5.忘れえぬ人
上辺だけの人生でもなぞることが出来れば良しとする
生きるも死ぬもさじ加減でどうとでも転べるのだからと
形だけの人生を見切り見限り一刀両断
血も涙も出ない汗一つかかない一生など切り捨ててみせよう
自己とは悲観も楽観も綯い交ぜになった存在であると
そう決めつけた私の中にはさらに否定や肯定も共にあって
それだから羨むあなたのその透き通った芯に私は焦がれた
時に笑い時に涙しながらも触れられないその一定の距離の間で
否応なく生を与えられ死をちらつかせられた一人の人間が
自負心と謙虚さを秘めたその胸を自ら引き裂き無垢へと還ろうとした
私はあなたに出合えた――だから生きようと思った
なのにあなたは一人の人間であろうとして何をも拒んだ
あなたは私に教えてくれた――この世界で生きることには価値があると
でもあなたは性を捨て故に愛を忘れ孤独に溺れていった
私の上辺だけの人生はなぞるだけで終わってしまった
結局切り捨てたはずの形だけの人生になってしまった
それでも私はあなたのあの透き通った芯に焦がれ続けることで
自らの胸を引き裂いても無垢へと還れなかった一人の人間のことを
この生きる価値があると信じるしかない世界で覚えていたかったのだ
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