第6話 享受

ウィクスの森の入り口にある大きなポストを覗く。

俺専用のポストである。

「うん、今日もあるな」

ポストの中から「差し入れ」を取り出す。

この差し入れは数か月前からほぼ毎日入っているものだ。

差し入れの中身は大体お菓子だ。

最初は怪しみつつも食べてみた。

特段毒も入っていないようだったし、仮に入っていても俺に毒が効くこともない。

今は何も気にせず、いただいている。

この差し入れには魔力で封がしてある。

魔力には波形があり、それは人固有のものになっている。

これにより、魔力の波形から同じ人間が入れていることはわかっている。

ただ、宅配なので配達しているのは別の人間だ。

それ故に差し入れをしている本人とは鉢合わせしたことはない。

誰が入れているのかなんて調べようとすれば能力で一瞬で分かる。

しかし、それはしない。

宛名をつけないのは何かしら知られたくない理由もあるのだろうし、敵意はなさそうなので問題はない。

それに俺としてもこれは一種の楽しみだ。

娯楽があまりない俺にとってはこういったことが嬉しい。


家の前につく。我が家だ。

一人で住むには大きい木造の家。

実際は木で出来ているわけではなく自分で作り出した物質で出来ている。

火をつけても燃え上がらないし、大砲を撃ち込まれようが無傷だ。

元々ウィクスの森には結界が張っているので大して意味はないのだが。


家のドアを開け、中に入る。

「ただいま」

「お帰りなさい」

と家でぼんやりとしていた女性が話し返す。

この女性は誰なのか?

家族か?いや違う。

実は彼女?それも違う。

彼女は俺が作り出した魔法生物、ホムンクルス。

名前をムイという。

ムイには炊事掃除などを任せている。要するにメイドさんだ。

実際の所、掃除は俺の能力で家が汚れることなどないので必要がなく雰囲気だ。

ムイは話しかければ、話し返してくれるが実際のところ意思はない。

そういった感情は植えつけていない。

自分が人間を創造する。そういったことに言い知れぬ恐怖を感じる。

なので、ムイに感情はなく機械のように動いているだけだ。

「さて、食事にするか」

と、テーブルにつき落ち着く。

そうしてしばらくしているとムイが食事を持ってくる。

「今日は魚のムニエルですか」

とムイが持ってきた料理を見つめながら言う。

何を料理して欲しい、というのは基本的に言わない。

ムイがランダムに思いついた料理を作ってくれるのだ。

ちなみに食材は能力で作った無限の食糧庫からとってくるので買い出しの必要はない。

ムイを外に出すのは好ましくないと思っているからだ。

今の所ムイの存在を知っているものは俺しかいない。

実は食べなくても問題ないのだが、そんなことを考えるのはやめ、目の前の食事にありつくことにする。

今日も上々の出来だ。



食事を終え、庭園に出る。

この庭園は俺の心をいやすためにあるものだ。

庭園には俺が創造したいろんな生物がいる。

とはいえ、元からこの世界にいる小動物で構成されている。

小動物が戯れているのを見ながら置いてある椅子に座る。

椅子に座りながら夜空を見上げる。

今日は晴れているので、綺麗な星々が見える。

「昔、馬鹿な事したよなぁ」

10年前酷いやらかしをしたことがある。

それが星々を使ったビリヤードだ。

まだ町の住民と暮らしていたころの話だ。

町の住民がビリヤードしていたのを見て、その夜に星々でビリヤードをした。

星々に影響がないように徹底した対策をとって、かつ最終的には元に戻した。

が、そんな無駄な配慮をするぐらいなら初めからやらなければよかったのだ。

このことによって俺が暮らしている国はもちろんの事、他国まで大騒ぎになってしまった。

星が意味不明な軌道を取って移動しているのだから当たり前だ。

正直言って後から全人類のこの件に関する記憶を消そうかとも思ったが、記憶操作は俺の信条として許せないのでやっていない。

このあまりにも酷いやらかしによってウィクス神教が余計に大きくなった。

非常に反省すべき点だ。


ポストの中に入っていた差し入れを取り出す。

どうやら中身はチョコのクッキーのようだ。

「うん、おいしい」

「そういえば明日アリスと用事があるんだよな。一体何をするんだか」

アリスとの用事に一抹の不安を抱えながら庭園を後にする。

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