第一章5  『分断工作』

「確かにその仲の良さは普通ではないかもね。だけどそれならきーちゃんは転生者の異能による精神支配の可能性は疑わなかった?」


「僕の知りうる限り、あれだけの時間精神支配を維持するのは無理だ。異世界転生者の異能は未知数だからなんともいえないけど、僕は違うと判断した。――これは僕の2ヵ月間で得た総合的な判断だ」


 精神支配とは明らかに違った。彼らの絆は本物だった。

 互いを思いやっていた。いや、考えるのをやめよう。

 それは報告には必要のない情報だ。


「そっか。そうだね。ミミも異存はないよ。それにしてもあの街は彼の縄張り。なんでわざわざ地の利がない街中で暗殺しようと思ったの?」


「僕が雇っていたフリーランスの探偵経由の情報で、彼とシーフの子が逢引する場所と日時を事前に把握していたからだ。それが僕が彼を殺せる唯一のタイミングだと考えたからだよ」


 これから幸せになるはずの二人を殺した。なぜ? 悪人の僕なら――幸せの絶頂に絶望に突き落とせば一番苦しみを与えて殺せると考えたのだろう。そう考えれば納得がいく行動だ。


「二人だけならきーちゃん一人でも仕留められると考えたわけだね」


「シーフの子が厄介だったから、彼らの逢引先の店主に猫科の獣人にとっては劇物マタタビ酒を村人からの贈り者として渡すように仕掛けた」


予想した以上に――効果は覿面てきめんだった。


「ミミやきーちゃんには分からない感覚だけど、猫科の獣人にとってはマタタビ酒はちょっとしたドラッグみたいなものらしいね。ちょっと飲んだだけでも酩酊めいていして意識を失ったりもするって話だね」


「首尾よくマタタビ酒を飲んでくれたよ」


 なんで疑ってくれなかったのか――。

 そんなんだから僕のような悪人に殺されたのだ。


「獲物は弱らせてから仕留める。合理的な戦術ではあるね。街の大賢者様としては、町人からの贈り物を拒めるはずもないからね。ましてやそれが罠とは思いもしなかっただろうね」


 ミミは何を思ったのか小さな手のひらで僕の頭を撫でた

 胸のどこかがチクチクと痛む気がする。


「そうだね。猫科の獣人は種族スキルとして夜行性ノクターンがある。日中でさえ真っ向勝負で分が悪いのに夜ならなおさらだ……。だからハンデを埋める策として事前に毒を一服盛らせてもらった」

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