第五章

 首相の呼びかけで国中の人々が宮殿の前に集まった。

 地球と言う世界の人々に比べれば、その数は多くはない。村、という単位に収まるという。巫女姫たちの用意していた村への移動は巫女姫の力一つでできるらしい。けれど、その先は自分たちの努力次第だ。

 月が沈んでいく。

 あと四度沈めば、この世界は終わる。

 人々が息を呑んで時間の経過するさまを見ている。

 世界が沈む前に、彼らは旅立つ。

 朝になれば巫女姫が宮殿の祈りの広場で祈りの歌を歌う。特別な、歌だ。

 そうなれば、人々は異世界へ飛ぶこととなる。

 女神の祝福があらんことを。

 人々の祈りが巫女姫の力になる。

 メルはポモドではなく、お気に入りの白いワンピースを着て祈りの広場にいた。赤いシミはそのままだ。それはゲイルの瞳と同じ色だから。いつも側にいると思いたいから、そのままにしてある。

 メルは瞳を閉じて時を待つ。少し離れた参列者の席にゲイルがいる。彼の息遣いまでも伝わってくる。彼も緊張している。

 メルはそう思うと知らず微笑みが浮かんでくる。彼もメルと同じだ。

 朝陽が昇った。

 メルは目を開け、音を紡ぎだす。

 女神へ、一生の祈りの力を込めて。

 言葉を、音を、きちんと届けて。愛する人たちを異世界へ無事に運べるように。

 朝陽が輝きを増す。

 世界を、光が包んでいく。

「メル」

 ゲイルが駆け寄ってくる。

 しかし。

 メルには手が届かない。

 透明になっていく彼の手に、メルは手を伸ばした。

 手は触れ合う距離で、消えていった。

「ゲイル、大好き」

 メルの囁きを聞くものは誰もいなかった。

 そして。

 大波が彼女を襲う。

 祈りの代償に、世界の期限は進められたのだった。




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