ようこそ妖精の森へ(意味深)

「最後は果樹園だね!」


「ばぅ!」


「ココは桃が好きなの!」


 ココは食べることに貪欲だ。食べなくて良いはずなのに。はっ、もしや私の影響を受けて食いしん坊になったのでは! ゲームではアシスタントするだけで、飲み食いしなかったし。


 やばい、私のせいな気がしてきた。ペットじゃないけど、飼い主に似るってやつ。何とも申し訳ないので、ココに優しくしようと心に誓った。


 さて、果樹園だけど、まあ、果樹園ってほどじゃないの。ほんとはね。

 リンゴと桃とオレンジの木が一本ずつ生えているだけなの。もちろん季節感なく全部実っている。


「ふふふっ、私はできる子、クルミちゃん。もうシステムは見切っているのだ! これもハサミとか要らないはず!

 さあ、リンゴの木さん、その実を私にくださいな」


 するとリンゴの木がザワザワとそよぎ、私の手にポトっとリンゴを落とした。


「メ、メルヘン!」


 あわわ、ときめいてしまった!三十過ぎなのに!

 三十過ぎで『リンゴの木さん、実を私にくださいな』は痛いという意見は聞こえない。聞きたくない。


 どうも精神が子供っぽくなってきている気がする。みるくと同化してきているのか、肉体と精神の同調のためなのか、分からないけど、子供の演技をわざわざしなくていいのは楽だね。と何事も前向きに、今日も生きていきますよ!


「やはり予想通りこの木も妖精さんなのね!」


「えっ、違うの。仕様なの。でも、あれーなのー? 妖精になってるなの?」


 ココは飛んでいってリンゴの木をぺちぺち叩いたり、幹に耳をつけたりしている。


「ん? 元はただの木だったけど、妖精になったか妖精が宿ったってこと?」


「ばぅ?」


「そうって言ってるの!」


「凄い! 妖精さんばっかりね! さすが妖精の森、ブルーベル・フォレスト!」


 もう、恥ずかしくなるくらいメルヘンになってきたよ。そのうちディ○ニー風にポットとか喋り出すのでは。ポットおばさんみたいに。ダメだよ? ディ○ニーは版権恐いからね? 小学生の卒業制作でも破壊されるんだからね?


 大丈夫、今は私は胡桃じゃない、クルミ・マーガレット・ミルクだから、メルヘンでもおかしくない! 私できる子! 私12歳!


「ブルーベル・フォレスト時代は果樹の種類って、気分とか季節で替えてたけど、もう気軽に替えられないね。果樹園拡大しようかなあ。

 ワイン作ってみたいから、ブドウも欲しいんだよね」


 すると、少女の手の上に一房のブドウが落ちてきました。


「わあ、すてき! なんて美味しそうなブドウなんでしょう。妖精さん、どうもありがとう!」


 少女は喜んでリンゴの木にお礼を言いました。リンゴの木はいいよと言うかのように、ざわざわ揺れました。


 少女と白い犬は嬉しくなってリンゴの木の周りで踊りました。


 はっ!め、めるへん!


 メルヘン過ぎて、世界名作劇場な童話テイストになってしまった。心が洗われすぎたら私ではなくなってしまう! 綺麗なジャイアンみたいに別人になってしまうところだった。


 恐るべし妖精の森。


 メルヘンフルーツを食べたら良い子になっちゃうんじゃないだろうか。後でココに食べさせなくっちゃ。


「なんか良からぬ事を企んでるの!」


「いーえ? ココのために美味しいリンゴを剥いてあげようって考えてたのよ?」


「ほんとなの?」


「タルトタタンがよかった?」


「クルミが不思議な呪文を唱えたの!」


「美味しいよー?」


「ばぅばぅ!」


「そうか、シロは食べたいんだね。ココは要らないみたいだから、二人で食べようね」


 シロは嬉しそうに尻尾を振っている。ココは慌てて飛んできて耳たぶを引っ張った。だから、それやめて。地味にちょっと痛いから。


「ココも、ココも、食べるの!」


「はいはい、じゃあ皆で食べようね」


 しかし、妖精ぱぅわー凄い。なんか敷地内に青果店と肉屋さんができたみたいになってる。その内、泉が湧いたりして魚屋さんもできてしまうのでは。ま、まさかお風呂が妖精の泉とかになってたり、しないよね? 覗きは犯罪だよ?


