言いようがない――。
「とはいえ、それはあくまでもダメ元での攻撃。基本的にはダガーでの連撃は注意をそらすための罠。格下の相手に対して遊ぶ傾向がある彼女が僕の攻撃を受ける前提での攻撃だったんだ。
僕の本当の狙いは彼女の全身の急所に
「相手の注意を別のところに向けて、その間に仕掛ける。
それにしても極細かつ剃刀と同じような切れ味の『
そう言ってミミが僕の頭を撫でてくれた。
僕の奥の手であり
唯一他者を圧倒できる暗器。
「鉄くらいなら難なく切り裂くことができる魔獣アラクネの糸から作られたこの暗器。状況に応じた使い方ができる唯一の僕の奥の手だ。僕の暗殺は基本的にこの
「ところで。きーちゃんは
「その時のために10個ほど事前に罠を仕掛けておいたよ。幸いにして使うような事態にはならなかったけど。例えば槍状に研いだ木をしこたましき詰めた落とし穴とかがその一例」
「一つの策が失敗しても状況を挽回できる方法は準備していたわけだね。さすがはきーちゃん。姑息な手を使わせたら右に出るものはいないというわけだ。カッツェのことはよく理解できたよ。それじゃあ次に――」
ミミ。
そこから先は――聞かないでくれ。
心の中で願う。
そんな願いは叶わないと理解しながら。
報告しろ。報告しろ。それが僕の責務だ。
「――異世界転生者を殺害した時のことを話してくれるかな」
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