「詩集 永劫」(9月)

舞原 帝

27.あなたがいる

自分の目で見たことも 自分の耳で聴いたことも

信じられなくなってしまっては もう本当のことは何もわからない


すぐそこに見えるそれは 幻覚かもしれない

すぐそこで聴こえるそれは 幻聴かもしれない


幻覚だと首を振ったものの中には あなたの姿があった

幻聴だと肩を竦めたものの中には あなたの声があった


見間違う筈のないその姿に 触れたいとさえ思った

聞き違える筈のないその声に 答えようかと思った


でも 触れていい筈も 答えていい筈もないことは分かっていた

本当のあなたは それすらも出来ない場所で 姿も声も失くしたまま・・・


私が 確かに見たのは 瞼の裏に焼き付いたあなたの姿だった

私が 確かに聴いたのは 耳に残ったあなたの声だった――


目が覚め ふと隣を見るとあなたがいた

あなたは私の頬を伝う涙を拭うと 優しく髪を撫でてくれた

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