第一章1  『転生者殺しの咎人――桐咲 禊』

 僕は桐咲 禊きりさき みそぎ15歳。


地球という異世界からの転生者であり、

高校生であり、アサシンであり――そして悪人だ。


 JK社長のように学生+職業+αの肩書の組み合わせでレア度をを高めたい的なアレだと思われると少し辛いものがある。多感な15歳。あまり悪目立ちはしたくないのだ。


 地球からこの世界に転生したのは5年前のことだ。転生時は右も左も分からない状態で飢え死にしかかっていたところ、ハーフリング族の少女に救われなし崩し的にその後、彼女が過ごすここ教会で過ごしている。


 僕に課された責務は異世界からの転生者の暗殺だ。


 これはアサシンとして課された仕事というよりはハーフリング族の少女との”約束”と言ったほうが正確か。――無価値な僕が唯一生きる意味でもある。


 とはいえ、僕の所属している組織教会の中ですら、異世界人の実存については半信半疑な人間が多いのが実情だ。


 なので、教会内においてほぼ有名無実化している名ばかり部署だ。そう。僕が殺めた異世界転生者峰岸亨みねぎしとおるの一件があるまでの話だが。


 僕が所属するのは”第零課正史編纂室マドギワ”という部署である。高校生兼アサシンと自称してはいるものの、僕のほとんどの時間は意味のない教会史の編纂デスクワークに費やされている。


 ざっくり言うと、地球における社史編纂課のような窓際族のために設けられた部署である。教会に対して直接的な利益をもたらす部署ではないため、マドギワなんていう不名誉な称号をもらっている次第である。


 この部署に配属されているのは僕の他には、研究狂いのロリっ子ハーフリングこと僕の上司ミトスフィア・ミーリアの2人といった惨憺たる状態である。


 ちなみに上司を呼ぶときは“ミミ“と呼ばないとパンチが飛んでくるので、注意が必要である。


なんというパワハラ上司――。

猫パンチほどの威力しかないんだけどね。


 このハーフリングの上司様ことミミは、

研究さえできれば他に何もいらない

というひとことで言えば狂人だ。


 自分の職場に籠城し、一歩も外に出ない。

引き籠りかつ生粋の労働厨ワーカホリックだ。

そしてロリっ子。大事なことなので二度言いました。


 ミミの行っている研究だが、同じ部署に所属していながら正直よく理解していない。ミミから説明を受けたこともあるのだが、難解すぎて何を言っているのかさっぱりだったのだ。以後アホだと思われたくないので質問しないようにしている。


 僕と同じくらいの年のようだが、

ミミの容姿をみる限り人族の幼女にしか

見えないのは種族的な違いによるものである。


 ミミは知識だけならば禁書指定資料を

閲覧することが許可された枢機卿クラスだ。


 ただ、性格に難があり――。

扱いづらい人材ということで、

僕は専らもっぱらミミの世話係を任されている。


 ミミが僕に異常に懐いているから

任されているのが一番の理由であろう。


 僕はミミの部下として、ミミの朝夜の服の

着せ替え、入浴、食事、歯みがき、といった

日常生活に必要なこと全般を担当している。


 とても手間がかかる上司様である。


 このロリっ子は僕が世話しなければ、

延々と研究をしたまま寝食を忘れて

過労死するのでは? というくらいに

研究にしか関心のない異常者マッドサイエンティストだ。


 ミミが枢機卿クラスの優秀さであるにも

かかわらず、僕なんかが第零課正史編纂室マドギワ

に所属できているのは要するにミミのコネである。


 ただ悲しいかな。


 心のなかで僕たちのことを

「ただ飯食らいのクソ野郎」

と思っている人も多いようだ。


 というか昨日教会の廊下で見知らぬ人に「ただ飯食らいのごく潰しのクソ野郎」と知らない奴に言われた。ご丁寧に僕の想像+「ごく潰し」という言葉が追加されていた。


 ……辛辣妥当な評価である。


 僕の所属するこの「教会」は名目上、孤児院兼寄宿舎つき中~高一貫学校という体になっているが、その実態としては暗殺などの汚れ仕事を請け負う人材暗殺者を育成する機関である。


 ただ、どういう経緯で入学しているのかは知らないが、貴族や名家のご子息やご令嬢も入学しているようだ。


 貴族の隠し子的なアレなのか、ワケアリ的なアレなのかは知らないが、裕福な家柄で有りながら、子供をここに入学させる時点でろくな親ではないだろう。


 ロクな事情ではあるまい。

深入りしないほうが身のためだ。


 ここは原則は暗殺者を育成することを目的とした学校である。とは言えこの学校では暗殺術のみを教えるわけではない。暗殺者の中で最重要な能力は一般社会にモブAとして溶け込むことできる潜伏力である。


 教会の卒業生はその後病院、学校、公的機関等々のさまざまな職につきそこでの諜報活動および、本部から指示があれば要人ターゲットの暗殺を実行する。


 卒業後にどこにも就職できなかった卒業生は、受け皿としてこの教会で働くことが一般となっている。だからかここの先生は生徒にあんま尊敬されてない……悲しい現実である。


 そんなわけで、卒業後に一般社会でも最低限やっていけるだけの一般常識的な知識は授業の中で学ぶことができる。


一例だが、昨日僕が受けた授業はこんな感じだ。


◆◇◆◇◆


 ◇授業科目◇

 一限目:人体

 二限目:詐術

 三限目:体育

 四限目:神歴

 五限目:常識

 放課後:第零課正史編纂室ミミの引き籠り部屋仕事雑用


◆◇◆◇◆


 人体では人間・獣人・エルフなどの

多種族の身体構造の学習と、暗殺の

際に狙うべき急所について学ぶ。


 詐術とは言葉や身振りで相手を

あざむく方法を学ぶ授業。


 体育では筋トレや刃物の

投擲練習などを行う。


 ここまでは、暗殺に特化

した授業である。


 神歴については、旧神旧支配者

支配していた1000年前から新神召喚者

が打倒し現在に至るまでの歴史を学ぶ。


 常識の授業では一般の学校で

学ぶような常識的な知識を学んでいる。


 今日は、先日僕が殺した。暗殺者「峰岸亨」について――。僕の上司ことハーフリングの研究狂のロリっ子に報告を行う日である。


 目のまえの気だるそうにしているロリっ子幼女ミミは、この異世界でぼくを

「きーちゃん」と呼ぶ唯一の存在だ。


 それにしても。

あの一件から頭が割れるように痛い……。

眩暈めまいと耳鳴も酷い。


 ――呪い。


 否。その考えは完全なる僕の甘えだ。僕のような咎人に対する罰としてはこの不調はあまりにも軽過ぎる。ただミミにだけはこの不調故障を悟られたくない。



「おはよ。きーちゃん。一応キミからのレポートも目を通したけど、きーちゃんの文章めっちゃ下手くそー。ぜんぜん理解できなかったからきーちゃんの口から直接説明してね」

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