第3話 忌避

朝が来て今、俺はとある場所に移動している。


「今日、火の魔法のテストだぞ。大丈夫か?」

「俺無理そう……」


魔法学校の学生たちが喋っている。

今学校に向かっている途中なのだろう。

俺と大して年は変わらないと思う。

しかし、俺の方は通学途中ではない。通勤途中だ。

俺は学校に行っていない。

学校に払う金がないわけじゃない。

この前のように魔物を退治すると国から褒賞金を渡される。

しかも、それなりの額は貰っており、一生遊んで暮らしていけるだけの潤沢な貯蓄はある。

だから学費なら簡単に払える。

そう、そういった問題ではないのだ。

俺にはチート能力がある。それ故に周りから忌避されている。

それは学校でも同じことなのだ。

「学校には行かないで欲しい」

これは国王直々の言葉だ。

俺が学校に行けば周りは委縮する。

そうでなかったとしても、俺と生徒との圧倒的な能力の差が、僻みや嫉妬、諦めを生む。

そう国が判断したのだ。

正直羨ましくもある。友達同士でしゃべりあい、学校へ行く。その姿が。

だが、俺にも居場所がないわけではない。

今その数少ない居場所へと向かっているのだ。


「おはようございます」

木造の落ち着いた建物へと入る。

ここが数少ない俺の居場所の一つだ。

「おう、おはよう」

体はがっしりとし、巨体の少し年の取った男性が話返す。

この雑貨屋の主人。ライド・バーニングさんだ。40代後半ぐらいだろうか。

「じゃあ店の準備手伝ってくれ」

「わかりました」


俺はこの店で普段働いている。

5、6年前からここで働き始めた。

当時学校に行けていなかった俺に「店で働いてくれないか」とライドさんが言ったためだ。

特にどこかへ通っていなかった俺はその提案を受け入れたのだ。


「入荷した回復薬の陳列をお願いする」

「これですね」

商品の名札がついている木箱を開けて中身を取り出し陳列していく。


ここの雑貨屋は剣、盾、鎧や杖や魔法に使う媒体、マジックアイテム等々といったものを置いている。

冒険者だとか騎士だとか魔術師だとかそういった人間向けの店だ。

取り扱っている商品はライドさんが決めているのだが、これにはライドさんの過去の経歴が関係している。

ライドさんはかつて傭兵を営んでいた。

主に魔物狩りをしていて、たまに魔物からの護衛といったところだ

ライドさんの腕は確かなもので傭兵の中では五本の指に入るほどの実力だった。

しかし、ライドさんは傭兵を7年ほど前にやめた。

これは衰えからくるものではなく、実は俺が関係している。

8年ほど前だろうか。俺は国から強大な魔物の討伐を依頼され始めた。

国から特別に危険だと判断された魔物を討伐していたのだが、これによって一部ではあるが仕事がなくなった人たちがいるのだ。

そのうちの一人がライドさんだ。

ライドさんは国から依頼されて他の何人かの傭兵と強大な魔物を倒すことがあった。

しかし、危険すぎる魔物は俺が倒してしまうのでそういった依頼はなくなった。

だが、俺は全ての魔物を倒しているわけではない。

魔物のランクはSSSからFクラスまでつけられている。

俺が依頼されているのは大体がAAA以上のクラスの魔物。

基本的に依頼された魔物だけを倒す決まりになっているのだ。

なので魔物退治の依頼が消えた訳ではなく、魔物退治を生業としている人間の仕事がなくなった訳ではないのだ。

しかし、ライドさんは「俺がするべき仕事はなくなった」と言い傭兵をやめてしまったそうだ。


「陳列は終わったか?」

「今終わりました」

ライドさんに言われた陳列を終え、他の仕事に取り掛かる。


傭兵をやめてからライドさんは雑貨屋をはじめた。

そうして、しばらくしてから俺と出会い自分の雑貨屋に誘ったのだ。

どういった思いがあって自分を誘ったのか、よくはわからない。

もしかしたら、何かしらの恨みを持っているのかもしれないが、俺にはわからない。

心の中を見ようと思えばいつでも見ることができる。

しかし、それはしないのが俺の信条だ。


一通りの準備が終わり、雑貨屋を開店する。

「ノガミ、今日はどれぐらい客が来るかね」

「一人も来ない可能性もありますよ」

「おいおい。やめてくれよ」

二人で笑いながら談笑する。


実はこの店はあまり繁盛していない。

実際に一人も来ないなんてことはまずないのだが、悪い時は一桁しか来ないということもある。

他の雑貨屋と比べて品揃えが特別なわけではないし、立地もあまりよくない。

ただ、この店が繁盛していない原因はそれだけではない。俺自身のせいもあるのだ。

俺はその能力の強さのせいで避けられている。

そんな人間が店員になっていれば当然ともいえる。

ライドさんのように俺に親しみを持ってくれている人間はあまりいないのだ。

店から自分がいなくなればもう少し人が来るとは思う。

とはいえ、ライドさんは傭兵時代に稼いだ資金で十二分に暮らせる状況ではある。

そんな余裕もあってなのか、ライドさんは「この店で働いていて構わない」と言ってくれた。

その言葉に甘えて、結局ずっとここにいる。

そういったこともあって、ここは自分の居場所になっている。

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