3章5話 レッド・アンド・グリーン・レストラン(2)
「で……、っ、でもさ、恋歌? ウソは、つ、
「ウソをついてないことは免罪符にして、真実を隠した罪を許してもらおうなんて……高槻くんは将来浮気に走りそうね」
「お願いですから、許してください!」
「う~ん……、タク君がわたしだけを見てくれる日は遠いなぁ」
恋歌だけを見るも何も、十音先輩とは恋愛に発展する間柄じゃないから……。気にする必要はないぞ? 確かに十音先輩は綺麗だが、あくまでも同士、もしくは先輩後輩の仲だ。
余談だが、十音先輩は俺の時と同様に、見惚れている男子に自分から声をかけるから、緊張して逃げてしまうのでは?
「お待たせいたしました。エビチーズグラタンとベーコン&トマトピザ、ビッグハンバーグです。パフェはお食事後にお持ちいたします」
ここでランチの登場だ。いったん話し合いを中断して、昼食をいただくことにしよう。十音先輩は姿勢を正して「いただきます」と一言。挨拶なんて常識のはずだが……うん、十音先輩がすると育ちが良いお嬢様な感じがする。対して恋歌の「いただきます♪」は早く食べたい衝動が溢れていた。
俺も挨拶して、ハンバーグを一口、口に頬張る。中々美味い。
「ねぇ、ふと思い出したのだけれど、この前、アイドルビジョンの呟き機能で、星乃さんがお弁当を作る、とか書いていたじゃない? 星乃さんがお弁当を作る相手なんて、まず間違いなく高槻くんだし、最終的に、あなたは彼女の手作り弁当をいただいたの?」
頬張った一口を飲み込もうとしたが、十音先輩の発言によってむせてしまう。なんつーことを思い出してくれるんだよ! 俺は動揺するが、もうひとりの当事者の恋歌は自慢気な顔だった。
「ハイ、作りましたよ! お母さんに指導された通りに、クラスメイトの目の前で、タク君に手作りのお弁当を渡して、一緒に食べました」
「お母さんの指導ってなにかしら?」
「お母さんいわく、『クラスメイトに親密さを見せ付けることで、周囲に2人は恋人同士なんだって認識させる。そうすれば
「外堀を埋めていくのね。是非とも星乃さんのお母様とは一度お会いしてみたいわ。波長が合いそうだし」
「会わなくて結構です! 2人が会ったら俺は確実にオモチャになりますから!」
さっきから叫びまくりで喉が痛い……。水を飲んで喉を休める。水がコップの半分なると、俺は再びハンバーグを食べ始めた。一方、恋歌もハムスターのように、ピザを満面の笑みで頬張っている。
「面白そうだから、その時の話を詳しく聞いてみたいわね。ダメかしら?」
「十音先輩? その願いを断ったらどうなるんですか?」
「そうね。高槻くんが使用中の試着室に突撃したことを、全校生徒に暴露するわ」
「それを仕組んだのはアンタだろ!」
「でも事実よ。そして事実とは第三者が決めるモノ。私が上手に他の生徒に伝えれば、あっという間に高槻くんは変態として有名になるわね」
「そんなの断れるわけがないじゃないか!」
仕方がない。俺は一度ナイフとフォークを、ハンバーグの乗っている鉄板の上に置き、語り始める。十音先輩はもちろん興味津々だし、恋歌も羞恥プレイを強要される俺の話をニヤニヤしながら清聴するつもりだ。
「――まず昼休みが始まると、30秒で恋歌が教室に突撃してきました。まぁ、隣のクラスだから距離的には普通ですけど。で、何をトチ狂ったか『タク君に、愛妻弁当を届けにきたよーっ!』と叫んだんですよ。クラスの男子の視線に殺意が一瞬で宿りましたね」
「本当は抱き着きながら『タク君! 会いたかったよ~!』って周りに見せ付ける予定だったけど、タク君の迷惑も考えてやめたんだよね。感謝してよ?」
「弁当を作ってくれたことには感謝しよう。だがどっちの発言にしても友達の俺の見る目は変わったんだから、そこは感謝しない」
「見る目が良い方向に変わったの?」
