『俺』

八月二十六日水曜日。浅羽さんの家に寄った後、自宅で一息ついてから、池野にラインした。

「土日のどっちか遊ばない?」

 すぐに既読がつき、返事が返ってきた。

「いいけど、東京まで来るの?」

 池野、彼女は、高校入試を機に、彼女の仕事に集中したいから、などという理由で東京に移住した。一人暮らしだ。彼女の仕事は……、何だっけ、モデルとかいってたな。深く

は教えてくれなかった。

 前々から計画していた、「池野の家に行く」は、成功しそうだ。

「それでさ、金曜学校終わってから電車で行くから、泊まりで頼む」

 既読はついたが、返事はすぐには返ってこなかった。

「いいけど」

 その四文字にどんな意味が込められているのか考えた。あの間、からの躊躇い。遠慮。戸惑い。

「俺が、いろいろ買ってくるから、あんま準備しなくて大丈夫」

 群馬の片田舎から、電車で何時間かかるだろうか。お金の面も相当だ。彼女は、そんな心配をしていてくれるに違いない。いや、きっとそうだ。そう、願ってる。

「わかった。こう、待ってる」

 喜んでいるスタンプとともに送られてきた。

 こう、とは彼女が使っている俺の愛称で、とくにその名前になった理由はなかった気がする。

 二、三秒して、浅野さんから、ラインが来た。

「ね、明日また来れない?」

 浮かれていた気持ちから、すぐに現実に戻された。


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