3章8話 アイボリールーム(2)
「ところで十音先輩? 恋歌の女子小学生姿の写真、何枚撮りましたか?」
「165枚よ。何か文句があるのかしら?」
「流石に容量オーバーすると思うんで、半分は削除してください」
「この悪魔! 鬼畜! 人でなし! 私の命を奪うなんて! でも安心しなさい。予備のSDカードも持ってきてあるから」
「だったら人のことを無意味に罵倒しないでください!」
と、ここでドアの
早速、十音先輩はバッグから予備のSDカードを取り出して、容量をだいぶ喰ってしまった方と入れ替える。最終的に1枚目のSDカード、女子小学生の写真だけのそれになってしまったな……。
で、恋歌もスク水のまま寝転がって写真を撮られている。
ここにきて気が付いたが、俺…………ここにいる必要なくない? 写真を撮るのは十音先輩だし、被写体は恋歌だし。俺の役目は写真と動画の編集だから、この状況ですることは何ひとつない。
「十音先輩~、俺何か手伝った方が良いですか?」
「そうね。だったら、星乃さんにもう少しえっちぃポーズをするようにお願いしてくれないかしら。私よりもあなたがお願いする方が、彼女も従うでしょう? なんか、現状はいまいちだから」
「恋歌、セクシーポ……
「絶対にしない! タク君の変態さん!」
……ズはしてくれないか……。十音先輩、無理でした」
「変態の上に役立たずとは……呆れてものが言えないわ」
「待て、俺は何も悪くない! 一番悪いのは俺に無茶振りした十音先輩だ!」
最終的に俺は部屋の隅に追いやったテーブルの上で、独り虚しく今後の同好会の予定と恋歌をプロデュースする案を練ることにした。部屋の1/5ぐらいが、主にはぶかれた俺のせいで陰鬱とした空気になっている、が、気にしない。
同好会の計画や予定が敷き詰められている手帳をにらめっこをしていると、1つアイディアが浮かんできた。俺はそのアイディアを、撮影が落ち着いた頃合いを見計らって2人に伝える。
「なぁ、恋歌、お前の動画ってダンスばかりだけど、歌っている動画も撮ってみたらどうだ?」
2人とも立ったままで話を聞くのが疲れるからか、同時に腰を下ろした。
「それってカラオケってこと? わたしはいいけど、ネット上では賛否両論じゃない? それに、既存の歌を使うと著作権法がメンドくさいし……」
「いや、カラオケでもいいけど、軽音部に協力してもらってオリジナルとかどうかな~って思ったんだよ」
恋歌は自分ひとりでは結論を出しかねたので、十音先輩に判断をあおった。十音先輩は上を仰いで考える素振りを見せたあと、意外とおふざけなしで結論を出す。
「いいのではないかしら。軽音部には私から話しておくわ」
部長直々に了承をいただいたところで、俺は同好会予定表に『軽音部に協力してもらって歌を歌う』と書いておいた。十音先輩が軽音部に交渉するまで日程が決まることはないと思うが、一応、来月の予定として組んでおこう。
予定を手帳に記したところで恋歌が隣の部屋に入っていった。
「ん? もうスク水の撮影は終わったんですか?」
「ええ、星乃さんのスク水姿はばっちり収めたわ」
「スク水の撮影は何分かかりましたか?」
「だいたい20分くらいじゃなかったかしら?」
「じゃあ小学生のコスプレの時間は?」
「1時間24分15秒ね」
「明らかに記憶力とペース配分がおかしいですよね!? なんで撮影時間が4倍にもなっているんですか!? アンタは女子小学生に熱意をたぎらせ過ぎだッッ!」
「JSに対する熱意は私のアイデンティティーよ!」
「滅んでしまえ! そんな主体性!」
この人はもうロリコン末期だ。手遅れとか、希望がないとか、ではない。一言で表すならば、十音先輩はロリコンの真理にたどり着いている。地球誕生以来、ここまでくだらない真理があっただろうか? いや、あるはずがない。
「タク君、ドア越しにも声が届いてるよ?」
俺と十音先輩の会話に混じってきたのは、当たり前だが恋歌だ。先ほどまでのスク水姿とは違い、メイド服を身にまとっている。そういえば、今回は背中のファスナーを自分ひとりで締められたのか?
