第100話 最終チェックポイント・終了

 アクアによる活躍により第一チェックポイントを突破してから、しばらく。ルイ率いるルイ班は幾つかのチェックポイントを突破して、山頂までに最後のチェックポイントに到達していた。そこで一同は運営委員から提示された捜し物をさせられる事になり、アクアは全体の連携を補佐する役割を担う事となっていた。


「……何も無さそうですね」

「そうですね……上空からは流石に発見出来ないかと」


 流石に去年と同じ事はしてこないだろう。飛鳥はアクアの言葉にそう思う。去年も彼女は同じ様に全体の補佐として使い魔を使って探索範囲全域を確認しており、先に彼女が述べていた罠の解除方法が書かれた紙も彼女が見付けた物だ。

 そして去年の面子が何人も参加している事は運営側も知っているだろう。同じ事はしてこないと思っていた。と、そんな彼女がふと顔を上げる。


「……あ」

「どうしました?」

「少し離れすぎです。戻りなさい」


 飛鳥が目を閉じて、誰かへとそう口にする。そうして、彼女がすぐに目を開けた。


「ごめんなさい。小学生の子が一人、少し班から離れすぎになってしまいましたので、注意していました」

「ああ、そういう……」


 という事は、今のは使い魔の口を借りてその小学生の子に語りかけていたのか。アクアは飛鳥の先程の気付きをそうなのだと理解する。こうやって小学生の子がはぐれてしまわない様にするのもまた、彼女らの役目だった。


「にしても……本当に見付かりませんね」

「まぁ、どちらかと言えばここは時間調整の意味合いもありますから」

「そうなのですか?」

「ええ。あまり早すぎてもあれですし、遅すぎても待たせる事になりますし……」


 早すぎても遅すぎても、先に到着した班を待たせる事になってしまいかねない。なので基本的にこの捜し物はレクリエーションの最後の方に持ってこられて、時間調整に使われる事になるそうだ。

 なので時間が掛かったり痕跡が見付からなかったりする場合は往々にして実行委員が隠して見付からない様にしている事が多いらしかった。競争とは言ってもそこまで過度な優劣を生まない様にする配慮というわけなのだろう。


『ということは、あの一部だけ強い隠蔽は言わない方が良いんでしょうか』

『そうだろうな。言わない方が良いだろう……おそらく、ルイ様もこの時間調整は理解している。であれば、という所だろう』

『でしょうね』


 実のところ、アクアは捜し物が隠されている場所に気が付いていたらしい。が、これをどうするべきかまだわかっておらず、対応に困っていたようだ。

 ルイが気付いていながら放置していたので彼に聞いてみる方が良いか、と丁度考えていた所だった。とはいえ、それならそれで気になりもしたので、彼女は少しだけ使い魔を近づけてみる。


『これは……少しだけ盛り土になっていますね』

『埋めた、というわけか。が、隠蔽がなければわかりやすいな』

『単に不自然に盛り上がっている部分をそうでない様に見せているだけですが……よほど近付いて触れでもしなければ大丈夫でしょう』


 高度といえば高度だが、同時に先のルイほどの腕はない。アクアとカインは盛り土の様子を見て、そう判断を下す。

 なお、ルイが気付いている、と判断した理由は敢えてここを逸れる様に移動したのが見えたからだ。明らかにわかっていて触れない様にした。そうとしか言えない動きだったらしい。


『それに……あれはおそらくルイ会長の使い魔でしょうね』

『おそらく。離れる一瞬であの場に編んだんだろう。見事なものだ』


 あの一瞬で自分がどうするべきかを見極めて、最速で最善の手を打っていた。そんなルイ――彼はモモンガに似た使い魔を編んでいた――にカインは一つ称賛を述べる。

 あの年齢でこれなら、十分に一流に育つ事が出来るだろう。長く魔術に関わった一人として、カインは太鼓判を押す事が出来たようだ。と、そんな話をして動きを見せないアクアに、飛鳥が問いかける。


「何かありましたか?」

「……いえ、何も。単に少しコントロールが疲れたので、休ませただけです」

「そうですか」


 なら良いか。疲れたら休む。それは全ての鉄則だ。特に使い魔は高度な技術だ。休む事も必要だった。そうして、アクアは再び小鳥型の使い魔を飛翔させて全体のサポートを行う事になる。と、そんな所にルイからの連絡が入った。


