第13話 提案

「マナブか」

「奇遇ですね」

どうやらマナブも来店していたようだ。

マナブもこの店の利用者なので会うことはそんなに多くはないがある。

「一緒に座っていいですか?」

「あぁ構わない」

マナブがテーブルの向かいの席に座る。

「この前の魔物狩りの一件はありがとうございました」

「あぁ、あれは俺は何もしていないよ。せいぜい最後に落石を止めたぐらいだし」

「そんなことないですよ。ノガミさんに見守っていただけたおかげで安心して戦いに挑めたんですから」

マナブは素直にお礼を言ってくる。

「あの後、国に報告して周りからも称賛されました。素直に嬉しかったですよ」

本当に嬉しそうに喋る。

「本当はノガミさんに倒してもらったんじゃないかと疑う人もいました。魔晶石で録画をして証拠はとっておいたのでおおよその人には信用してもらえました。それでも信用してくれない人もいましたけどね」

「それだけ大きい所業ということだろ」

「いやぁ、アリスさんも相当喜んでましたよ。それに感謝もしていましたノガミさんに」

「本当か?」

正直、あまり信じられない。

「本当ですよ。ノガミさんの前ではああいう態度ですけど、大分信頼しているんですから。ううん、信頼してるってだけじゃないかな……いや、何でもないです」

マナブが途中で口ごもる。

「話は変わるんですけど」

「ん? どうした?」

マナブから何かあるようだ。

「ノガミさん何か悩み事ありますよね」

「……どうしてそう思うんだ?」

「顔に出てますよ。後雰囲気にも」

「そうか……それは困ったな」

「悩み事があるなら言って下さいよ」

マナブが少し真剣な顔になる

「いや、これは自分の問題だから」

「ノガミさんって僕たちのこと頼ってくれないですよね」

「そんなことは……」

「頼ってくれてないです。僕たちはノガミさんのことを頼っているのに、ノガミさんは僕たちのことを頼ってくれない」

「…………」

俺は思わず黙ってしまう。

「ノガミさんは……ノガミさんは誰も信頼していない、そんな気がします。僕たちのことを信頼してください。ノガミさんのことを嫌ってなんかないし、避けているわけではありません。これはアリスさんだって一緒です」

「…………」

「ノガミさん、僕を信じて話してください」

「実は……」

俺は昨日のことをマナブに話すことにした。


「それは大変なことがありましたね」

「あぁ……俺自身が大変なわけではないんだが」

「十中八九、友人ではないでしょう」

マナブがそう断言する。

「でも……ノガミさんに告白させることにどういう意図があったんでしょうね」

「意図……?」

「わざわざノガミさんを選んだ意味ですよ。ノガミさんとそのいじめっ子たちに面識はないのにどうやってかノガミさんを調べ、ターゲットに選んだ。意図が全くないって訳でもないと思うんですが、やっぱりプリシアさんがノガミさんに……いや、それ以外の可能性も……」

「うーん。意図かぁ」

「ノガミさんは本当に彼女たちと面識がないんですか」

「……ない……と思うんだが」

少し考えるが思い当たらない。

「まず彼女たちの身辺を調べるのがいいかもしれないですね」

「こう臆病なことを言うのはどうかとは思うんだが……俺は力を使って相手の心を調べるようなことはしたくないんだ……俺は自分の力を使って他人の感情をいじったり覗いたりすることが……どこか……怖くてね」

「うーん……直接調べなければいいんじゃないんですか?」

「?」

どういう意味か測りかね疑問符が出る。

「ノガミさんが怖がっているのは自分の力を使って直接相手の心を覗き見ることですよね? だったら間接的に調べればいいじゃないですが。例えば尾行するとか」

「尾行?」

「そうです。相手の心を読むのは一部の人しかできないかもしれませんが、別に尾行なら誰だってできるし、相手の心を読んでいるわけじゃない」

「なるほど……屁理屈に近いような気がするが俺の心さえ納得すればいいわけだしな」

マナブから思わぬ提案をされる。

「もし、実行するなら手伝いますよ」

「いや、その時は一人の方が都合がいいだろうから」

「じゃあ考えておいてください」

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