「恋歌、背中のファスナー大丈夫だったか?」
「うんっ。タク君に手伝ってもらったのは計算してだから、本当は1人でも出来るよ?」
「あぁ、もう! 計算高いな! 俺の周りの女子はみんなどこか黒い!」
昔は純情無垢だった恋歌も、今ではこんなに黒くなって……。俺はなんだか悲しいよ。
メイド服に着替え終えた恋歌は早速カメラの前に立つ。十音先輩も準備が終わっていて、恋歌にポーズを決めさせて撮影を開始した。そして相変わらずすることが何もない俺。とりあえず、十音先輩の後ろで傍観していることにしよう。
「高槻くん? 後ろで見物するのはいいけれど、何もしないなら星乃さんに適当に指示してくれない? ポーズとか表情とか」
ポーズと表情ねぇ……。ここでまた俺がおかしな要求を恋歌にしたら『タク君の変態さん!』とか『また高槻くんは水素の画像にあったチョイスをしてくるのね』とか罵倒されかねない。
しかしここで役に立たないと、本当にここにいる意味がなくなってしまう。どうしたものか……。ん? 待てよ? 俺の場合は『水素の画像』があるからいわれなき非難をされる。だったら、逆にそれに入っていなかったシチュエーションを提案すれば良いのではないか!?
俺は恋歌に指示を出した。
「恋歌、こっちを向いて俺のことをお兄ちゃんって呼んでくれないか?」
その時、十音先輩がカメラのシャッター音を響かせた。カメラの画面を確認していた十音先輩の口元が引きつる。その理由は俺にも分かった。俺の要求に対して、恋歌が表現しがたいカオスな表情をしていたのだ。
「た、タク君!? 今度は妹主義に目覚めたのっ? 通報するよ!?」
「待て、通報はするな。いいか? 落ち着くんだ。ここで俺を通報しても恋歌には何もメリットがない。だったら、まず何で俺がこんなトチ狂った発言をしたかという理由、これを聞く価値はあるんじゃないか?」
驚異の速さで自分のカバンからスマホを取り出そうとした恋歌。俺はリアルに通報される前に恋歌の動きを制した。恋歌はいぶかしむ目付きで俺のことを睨んでくる。
「じゃあなんでタク君はいきなり『お兄ちゃんって呼んでくれないか?』なんて変態発言をしたのかな?」
「だって十音先輩に恋歌への指示を命令されたから……ね?」
なぜか恋歌と十音先輩が、可愛そうな子を慈しむような優しい瞳を俺に向けた。恋歌は長年一緒に居ても一度も見せたことがなかった、聖母の慈愛で俺を包む。十音先輩は普段の毒舌を封印して温もり溢れる笑みで俺を見つめた。
そして、最初に口を開いたのは十音先輩だった。
「あのね、高槻くん? 1ついいかしら?」
なぜか不自然に緊張した俺は恐る恐る頷いた。すると十音先輩は言いづらそうに、しかし告げなくてはいけないのか、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「このカメラ、ムービーは録画できないの……」
「はい。つまりどういうことですか?」
「つまりね……音声は録音できないってことよ」
「嘘だ――ッ! それじゃあ俺は無意味な変態発言をしたピエロじゃないか!」
「あ、もしもし警察ですか? はい――――場所は――――」
俺の背後で恋歌がどこかに通報していたが、そんなことを気にしている精神的余裕は、この時の俺には微塵もなかった。
まぁ、流石に恋歌の通報は冗談で、通報したフリだったけど……。
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