スーパーシェフクルミ

『みるくのぱんつ:初期装備の白いパンツ。その純白は原初にして至高。決して穢れることはなく、何者にも汚されることもない』


「へ、変態だー!」


 パンツを洗うべきかどうか、パンツをしげしげ眺めながら考えていると、何とも変態紳士なアイテム説明が出現した。


「一体誰がこんな頭のおかしい説明文を? プログラマーなの!? イースターエッグってやつなの!?」


 仕様とは別のおふざけをこっそり仕込んだものをイースターエッグという。


『レースの高級下着:スケスケ。見えそうで見えないレースで大切な物を隠す。老若男女を魅了する。セット効果:絶対魅了。レジスト不可』


「うっさいわっ!」


 もしやと思って別のパンツを調べてみたら、変態説明だけじゃなく、変態能力まで設定されていた。


「こ、これは絶対履けないね。パンチラしたら浚われそう」


 頭がおかしくなりそうなので、パンツ以外を調べてみることにした。朝ご飯用のフルーツをじっと見詰める。


『ムース貝:美味しい』『ミグの実:多分美味しい』


「ちょっと待て! パンツと力の入り方が違うんですけど! 多分って何よ、多分って!

 バグってるのかなぁ」


 体を拭いたタオルを見てる。


『ふかふかタオル:ふかふか、ふわふわ、いい匂いのタオル。汚れを拭き取っても汚れない。完全防汚仕様。一切の不浄を分解する』


「どんだけ高性能タオルなの!?」


 うーん、ゲームアイテムには詳しい説明がついて、この世界の物には適当な説明がつくのかな?

 魔道具はどうなんだろう。


『洗濯乾燥機:要らない子』


「ひどっ! これ何かゲーム側の主観に基づいてるよ? 誰かどこかから見てるの!?

 もうちょっとちゃんと説明して!」


『洗濯乾燥機:魔力により稼働する。自動で洗濯から乾燥に移行する。乾燥は生地が傷みやすい』


「何かちょっと真面目になった! 誰か見てるよね!」


 恐ろしくなって思わずキョロキョロしてしまうが、ココがゴロゴロしているだけ。


「ココ! この変なアイテム説明どうなってるの?」


 ココは眠そうな目を擦りながら、欠伸をした。


「アイテム説明は簡易モードがデフォルトなの。詳しくって言うから詳細モードになったの」


「パンツとタオルは元々詳しかったよ?」


「創造主の熱いパトスが封入されてるの。あれでも簡易モードなの。詳細モードだと10ページくらいになるの」


 聞かなきゃ良かった。ちょっと気持ち悪い。パンツだけじゃなくてタオルにも変なこだわりがあるのかな。


「じゃあ、気持ち悪いし、簡易モード? って言うか、もうちょっと程々の設定はないの?」


「わがままなの! じゃあ、家の物は簡易モードで他の物は詳細モードにすればいいの!」


「どうやるの?」


「仕方ないから、ココがしてあげるの!」


 流石アシスタント! そんなことできるんだね。


「これってよくある鑑定とは違うのかな?人のステータスとか見れる?」


「無理に決まってるの」


「じゃあ私のステータスも見れないの?」


「やってみるの!」


 クルミ・マーガレット・ミルク

 LV:5

 スキル:料理、手芸、農業

 魔法:火魔法

 装備効果:小悪魔魔法、眷属召還、飛行、魅了


 名前! マーガレットになってるよ!

 ま、まあ、いいか。誰に見せるわけでもないし。


 細かいステータスは出ないみたいだけど、スキルとか出てくるだけでも嬉しい。料理は良いとして、手芸・農業はほとんどやったことないんだけど。もしかしてゲーム上の手芸・農業かな? それはひたすらやったからそうかも。


「レベル5だって! ビッグボア倒したからかな?」


 火魔法は装備効果じゃないのかな? そう言えば火魔法しょぼかったから違ったのかも。

 じゃあ、服を着替えても火魔法使えるのかな? まあ、コンロがあるから使うことないかもしれないけど。


 違うコスチュームに着替えて調べてみよう。


 クルミ・マーガレット・ミルク

 LV:5

 スキル:料理、手芸、農業

 魔法:火魔法

 装備効果:回復、診断、調剤、癒やしの手


 ナース服は回復が付いた。診断、調剤ってナースじゃないと思うんだけど。そんなこと言ったら回復もそうだけど。火魔法は私に付いてるみたいだね。


「あ、そうだ! 良いこと思いついた!」


 私は再び服装を替え、コックコートに身を包んだ。


 クルミ・マーガレット・ミルク

 LV:5

 スキル:料理、手芸、農業

 魔法:火魔法

 装備効果:自動調理、高速調理、時短調理、レシピ創造、発酵、温度管理、高速洗浄


「何かいっぱいある!」


 料理は割と好きだから自動じゃなくても良いんだけど、大量に作るときとか便利そう。高速調理はそのままとして、時短調理はよくある時短レシピかな? あれ大体電子レンジ使うのが多いんだけど。


 レシピ創造は便利そう。作り方知らない料理も再現できるかも。発酵はパンはもちろん、ヨーグルト、お酒、醤油、味噌なんか作れそう。温度管理は油の温度とかお肉の内部温度とかかな? 高速洗浄は食器洗いだろう。


 コックさんセットはエクストラじゃないのに高性能だなぁ。


 ものは試しだ、早速朝食を高速自動時短で作ろう!


