第5話 邂逅

しばらくして、ドアのベルがまた鳴る。

「いらっしゃ……なんだアリスか」

客だと思って身構えたものの意味がなかったと思い気が抜ける。

「なんだとは何よ」

少し怒ったそぶりを見せるアリス。

「いらっしゃい。アリスさん」

ライドさんも迎えのあいさつをする。

「お久しぶりです。ライドさん」

アリスも返す。

「で、何の用だアリス」

「今は客としてきてるんだよ私は、その態度はよくないね。まぁ今日は買い物に来たわけじゃないけど」

「やっぱり客じゃないんじゃないか」

少し呆れたように返す。

「明日私に付き合ってよ、ノガミ。明日この店休みでノガミも何も予定入ってないだろ、暇人だし」

「確かに明日は休みだし、予定は入ってないが、暇人呼ばわりは好きじゃないな」

実際、国からの依頼と店以外の予定は大抵入っていない暇人ではあるが。

「何も予定ないんなら付き合ってやればいいんじゃないのか、ノガミ」

店長が後押しをしてくる。

「わかった。じゃあ付き合うけど、用事の内容は?」

「それは現地で話すよ、ちなみにマナブも一緒だよ」

「いや今話せばいいだろ」

「まぁ、ちょっとした護衛さ」

「護衛……ねぇ。わかった行くよ」

「そうこなくっちゃね、じゃあ明日、この町の東門、午前9時ね」

と言って出口に向けて歩き出すアリス。

「っと。いやこの栄養ドリンク一つ買ってくよ。いくらだい」

「お客さまでしたか。一つ210ルビになります」

物を買うということで、かしこまってアリスをお客様扱いすることにする。

「店に来て何も買わないってのもよくないからね。じゃあ今度こそ明日」

「ありがとうございました」

そういって今度こそ店から出るアリス。

「明日護衛……ね」



「お先に失礼します」

「お疲れ様」

今日の勤務を終え、身支度を済ませ店から出る。

もうだいぶ日が落ちてきている。

時間も時間なので早々に帰ることにする。

ということで瞬間移動だ。


早速家の近くまで移動する。

と言っても森の入り口近くまで移動するだけだが。

うっそうと木が生い茂り、あまり日は届かないような場所だ。

ここはウィクスの森。小さな森だがここに俺の家がある。

そしてここは俺の生まれた土地だ……恐らく。

実は俺には両親がいない。

親が死んだとかではない。元々いないのだ。

俺は10年前ウィクスの森で発見された。

近くの住民が薬草などを取りに来た時に俺と会ったのだ。

俺には記憶がなく、なぜ森にいたのかもわからない。

ただ、そこにいた俺を住民が町に連れ帰った。

しかし、運悪く住民は帰路の途中に魔物に出会ってしまった。

だが、俺がその魔物を一瞬で「消した」。

驚いた住民だったが、そのまま連れ帰ることにした。

そうやって町につき、身元が分からない俺を住民たちは孤児だと判断した。

そして自分自身、名前すらわからなかった俺に、住民たちは名前を付けた。

それが西京 野上。

特段深く考えた名前でもないらしい。

便宜上、年齢も不明だと困るので見た目から8歳と決めた。

そうして、町の住民となった俺だったが、時折住民を驚かしていた。

それは当時から俺が万能の力を持っていたからだ。

望んだ事は何でも出来ていた。

その力に対してありがたがる者と、怖がる者がいた。

次第に、正体不明だった俺を神とあがめ信仰する者と、悪魔と呼び恐怖する者に分かれていった。

そうしてしばらくすると噂を聞きつけたのか俺は国に呼ばれた。

俺は国から保護という名の実質的な隔離を受けることになった。

国からしてみれば万能の力を持った俺は騒乱のもとであり、脅威であったのであろう。

そうして、俺の家はこのウィクスの森全体となったのであった。

ただ、特段強制力があった訳ではない。

国からのお願いといったところだった。

国としても下手に刺激をして、攻撃はされたくなかったのだと思う。

俺としても信仰と恐怖を受ける生活は気分として良くなかったためこの森に住むことにした。

また、俺への信仰を国は禁止することにした。

騒乱のもととなる宗教を抑えたかったのだ。

俺の生まれた森から由来して名前がついていた「ウィクス神教」はこれでなりを潜めた。

ただ、いまだにこっそりと活動はしているようだ。

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