「それにしても、凄いわ。出さなくていいけど、バナナとかも作れるの?」


 ざわざわ もっちー!


「もうなんか、めるへんぱわーで木の妖精さんの言いたいことが分かってきたよ。なんかノリが軽い妖精さんな気がする」


「もちろん、って言ってるの」


「でしょうね!」


 畑は畑自体が妖精なのかな。ノームさんとか出てきそう。そんなこと言ったら、『呼んだ?』とか言いながら、本当に出てきそうだから黙っておこう。


「このブドウ、黒ブドウだね。赤とか白もできる?」


 ざわざわ、もっちー!


「私、黒はナガノパープル、赤はゴルビー、白は瀬戸ジャイアンツが好きなんだけど、品種は何になるの?」


 ざわざわ、おりじなるー!


「そうなんだ。どんな味なんだろう。楽しみ! カベルネソーヴィニョンとかピノノワールみたいなワインに向いてるタイプだったりして」


 とりあえずワイン作りはブドウの味をみてからにしよう。急がなくてもどうせ私飲めないし。12歳だから。ナイアガラスパークリングが飲みたいなぁ。


 リンゴもオリジナルなんだろうね。日本みたいなやたら甘いのか海外みたいな酸味のある爽やかなのか。


 アップルパイとかは日本のリンゴより海外のサッパリしたリンゴの方が合うんだよね。リンゴのお酒、シードルはどうなんだろう。ワイン仕込むときにシードルも作ってみよう。


「バニラとかカカオとかコーヒーは流石に無理だよね?」


 ざわざわ、れべるがたりないよー


「レベルかぁ。私のレベルのことかな? それとも妖精さんのレベル? 農業レベル?」


 農業スキルにレベル表記はなかったけど。


 ざわざわ くるみのー


 そうか、私のレベルか。またビッグボアは嫌だなぁ。スライムとかが良いなぁ。

 あ、ちなみに妖精さんはクルミって名前を言ってる訳じゃないよ? 私のことっていうニュアンスが伝わってくるの。


「クルミ凄いの! 普通に会話してるの! もう、半分妖精みたいなの!」


 まあ、妖精のように可愛いんですけど! もちろん、みるくがね?


 プレイヤーキャラが妖精かどうかは明記されてなかったけど、妖精の森だから半分妖精というのは、十分ありえる話だね。だからポコポコファイヤーボール使えるのかな。略してポコボール!なんか美味しそうになった。


「じゃあ、私も飛べるかな?」


「妖精でも皆飛べるわけじゃないの」


「あ、そうか。牛さんも鶏さんも飛べないもんね」


 やはり小悪魔セットは必要だね。天使セットもあるんだけど。


「リンゴの木さんも、桃の木さんも、オレンジの木さんもありがとう。またよろしくね」


 もう慣れたもので、それぞれの幹をペタペタ触ってマナを送っておく。


 ツリーハウスに戻ると、プランターにローズマリーやバジル、コリアンダーなどの香草、あとネギなど少量だけほしい物を植えた。 そのうちカモミールとミントも植えよう。


 ハーブは結構繁殖力が強いので、その辺に蒔くのは躊躇われる。


 現実世界での日常の反動で、ホームはお花を沢山飾っていたので、植木鉢やプランターの余りもいっぱいあるのだ。この辺の雑貨はゲームマネーで買えるので、人参などの野菜を売って購入しまくった。


 この花も妖精とか言わないよね? プライバシーが無くなるからやめてよ?