 さあやるぞと意気込んだ途端、軽い目眩みたいなのを一瞬感じたと思ったら、目の前に出来立ての朝食が並んでいた。


「えええっ!? 高速自動時短過ぎでしょ! 作った憶えがないんですけど!」


「なんか食材を持ったと思ったらできてたの! すごいの!」


「重ね掛けが良くなかったのかな? あとでクッキーでも焼いてみよう」


「朝ご飯なの!」


 とても美味しそうな朝ご飯だけど、エッグベネディクトなんて作ったことないんですけど。オランディーヌソースの作り方なんて憶えてないんですけど。

 これはレシピ創造が働いてるのかな。


 マフィンなんてどこから出て来たんだろう。レジストリにあったかな? それともマフィンも作ったのかな。もうこれ魔法だよね。


 とりあえず食べてみよう。


「いただきます!」


「いただきますなの!」


 お行儀良くないかもだけど、そのまま齧っちゃえ!

 アツアツのポーチドエッグから半熟の黄身がこぼれだし、口の中にオランディーヌソースと卵黄のハーモニーが生まれ、香ばしく焼かれたマフィンが表面サクッと中モッチリで、卵とソースに良く絡んで激ウマ。


「お、美味しいー!」


「美味しいのー!」


 ココの羽がパタパタしている。


「す、凄いね、コックコス。こんな美味しいエッグベネディクト初めて食べた!」


「凄く美味しいの!」


 もうコックで食べていけるね! 農家で食べていこうと思ってたけど、レストランするのもいいかも!

 可愛いケーキ屋さんとか、みるくにピッタリじゃない? メロンパン移動販売もいいなぁ。ロバのパン屋やろうかな。


 夢が広がるなー。このコス持ってて良かった!


 美味しい朝食に舌鼓を打った後、クッキーの調理に取りかかった。

 訳が分からなかったので、高速調理はカット。レシピが曖昧なので自動はON! 時短は様子観で。


 するとボールの中に直接食材が現れて、手早く混ぜられていく。計量もしなくて良いとは凄い。私自身の料理スキル、全く役に立ってる気がしない。


 あっという間に焼成段階になったけど、オーブンあったっけ?


 おおっ、体が勝手にオーブンを開けて生地を入れていく。そこにあったのか! それでいつの間にオーブンが予熱されていたのかな? 温度管理スキルかも。


 あ、焼きに入ったら体が止まった。ここで時短してみたらどうかな。


 チーン


「早っ! 今入れたとこだよ? 焼けてないんじゃ…焼けてる!」


「美味しそうな匂いなの!」


「時短凄いね! もうこれ時空を歪めてるよね」


 料理の時間だけ短縮されてて、時間が早回しになっている訳じゃないというところが凄い。


「これ、料理する楽しみは半減だけど、違う楽しさがあるなぁ。プリンも作っちゃおうか」


「わーい! プリンなの!」


「プリンはプリンでも、自分で作ったことない焼きプリンよ!」 


 コンビニで売ってる焼きプリンってプラスチックの容器なのに焼けてて凄いよね。あれ、焼きプリン専用の耐熱プラスチックで、表面の焼き目はゼラチンを混ぜた生地で、焼き目が香ばしくしっかりできるように開発されてるんだって。オーブンはスチームオーブンらしいよ。


 うちにゼラチン、無いんじゃないかなぁ。


「あっ、マシュマロ!」


 プリンは自分で作ってもあっという間なのに、自動だと本当に早い。何かレベルが上がってきたのか、プリン液なんて空中で作られててボールが使われなくなっちゃった。

 これまた空中で加熱されて作られたカラメルソースとプリン液が器に入れられ、その上にマシュマロが溶かされ表面のプリン液と混ざっていく。マシュマロってゼラチンで出来てるから代用してるのかな。

 というか、別にゼラチン要らないんじゃない? 私がコンビニ焼きプリンの事を考えてたから、それに合わせたレシピにしてくれたのかな?


 あっ、蒸し器もオーブンも使われてない。空中に淡いオレンジ色に輝く長方体が現れ、そこに器が入っていく。


 これスチームオーブンが再現されているのでは?


 凄いなー! これもうレストランとか外食行く必要ないよね。


 あっ、もうできた! プリンってそもそもそんなに時間かからないけど、それでも普通より早い。


「わぁ、綺麗な焼き目! いい匂い!」


「美味しそうなの!」


 ココは今にも飛びかかりそうだけど、流石に熱すぎるから、あら熱を取らないと。


 でもアツアツのプリンも美味しいのよね。熱々プリン好きなんだけど、お店で食べられないんだ。自分で作ったときだけのご褒美。


「これはセリス達が来たときに食べようよ」


「えー、なの! その時はまた作ればいいなの!」


「じゃあ、午後にちょっとだけ食べようね」


「いっぱい食べるの!」


 ココの小さな体でどこに入っていくんだろう。不思議だ。


 食べたいけど朝食を食べたばかりなので、焼き立てのクッキーとプリンをインベントリに入れ、畑を見に行くことにした。

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