「羨ましいって意味では良い方向に変わったよ!」
男子の殺意も充分に理解できるけれども、女子の好奇の視線も堪えるものがある。当時現場に居合わせたクラスメイト諸君には、是非ともいつか誤解を解かせてほしい……。
「そのあとはタク君の前の席を借りて、何事もなく一緒に食べましたね」
「アーンするのを5回、されるのを7回。これを強要しておいて何事もなくはないだろ」
「ちょっといいかしら? 何? あなた達はそんな小恥ずかしいことを、公衆の面前でやってのけたの? 恋愛脳ね、毒されているわ」
「仕方がないじゃないですか! 恋歌が『アーンしてくれないと、昔の恥ずかしい話をクラスメイトにバラす』って脅してくるんですから!」
十音先輩が呆れた様子で肩をすくめる。が、それは一瞬の出来事で、すぐにイタズラ大好きな男子小学生のような、無邪気な笑みを浮かべた。何回も見てきているこの笑みは、俺をからかう時のモノに違いない。
「ねぇ、星乃さん? あなたがバラそうとした高槻くんの恥ずかしい話って何かしら?」
「恋歌、言わなくていいからな」
「小学校の頃、タク君は放送委員会だったんですけど、放送室で放送のスイッチを切り忘れたまま、友達と自作ラノベの朗読会をしてたんですよ」
「なんでバラすんだよ!? 言わなくていいってお願いしたじゃん!?」
「言われたけど、頷いてないよ?」
「恋歌まで十音先輩と同じような返しをするの、やめてくれない!?」
もちろん恋歌は俺の弱みを、これ以外にも持っている。だからここで十音先輩にバラしても、脅迫のネタが枯渇することはないのだ……。この状況で一番問題なのは、十音先輩にも俺の黒歴史が知られたことだ。この人は恋歌以上にこのネタを使って何をしてくるか見当も付かない。……嗚呼、2人の美少女に迫られて、俺がドMだったらこの状況を楽しめたのかな?
「まぁ、とにかく、アーンをお互いにしあって終わりですよ」
「もし私が周りから見ていたら『リア充爆発しろ!』だけでは済ませなかったわね。とりあえず高槻くんはクラスメイトに謝った方がいいわよ?」
「なんですか? 『リア充過ぎてゴメンな!』なんて謝ったら、俺はクラスメイト全員から殴られますよ? そもそも俺はリア充じゃありません」
「そんな謝り方はウザさを強調する某ジャンプ系列のマンガだけで充分よ。あと、高槻くんがリア充ではなかったら、この世のリア充は半減するわ」
さっきから全然食事が進まないので、いったん会話をやめてフォークとナイフを動かし始める。ハンバーグの一欠片を食べようとすると、恋歌が物欲しそうにフォークに刺さっているハンバーグを凝視した。俺は少々呆れながらも、恋歌にフォークを突き出した。
「そんなに欲しいならやるよ。一口だけ」
「流石タク君っ! わたしと以心伝心だね! 愛してるよ♡」
「お前の愛は食べ物で買えるのか。もう少し雰囲気を重視して言ってくれ」
計らずとも、ここでも俺は恋歌にアーンしてしまう。幸せそうに食べる恋歌。今の表情は美味いから幸せというよりも、自惚れが入ってしまうが、好きな人にアーンされて幸せ、って感じだった。
「あなた達、ここがファミレスってこと覚えている? 周りの非リア充が、恨めしそうにこっちを睨んでいるわよ」
「とりあえず他のお客さんのことを非リア充って呼ばないでください! 失礼すぎますけど!?」
本当に他のテーブルからの殺意の宿った視線を感じて、俺は周囲を見回す。こっちを見物していたヤツらは、俺と目が合う前に顔を背けた。うん、まぁ、真っ昼間からイチャつかれたら、そこにいる他の人は迷惑だよな。本当にすみません。
ただ謝るのが俺だけなのはシャクだ! 恋歌と十音先輩も謝罪しろ!
「少し興味があるのだけれど、2人はどこで知り合ったのかしら? 幼稚園?」
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