第9話 殺陣
道中、魔物を倒しながら問題の魔物がいると思われる場所までくる。
「確かにいるな」
大きく開けた空洞の手前、細い道の物陰からその魔物を確認する。
「ブラックソウルナイト。騎士の姿をした魔物ですね。一説には戦場で死んだ騎士の亡霊だとか」
マナブが魔物の解説をする。
黒い鎧に身を包み、剣を持って佇んでいる魔物。
周囲には黒いオーラが漂っており、威圧感を感じさせる。
ブラックソウルナイトという名前が指し示す通りの魔物だ。
「マナブ。奇襲をかけるよ。私たちの反対側に極力弱い魔法をあてて、音を出して。気を取られて魔物が後ろを向いたら私が切りかかる」
「わかりました」
アリスが指示を出し、マナブが答える。
「二人とも上手くやれよ。信じてるからな」
俺は成功することを信じて応援する。
「行くよ!」
「はい!」
アリスとマナブが力を入れる。
マナブが魔力を一瞬込め、反対側の天井にあてる。
小さな破裂音が洞窟に響き、ブラックソウルナイトがそちらの方を反射的に振り向く。
その一瞬に近づいたアリスがブラックソウルナイトの背後をつき、剣を振り下ろす。
「はあああぁぁぁ!」
しかし、直前に気が付いたブラックソウルナイトが剣を横に構え防御の態勢に入る。
カキン、と剣と剣が交じり合う音がし、洞窟に響く。
身構えたものの、とっさでは受け止めきれず後ろに吹き飛ぶブラックソウルナイト。
「まず一発!」
アリスが叫び構えを取る。
「ファイアボール!」
マナブが追撃のため前に出て火の玉をブラックソウルナイトに向けて発射する。
しかし、受け身を取ったブラックソウルナイトは寸での所で避けかわす。
避けかわしたブラックソウルナイトは黒い剣光波をマナブに向け飛ばしてくる。
「させるか!」
アリスが間に入り、剣光波を弾き返す。
アリスにターゲットを変えたブラックソウルナイトがアリスへと向かっていく。
アリスとブラックソウルナイトの剣が何度も交じり合い、幾たびと音が重なる。
「がっ!」
剣の競り合いに負けてしまったアリスが後ろに吹き飛ばされる。
追撃をかけようとアリスに迫っていくブラックソウルナイト。
「風よ!ウィンドシールド!」
轟音を鳴らす突風がブラックソウルナイトの行く手を阻む。
とっさにマナブが風の障壁を貼り、防いだのだ。
「アリスさん。大丈夫ですか」
「大丈夫だよ。それより件の魔方陣の用意を! 守りに入りつつ時間を稼ぐから!」
「はい!」
アリスがマナブを庇うように前に出る。
ブラックソウルナイトは特に思考する事もなく、アリスへと向かっていく。
アリスはブラックソウルナイトが目の前に来た瞬間、剣を交えるのではなく、足元の地面をめがけて剣を振り下ろす。
足元の地面がえぐられることによりブラックソウルナイトは体勢を崩し、隙ができてしまう。
「はぁっ!」
その一瞬の隙を見逃さず、剣撃を叩きこむアリス。
ブラックソウルナイトは大きく吹き飛ばされ、地面へと激突する。
しかし、しばらくするとブラックソウルナイトは剣を支えにし立ち上がる。
「ちっ、やっぱり致命の一撃にはならないか」
恨めしそうにアリスが呟く。
「アリスさん! 魔方陣の準備出来ました!」
「あいよ。じゃあ行くよ!」
アリスとマナブはお互いにサインを出し合う。
ブラックソウルナイトは気にもせず、その身をアリスへと突進させる。
また両者の剣が交じり合うも、アリスは一歩ずつ引いていく。
そして、アリスは大きく後ろに飛び退く。
ブラックソウルナイトはアリスが劣勢においやられ逃げたのだと思ったのかもしれない。
何の疑いもせず、アリスへと飛び込むブラックソウルナイト。
飛び込んだ先の地面に大きな魔力が込められていることも知らずに。
「聖なる十字架よ! 悪を封じ込めよ! セイクリッドホールド!」
マナブが詠唱するとともにブラックソウルナイトを中心に大きな魔方陣が現れる。
そして魔方陣は光のフィールドを作り出す。
そのフィールドの中にいたブラックソウルナイトは身動き一つとれずに硬直している。
「これはあくまで動きを止めるためだけのもの……行くよマナブ! とどめを刺すために私に魔力を!」
「はい!」
アリスは気をため、マナブは自身の魔力をアリスの剣にため込む。
ためられた魔力により神々しく光りはじめるアリス。
一方のブラックソウルナイトは未だ身動きできずただその場にとどめられている。
「さぁ、そろそろ時間だ」
ブラックソウルナイトが若干の動きを見せ、その効力を失っていくのがわかる拘束の魔法セイクリッドホールド。
そして、その効力が消えブラックソウルナイトが動き始める刹那。
「とどめだぁぁぁぁぁぁ!!!」
アリスがブラックソウルナイトの脳天めがけ、光をまとった大剣を振り下ろす。
轟音。ブラックソウルナイトに直撃した一撃が爆発を生む。
その爆発の後、残っていたものはアリスだけだった。
ブラックソウルナイトは消し炭になり跡形もなくなっていた。
「やったぁぁぁぁぁぁ!」
普段は見せないはしゃいだ様子を見せるアリス。
「やりましたよアリスさん!」
アリスの元へ行き、同じようにはしゃぐマナブ。
「良かったなアリス、マナブ。凄かったよ。俺の出る幕が全くなかった」
心の底からの賞賛の言葉をかける。
と、その時、先程の戦闘の影響か、洞窟が揺れたかと思うと天井が崩れてきた。
「なっ」「あっ」
真下にいたアリスとマナブが落石に押しつぶされてしまう……ということはなく落石は天井に戻る。
俺が洞窟を修復し、落石を元の形に戻したからだ。
「結局ノガミの力を借りちまったのか」
「いや、これは討伐とは関係ないんだ。借りた内には入らないさ。ブラックソウルナイトを倒したのは二人の実力さ」
アリスが少し落胆する様子を見せるが、それは違うと否定する。
「そう言ってもらえるとありがたいよ。それじゃあ、帰るか。マナブ、ノガミ行くよ」
アリスが帰還を促す。
「帰ったら祝杯ですね」
マナブが笑いながら言う。
「俺も混ぜてほしいな」
そう俺も発する。
「いいぞ。さぁ勝利の凱旋だ!」
アリスが高らかに叫び、洞窟から帰還していく。
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