第七頁


五月十五日

くるくる交換日記なんて初めて書くからドキドキします。

色々と自己紹介をしないといけないですね。

ありきたりだけど、まずが名前から。私は久遠 花蓮と言います。私も混ぜてもらうね。

ラブ&ピースとか言いながら、世の中は暗い話、怖い話、そんな物ばかり。

たったこの前にあったF県での事件だってそう。怖かったね。

目の悪い私は暗い夜道は本当に気を付けなきゃ。朋子ちゃんもだよね。このご時世、どんな悪い人が善人の皮を被って生活しているかなんて知れたもんじゃないからさ。

よーし、それでは今日は短めで。またね。久遠 花蓮



五月二十三日

陽が眩しくて、雲がうんと高くて、夏の空みたいだったね。

とっくに梅雨を通り越して夏が来てしまったみたい。

でも、日記はちゃんと続けてるね。よかった。

なんなら、てっきり私を怖がって止めてしまうかと思ったけどみんな強いのね。

しかし、その強気には気を付けて。きっと良くないことが起こるわ。

朋子ちゃん、自転車気を付けてね。久遠 花蓮


五月三十一日

おっとびっくり!あっという間に五月も終わりだね。みんなの心の強さには感心しちゃう。いっそ私も正式なメンバーにしてもらえないかな。

ま、それは冗談として。今日は“闇”について書こうと思うの。

永遠のテーマかもだけど、誰の心にも闇の心ってあるでしょ。言い換えたら悪の心かな。

残された問題は、その存在じゃなくてその闇をどう飼い慣らすかってことなんだよね。

せめて存在を認めて共存ができれば学校はもっとキュウクツな場所じゃなくなるだろうにね。

いい、晴ちゃん、近々プレゼントが届くと思うよ。下駄箱は要チェックだね。久遠 花蓮



「これが差し込まれた日記ですか」

「そう。って、敬語戻ってる。やり直し」

なんだよ、やり直しって。と、喉元まで上がってきたものの情報が訊けなくなるので我慢した。

「え、あ、これが差し込まれた日記だね」

「そう、それでいいの」満足げな燕が頷く。

その他の差し込まれたページも読ませてもらったが、どこか詩的な雰囲気を醸し出した文体と、警鐘を鳴らすような文章で構成された「日記」はどこか一貫した意志を持ったものに見えた。

「ちなみに、この日記が見つかった次の日、朋子の自転車が誰かにパンクさせられてたのが中学校の駐輪場で見つかったの。しかも、カッターナイフで切ったみたいなやられ方でさ。こういうのが大体一週間に一回ぐらいで入ってくるの」

「そんなぁ。じゃあこの日記は予告状みたいじゃないか!」

今まで静かに聞いていた丸山先輩が悲痛な声を上げる。

「アコたちよ」

燕の言うアコとは彼女と同じクラスの高坂亜子(こうさかあこ)である。学校には来たり来なかったり。肩まで伸ばした髪を栗色に染め、化粧をばっちり決めて登校する。先生たちはそこまであからさまな彼女に注意こそするも高坂自身に一蹴されてしまうとそれ以上は追撃をできずにいる。それもそのはずで、彼女の父親は星の杜第一中学校のPTA会長を務めているのだ。その上、地元の地銀の頭取で地域への影響力は絶大。漫画に出てくるような地元の偉人なのだ。そんな人物の娘に何かあろうものなら負けるのはどちらだかなんて小学生だってわかる。詰まるところ、高坂亜子率いる2年4組ギャル一派には実質、誰も手出しができないのだ。

「高坂さんは、その、犯行声明をだしたわけじゃないんでしょ?」

「もちろん、亜子たちは直接なんて言ってこないわ。でも、日記を見て愕然とした私たちを見るあの目。間違いない。あの子たちが犯人に決まってる。あのグループなら人数もいるし、手分けしていろんな嫌がらせをするのだって可能よ」

高坂の話題が出てから急に熱っぽく語りだした燕はそこまでを一息で言い切ると「もういいかな」と席を立とうとする。

「あ、うん。ありがとう。いろいろ詳しく聞かせてくれてありがとう。もしかしたら、また何かで話を聞かせてもらうことになるかもしれないけど、それは平気?」

燕はショルダーバッグを肩に掛けながら答える。

「ええ、もちろん。ただ、約束を守ってくれなかったら分かってるよね」

「うん」オレの声が今日イチ小さくなった。

「燕ちゃん、ありがとね」先輩も燕に声を掛ける。

「いいんです。先輩も何かあったら言ってくださいね」どうしてこうも態度が変わるのだろうか。先輩に対して嫉妬してしまいそうだ。そうこうしている内に、燕が会計を済ませて待夢を出ようとする。

「あ、燕さん最後にひとつだけ」

「なによ」

「あの交換日記ってもともと3人でやる予定で始まったものなの?」

「当たり前じゃない。何当然のこと聞いてんのよ。じゃ」

迷惑そうに目元を中指で少し掻くような仕草をしたと思うと彼女はカウベルを鳴らして炎天下の商店街に出ていった。

「先輩どうしでしたか?」

真弘先輩には打ち合わせの段階で最後にこの質問を投げることを伝えていた。

そして、その反応を一番確認してほしいことも。

「夏目君の言う通りだったよ。燕ちゃんは嘘をついてると思う」

そう言って先輩は乾き切っていたであろうその喉にオレンジジュースを一気に流し込んだ。


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