『アクアくん』

『あ、はい。なんでしょう』

『君も気付いているだろうが、後十分ほど放置してくれ。実行委員からもそう来ていてね。どうやら、御剣くんの所が第二チェックポイントの所で少し苦戦したらしくてね。少し遅滞が生じている』

『かしこまりました』


 やはりルイも気付いていたか。アクアは彼からの言葉に承諾を示す。別に一番にチェックポイントにゴールしなければならない、という事はないのだ。

 なら、気にする必要はなかった。というわけで、アクアとカインはそれからしばらくの間、見付からない様に放置する事にするのだった。




 さて、アクアが巧妙に隠蔽された盛り土を発見しておよそ五分と少し。彼女は再度ルイから連絡を受けるに至っていた。


『アクアくん。そろそろ良いと実行委員から連絡が来た。すまないが、中学生チームを誘導して例の場所に連れて行ってあげてくれ』

『誘導……ですか』

『方法は君に任せる』


 つまり上手くしてくれよ、という事か。どこか楽しげに、それでいて試すようなルイの言葉の裏をアクアはしっかりと理解する。


(となると……)


 少し言葉には気をつけないといけないか。アクアは一度使い魔を飛翔させて、探索範囲全域を確認。今ヘルトやリアーナらが居る所を確認する。


(多分、ヘルトさんは理解していますよね)


 なにせ彼は学内有数の腕利きだ。こういった隠蔽に気が付かない道理はない。特に山中ではああいった偽装はよくやられる事で、軍事訓練の一環として慣れていて不思議はなかった。


(なら、彼に協力を頼みましょう)


 現在、高校生・中学生チームを率いているのは彼と考えられた。一番統率役に向いていたし、腕も立つ。彼と話をするのは自然だった。というわけで、アクアは使い魔を操って高校生・中学生チームの所へと舞い降りさせた。


「む?」

『ヘルトさん。少々、よろしいですか?』

「この声は……アクア嬢。如何した?」

『いえ、ルイ会長からの指示を伝えに来ました』

「そうか。聞こう……全員、一旦停止してくれ」


 やはり案の定、ヘルトが率いていたか。彼の指示で止まった班を見て、アクアはそう考える。そうして、彼女はルイの指示を偽って話をする。


「頼む」

『はい……一旦探索場所の入れ替えを行おう、との事です。どちらも見付からないので、入れ替えてみてわかる事もあるだろう、と』

「なるほど。確かに、道理だな。了解した。ルイ会長にはそれで、と伝えてくれ」


 ヘルトとしても、こちら側で見付からない事はわかっていたし、アクアが来た事と経過時間からおおよその推測は出来ていたらしい。どこか訳知り顔で頷いていた。それに、アクアもまた頷いた。


『わかりました』

「うむ。では、向こう側に向かおう」


 アクアの使い魔が再度飛翔したと同時に、ヘルトは少しだけゆっくりな歩みで盛り土の方へと歩いていく。それを下に、アクアは使い魔を上に上げてそれと同時にルイに連絡を入れた。


『ルイ会長』

『何かな?』

『今、盛り土の方へ中高生チームが向かいました。探索場所を入れ替える、という名目にさせて頂きました』

『なるほど、それは良い手だ』


 上手くやれば、場合によっては移動の最中に見付けた事にしてこちらの手柄にする事も出来る。無論、このまま中高生チームの手柄にしてしまうのも良いだろう。


『よし。せっかくなので、全員の手柄にしてしまおう。アクアくん。こちらも少しだけゆっくりしてから、盛り土の所へ向かう。一旦そこですれ違える様に、ヘルトくんに密かに伝えてくれ』

『わかりました』


 せっかくアクアが上手く手配してくれたのだ。どうせなら、全員で一緒に見付けた事にしてしまうか。そうルイは考えたらしい。

 それにアクアはその意向をヘルトへと伝え、自身は飛鳥と共に目印となる様に上空から二つの班の居場所を示させる。


「これで、大丈夫でしょう」

「ええ。後は、発見してもらって掘り返して貰って、それで終わりですね」


 どうやら飛鳥も途中で使い魔数体を森の合間に舞い降りさせ、盛り土に気が付いたらしい。アクアの言葉に同意を示す。そうして、ルイから連絡が来ておよそ五分。二つの班は丁度盛り土の所で合流。アクアと飛鳥はそれを遠目に見守る事にするのだった。




 さて、ヘルト率いる中高生チームとルイ率いる小学生・大学生チームが合流して更に五分ほど。アクアと飛鳥の所には、二つの班が揃って戻ってきていた。


「これが、隠されてあった。間違いはないかな?」

「はい。確かに、確認させて頂きました」


 ルイの持っていた鉄網を見て、実行委員は一つ頷いた。昼食が何かはわからないが、どうやらお弁当などではないらしい。となると、少なくとも焼く可能性が高い料理ではあると察せられる。その際に網が無いでは焼き物はしにくいだろう。


「では、これが最後の地図になります」

「……今年はえらくわかりやすくしてくれたんだな」

「その分、とお考えください」


 地図データを受け取って中身を確認したルイが思わず笑ったのを受けて、実行委員もまた笑う。その地図に描かれた通路はほぼほぼ真っ赤で、ここから先がまるで危険地帯であるかの様に思われた。


「そうか。では、心して掛かろう。ヘルトくん。君も良いね?」

「無論です」

「よし……では、君たちにこれを預けよう。私達の昼食の支度、しっかり守ってくれよ」

「あ……はい」


 ルイから金網を託されて、小学生の生徒が一つはっきりと頷いた。敢えて役割を与える事で冷静さを保たせる。これもまた手の一つだった。

 そうして、一同は最終チェックポイントを越えて山頂を目指す道を通る事にする。が、数分歩いた頃合いだ。雷鳴が轟いたと同時に、周囲が若干薄暗くなる。


「……今年は本当に本気だな」

「雰囲気までは、去年はしてこなかったですね」

「ああ」


 今年は演出にも凝ったのか。ルイとヘルトは少しだけ笑い合う。そして、直後だ。覆面をかぶった、しかし腕に実行委員の腕章を着けた者たちがまるで山頂へ向かうのを妨げるかの様に現れた。


「来たぞ! 全員、戦闘用意! このまま一気に突破する!」

「アクア嬢! 今までと同じく支援を頼む! 飛鳥嬢! そちらは牽制を!」

「わかりました!」

「了解です! 行きなさい!」


 ヘルトの支援要請を受けて、アクアと飛鳥の二人が殿を務めるヘルトらの支援を開始する。そうして、ルイ班の面々は山頂までの道のりを追撃を受けながらも一気に突破する事になるのだった。




 山頂までの道のりで最後の襲撃を受けたアクアらルイ班の面々。そんな彼女らは最終チェックポイントの突破からおよそ二十分後に、山頂へとたどり着いていた。


「はい! お疲れ様でした!」


 山頂にたどり着いた一同を出迎えたのは、クセニアだ。彼女は数時間前の苛立ちを一切感じさせぬ笑顔で一同にねぎらいの言葉を贈る。


「ルイ会長、今年は一番での到着でしたね。お見事でした」

「いや、彼ら全員の頑張りがあってこそだ。特に第一チェックポイントの面々が良く頑張ってくれた。一発クリアは私も想定していなかった」

「ええ……私達としても、まさかあそこを一発クリアされるとは思っていませんでした」


 元々ルイが言っていた事であるが、今回の第一チェックポイントの競技は何時もならもっと後に来るような内容だったらしい。

 彼女の意図としては可能な限り最後の所での調整は使わない様に、と考えて今年はなるべく難易度の高い競技を選んだそうだし、実際ルイ以外の所はどこかしらで躓いていた。


「まさか最後のオーシャンさんが全部破壊してしまうとは思わなくて、後の難易度少しあげさせたんですが……ルイ会長の手腕であんまり効果なかったみたいですね」

「みんなの頑張りのおかげだ」


 クセニアの苦言にも似た称賛の言葉に、ルイは再度全員のがんばりがあってこそと告げる。と、そんな事を話していると、今度はユーディトが現れた。


「兄様」

「む? おぉ、ユーディトか」

「あ、妹の方のヴィーザルさんも到着ですね。お疲れ様です」


 ヘルトとユーディトの会話でクセニアもユーディトが来た事に気が付いたらしい。彼女へと労いを贈る。そうして、それから少し遅れて他の班も順次到着した事を受けて、レクリエーションは昼へと突入する事になるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る