「ウコンはある。赤唐辛子もある。クミンもある。あとはカルダモンとオールスパイスがあればカレーが作れるかな。カレー粉は一応有るんだけど、もう手には入らないかもしれないから、スパイスを集めたい。

 できたらローリエとナツメグ、シナモン、バニラビーンズなんかも欲しいなぁ。胡椒とか山椒も無くなったら手には入らないかも。

 わさびにローリエとかオリーブくらいなら森に生えてるかも。

 あとは、お米、大豆、サトウキビか甜菜、生姜とニンニクを畑で作って…」


 結構やること多いな! スイカなんか作ってる場合じゃなかった!お菓子作りのためにサトウキビから和三盆とラム酒を作りたい。


 ホームエリアには水田はないんだけど、ゲーム仕様のままなら、畑でも米が作れるはず。そもそも畑で作る陸稲って現実あるからね。私が持ってる米の品種は何に近いのかな。

 私、コシヒカリよりもヒノヒカリの交配種の方が好き。水分量少な目の方が米料理にした時に断然美味しくなる。


 あと、もち米かうるち米はないかなぁ。お餅とかおこわとか食べたい。 山田錦があれば日本酒作りたい。飲まなくても和食作るには日本酒がいるのだ。いつか純米大吟醸を造ってやる!


 ゲーム米も多分オリジナル米だろうけど、一種類しかないんだ。長粒種と中粒種、そのまま食べる用とお酒用とか色々ほしい。

 日本人に対してお米が一種類とか全然ダメだよ、分かってない!


 どうもヨーロッパテイストな国だったから、スパイスともち米は手には入らないかも。いざとなったら食材ハンタークルミちゃんとして世界を廻らなければなるまい。


 街で小麦は硬質・軟質両方あるのか見てこなかったなぁ。


 うちの小麦はどっちだ?小麦も米と同じで一種類しかないの。何種類か用意してほしかったなぁ。デュラムとかあったら生パスタとか作るのになぁ。


 小麦は米と一緒で主食になるからとても大事。


 硬質小麦は強力粉になってラーメンやパン用、中間質はうどんとか、軟質は薄力粉で天麩羅とか所謂粉もん用。グルテン形成のしやすさが違うの。ざっくり言うとグルテンがたくさんできるとモチモチして腰が出る。サクサクさせるにはグルテンは少ない方が良い。


 街でナポリピザとパスタがあったから硬質小麦の強力粉はあるだろう。薄力粉が手には入らなかったら蛋白分解酵素でグルテンを阻害するしかないかなぁ。強力粉の天麩羅なんて絶対美味しくない。ああ、野菜の天麩羅たべたい。


 あと、飲み物はどうかな。コーヒーは無くてもいいや。お茶はランチしたとき紅茶だった。緑茶は売ってるかな? 無かったらお茶の木も少し欲しいな。紅茶も緑茶もお茶の木は同じなんだよ。プチ茶畑造って、緑茶は蒸して揉んで天日干しだったかな?


 ココナッツミルクも欲しいな。椰子の木ないのかな。


 んー、なんか生産意欲が強すぎておかしいぞ? はっ、もしや、作業着の第一次産業・第二次産業増強ってのが作用してるのでは!


 恐っ! 呪いの装備か! デロデロデローン!


 私、お酒弱いからそんなに酒にこだわりないのに、ワイン、シードル、ラム酒、日本酒って、どんだけ酒造りしたいんだ。ドワーフか! ワインだって赤白、スパークリング、デザートワインくらいは作るつもりになってた。恐いわー。


 緑茶のために茶畑造ろうって、そんなのおかしいよね!?


 でも肉じゃがには和三盆と日本酒を入れたい…ケーキにはラム酒を入れたい! あとお茶漬けしたい! 抹茶も飲みたい! やっぱり玉露も作ろう! 麦茶も作ろう! 麦酒も作ろう! ひゃっはー! やるぜー!


 だ、ダメだ! 早く着替えないと色々作り始めてしまう! クラフト妖精になってしまうよ!?

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