第零章13 『開幕』
正式に契約された奴隷と所有者との間には、ある種霊的な繋がりが生まれる。ただその繋がりは――かなり曖昧なものであり、普段はその繋がりを意識することはできない程度のものである。
感じとることができる時は
所有者または奴隷のどちらかが
明確な危機に瀕した時である。
「虫の知らせ」や「嫌な予感」
のような漠然とした感覚を主従双方で
状況を把握できるようになるのだ。
「嫌な感覚だ……。カッツェが危ない。元来た道を戻りカッツェに助勢するぞ」
《マスター。この感覚はカッツェはもう……。マスターは逃げる事に専念を!》
「君の助言だから正しいのだろうね。だけどその正しい提言に今だけは従えない。俺の命を無駄に使うわがままを許してくれるかい。ソフィア」
《マスター。私は常に『最適解』しか提示することはできません――。だからあえて私の提言を蹴り、
本当に大切だと思うことのために行動する。そのマスターの姿勢を尊いと感じます。ですが――。》
「はは……。ずいぶんと感傷的なことを言うようになったね。ソフィア。だけど、あんまかっこいいこと言ってるとあとで恥ずかしい想いするぞ。カッツェも俺たちも生きて帰るんだから」
《ただのマスターの
「おいおい! 俺のことをウィルスみたいに言うなよ」
不安を少しでも和らげるための
◇◆◇◆◇◆◇
カッツェの居た裏路地についた。
「嫌な予感」は続いている。
「おい――姿を現せ臆病者。てめーが命を狙ってる男はここにいるぞ」
《マスター。周囲索敵していますが――人の反応を検知できません。マスターも引き続き目視での警戒を。》
コツコツコツ……暗闇から足音だけが響く。
足音は一つ――カッツェのものではない。
「カッツェはどこだ。答えるなら……お前の命”だけ”で許してやる」
何者かが近づいてくる足音だけは聞こえるが答えはない。
うっすら人影が見える――おそらくは男――だが顔がみえない――。暗闇のなかで影がバスケットボール程度の大きさの「何か」を放り投げる姿が辛うじて見えた。
ドチャッ……ゴロ……ゴロン――
そのボールは一回地面でカボチャをたたき潰したような鈍い音を立ててバウンドしたあと――峰岸のあしもとにゴロゴロ転がり、つま先にぶつかった――。
――刹那。脳が目に映る現実を拒否。
あれは紅い バスケット ボール。
口元 ガムテープで 覆わ れ
でも バスケット ボールに口
なんてあった? 口があ
人間? 生首 紅い首 口元
覆われた 首 誰 の?
「があぁぁあああああぁあぁああああああああああ!!!!!!!!!」
《足元――高エネルギー反応! 緊急回――。》
ズドン――
足元で間の抜けた爆音
峰岸の足元でスイカが破裂した
スイカの骨の破片が全身に突き
刺さる右 の目見えな い。
目から 汁があふれ出す……
これは紅い 涙?
体が ふらつく……。
はは……今日はお酒飲み過ぎた かな。
今更になって 酔いが回ってくると
は男として情けない。
そういえば一緒にいた カッツェは……
足元だ っけ? さっきまでそこにあった
紅いバスケット ボール
を見るために視線を下にやる…
あれ……右の 足がない……あっ倒れる。
ドチャッ…… 片足を失った峰岸は
バランスを失い、地面にうつ伏せになって
倒れる土と鉄のにおいがする
――この赤は彼女の……?
それは明確な殺意を伴った爆発であった。
峰岸が即死を逃れられたのは炸裂弾の爆発の直前にソフィアが
《――……スター。マスター。死なないで。マスター。》
失いかけた意識のなかで……誰かの声が聞こえる。頭に鈍痛。全身が熱い……痛い……それはどうでもいい、右の足がない……それもどうでもいい。
右の眼球がない……それも構わない! アイツさえ殺せれば――。こんな
グチャグチャに圧し潰され破壊された精神と思考が……怒りと憎しみ。ただ一つの願いによってカミソリのように研ぎ澄まされ再構築される――。
目の前の男を殺すというただそれだけの願い。
「ソフィア。目の前の男を殺す方法を直接脳に投影しろ」
《了解。戦闘継続のため最低限の処置が必要――
――――――――――――――――――――
1.
2.
3.
4.
――――――――――――――――――――
「連続詠唱開始。
《了解。前方から鋭利な投擲物が四――右上体をひねり回避を》
急所は避れたが、脇腹に刃物の感触。出血。
――戦闘継続になんら支障はない。
「あらら。君のお友達の口に爆薬をしこたま突っ込んで確実に君を殺せるだけの生首爆弾にしていたんだけど。
まだ息があるとは意外! もしかして君の恋人とかだったりしない――よね? 所詮はお金で売り買いできる奴隷だもんなぁ――大賢者様」
へらへらとした口調で男が語る
「動揺を誘うことのみを目的にした感情も意味もない単語の羅列――。それは言葉ではなくただの音。語り合うことに――意味はない」
《アレは虚無――言葉に
「
《
*******************
生あるものに災いを!
《――死にゆくものに絶望を!》
善行成すもの罰せられるべし!
《――悪行なすもの呪われるべし!》
*******************
この世の悪意を体現した漆黒の球体が放たれる。
その禍々しい呪いの塊が――
――
暗黒の球体が肉体を丸のみにし
肉体をグズグズと腐らせる
その腐った屍肉を球体の中の
ナニモノかが味わうように何度も咀嚼
グチャグチャグチャグチャ……
球体から赤い血だけがあふれ出し
球体の下に紅い影を作る
消えかける意識のなかでその凄惨な光景を観続けた。
何の感慨もない――すべてが終わったのだ。
大好きな■■■■に見えたのも気のせいだ
疲れのせいだ。これは――夢だ。
明日は■■■■とダンジョンに行く約束を
していたのだから早く寝な……いと
ヒュッ――
消えかけていた最後の意識の中
首元で小さく風を斬る音がした気がした。
これもきっと気のせいだ――
「君を殺し――君の愛する者の死体を二回も冒涜したのは僕だ。――だからせめて僕を呪ったままで逝ってくれ」
彼岸花が咲き誇り
舞い散る鮮血の花びらが
―――――――――――――――――――
異世界転生者峰岸亨の心音停止を確認
おめでとうございます
「
「
「
―――――――――――――――――――
「……。さようなら異世界転生者
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます