3章7話 アイボリールーム(1)
俺たちが訪れたレンタルルーム、アイボリールームの説明をしようと思う。大きめのTVがあり、その前にテーブルと4個のクッション。TVの下の棚にはカラオケ用の機材が置いてあった。壁の色は店の名前通りアイボリーで、こっちとしては撮影した動画や写真の編集が楽そうだったので特に言うことはない。いや、あれだ。決して恋歌の顔を編集するという意味ではない。恋歌はそんなことをしなくても可愛い。変えるのは背景だ。広さは8畳ぐらい。
「さて、まずは写真から撮るわよ。星乃さんはとりあえずJSセットに着替えて頂戴」
「そこで自分の好みを一番に優先させるんですね。流石っす、十音先輩」
「じゃあ別室に行ってくるね」
補足、このレンタルルームにはトイレともう一室が付いている。
それはともかく、言われたとおりに恋歌はJSセットを持って着替えに行った。でもさ……、今さら部屋を分けて着替えたって意味がない気がするんだ……。だって恋歌と十音先輩は女性同士だし……、俺は何回も恋歌の着替えを目撃しているし……。ほんと、今さらだよなぁ。
で、ほんの3分前後で恋歌は着替え終えて部屋から出てきた。やはりスカートが短くて、裾を引っ張って絶対領域を死守している。
「清澄先輩~、パンツが見えちゃいますよぉ」
「何をふざけたことを。星乃さんは愛しの人に進んで裸体を見せる淫乱でしょう? ここまできてパンチラで恥ずかしがるなんて、おかしいのでは?」
「わたしは淫乱じゃないよ!? そうだよね、タク君?」
「いや、十音先輩の言い方は攻撃的だけど、恋歌が淫乱なのは間違いない」
「タク君の裏切り者っ!」
だって、確かに再会初日のキスは、少女マンガに影響されたのかな~ぐらいにしか感じなかった。けど、それ以降の俺に対するアプローチはなかなかきわどい。
部屋の隅で恋歌が落ち込んでいる中、十音先輩は自分のバッグから高級そうな一眼レフを取り出して、撮影の準備を始めていた。三脚にカメラを乗せて、部屋の中央にあったクッションとテーブルを端に寄せる。
「どんな写真を撮るんですか?」
俺が質問した瞬間、十音先輩は肉食獣のような飢えた獣の眼光を宿した。
「JSのコスプレをしたらまずはパンチラでしょう!? その次は服をはだけさせて、さらにその次はランドセルを背負って上目遣い! 犯罪チック? それが良いのよ。よく言うでしょう? 幼女の香りは犯罪の香りって!」
「そんな格言は初めて耳にしました。あと、恋歌はコスプレをしているだけであって、女子小学生じゃありません」
こいつ、何もわかっていねぇ、と言わんばかりに、分かりやすく嘆息する十音先輩。嘆きたいのは俺の方だ。この人は本当にいつか幼女に狂って犯罪を起こしそうで怖い。つーか、女子小学生が関わっているならコスプレでも許容範囲なんだな……。
「でも私はJSのプロフェッショナルよ? どのように撮れば見栄えするか、そしてどのように撮れば男の心を動かせるかを熟知しているわ。この衣装の撮影は私に任せなさい」
「心強いですね。しかし一言許されるなら……女子小学生のプロフェッショナルってなんだよ!? と問い詰めたい」
「細かいことにうるさい男子はモテないわよ? ほら、星乃さん、立ち上がって撮影を開始するわよ」
「うぅ~、は~い」
こうして門前町高校アイドル同好会、初めての撮影会がスタートした。被写体はネットアイドルの星乃恋歌。カメラマンは部長の清澄十音。編集は俺。なぜ俺が編集か? と、いうと、単純に俺しか画像編集技術を持ち合わせていなかったからだ。まぁ、俺も説明書を読んでギリギリできる素人だけど。
「こ、こうで、いいのかな?」
ただでさえ短いスカートの裾をつまみ、持ち上げてパンツを見せようとする恋歌。十音先輩の指示とはいえ、第三者の視点で見てみると本当にえっちぃ。パンツを露出させている事実よりも、そんな写真を撮られている事実の方が恋歌の羞恥心を煽っている。恋歌は瞳を潤ませていて、頬を紅潮させていた。
一方、十音先輩は寝転がって、スカートの真下からパンツを激写している。
「流石ね、星乃さん。その調子よ」
「…………美少女が女子小学生の格好をしてパンツを露出させ、別の美少女が地べたに転がってパンツを激写する。理解不能とか意味不明とか、そんな生易しい言葉じゃ片付けられないな……」
そもそも日本語にこの状況を一言で説明できる単語があるのだろうか? 恋歌のファンや、十音先輩に憧れていた男子がこの光景を目撃したら……、いや、想像もしたくないな。
で、シャッター音が20回も響いた。そこで十音先輩は恋歌にポーズを変えるように要求する。次なるポーズは――、
「さぁ、星乃さん、服をはだけさせなさい?」
「無理ですよぉ!? タク君だけだったらまだしも、この写真ってネットに流出するんですよね!? 恥ずかしくて死んじゃいます!」
そして口論は俺に飛び火した。先に恋歌が助けを求めて俺の背中に隠れる。すると十音先輩が恋歌をかばうように棒立ちしている俺の前に立った。ふむ……、この世界がギャルゲーなら、恋歌をかばえば恋歌の好感度が上がって、十音先輩に従えば十音先輩の好感度が上がる。問題なのは恋歌の高感度はすでにMAXだし、十音先輩はそもそも攻略できる人じゃない。
「ねぇ、高槻くんは星乃さんを渡してくれるわよね?」
「昔からタク君は私の味方だよね?」
中学時代に十音先輩に話しかけられて逃げ出した俺の友人を思い出した。彼ならこの状況の俺を見て、絶対に羨ましいと俺を妬むだろう。それでも俺からしたら今の状況は困るだけだ。女子2人に挟まれるのがこんなにも辛いなんて、生まれてから一度も思わなかったよ。
「OK、OK、ここで争っても何も始まりません。俺が代替案を出しますから、それでお互い許してください」
「……仕方がないわね」
「むぅ、タク君がそういうなら……」
2人が納得してくれたところで、俺はそれに代わる案を頭の中で模索し始める。十音先輩は欲望のままに恋歌をひん剥きたいだけだ。事実だけを俯瞰的に認識すると、大変いやらしい字面になるな。で、恋歌はそれを拒む。なら解決方法は十音先輩の欲望を満たして、なおかつ、恋歌が拒まなければOKだ。ならば――、
「恋歌、お前、今ブラジャー着けているか?」
「当たり前でしょ!? タク君、頭大丈夫?」
「安心しろ、脳が病んでいるわけではないから」
「何か考え付いたようね?」
「はい! 十音先輩は恋歌のエロい姿を見たい。そして恋歌は肌を晒したくない。なら、恋歌には服を着たまま濡れてもらいましょう!」
「「…………はい?」」
困惑して間抜けな感嘆詞をもらす恋歌と十音先輩。目を点にしているから、俺の偉大なる代替案を上手く飲み込めていないののか? よし、いいだろう! 俺が直々に説明してくれよう!
「あれですよ! よく梅雨の日にある『きゃっ、雨で制服濡れちゃったっ。下着と肌が透けて見えちゃうっ』ですよ!」
「ごめんなさい……、まったく意味が不明だわ……」
「……、……、清澄先輩もわたしと同じですか。タク君? 真面目に病院にいこう?」
失礼極まりないな、お前ら。このオリジナリティに溢れた、詩的な表現に心を打たれないどころか、意味が不明だと? もう少し感性を豊かにした方がいいんじゃないか?
「ごほん。結論を言えば、この案ならば、十音先輩は恋歌の下着と肌が拝めるし、恋歌も下着と肌を晒すことになるけど服を脱がなくて済むわけです。どうですかっ? この案は!?」
「あー、あれね? 雨に濡れて雨宿りしている少女のごとく、素肌と下着を透けてしまった星乃さんを撮影すればいいわけね?」
「なるほど、少し理解できた。納得したわけではないけど」
ようやく女子組が理解してくれた。しかし恋歌よ、なぜ納得しない?
「正直、わたしはタク君の案よりも清澄先輩の方がまだ許せるよ」
「なん……だと……?」
「だって濡れたくないし、タク君の案の方が直接的じゃないぶんいやらしいし」
「高槻くん、あなた今驚いているようだけど星乃さんの反応は当たり前よ? 高槻くんの失策は『梅雨の日によくある~』の比喩ね。正直気持ち悪かったわ」
「あ、思い出した! 『水素の画像』フォルダーにそういうシュチュエーションの動画あったよね!? タク君の変態さん!」
「そこまで責めなくたっていいじゃないか! 俺は一生懸命考えたんだよ!」
「その結果が憧れのAVのシュチュエーションとか……笑えないわね」
「笑わなくてもいいよ! だから『水素の画像』は忘れろくださいお願いします!」
俺のことを蔑む冷たい眼差しで見下したあと、恋歌はさっきまで渋っていたポーズをとって、十音先輩はそれを満足げに撮る。俺だけ独り、蚊帳の外。
一通りいじけ終わると、俺は撮影に復帰する。その頃にはもう、十音先輩は女子小学生のコスプレの写真を大量に撮れて幸せそうだった。で、恋歌は現在隣の部屋でスク水に着替え中。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます