第2話 虚無

俺はドラゴンに向けて「待て」と言い放つ。ドラゴンはその動きを止める。

「いつまでやってるのさ。早く片付けてよ。あんたの遊びにいつまで付き合っていればいいのよ」

彼女があきれた声で話しかける。

「もう少し遊ばせてくれ。いいだろ?」

「駄目に決まってんだろ!」

交渉してみるも応じてくれず。俺は大きくため息をつく。

そして……

「消えろ」

俺がそう呟くとドラゴンは一瞬で、初めからいなかったかのように消える。

「それでいいのさ」


そうやってうなずく彼女の名前はアリスティール・レフト。皆からはアリスと呼ばれている。

アリスは俺も住む国、エルム王国の騎士の一人だ。16歳という若さとしては部隊長という高い地位についている。

もちろんアリスの実力があるからこそだが。


「もう……大丈夫ですか?」

アリスの後ろからおどおどと少年が出てくる。

彼の名前は真剣 学(シンケン マナブ)。アリスの部隊の騎士の一人だ。

年にして15歳。気は弱いが、真面目な少年だ。


「マナブ、待たせてすまなかったな。そっちは怪我はないか?」

「あ、僕は大丈夫です」

とマナブがうなずくと、

「なんでこっちも心配しないのさ! 後、マナブ! こいつと話すな!」

怒り気味にアリスが俺とマナブに言う。

「アリスは大丈夫だろ。強いし。それにマナブと話したっていいじゃないか」

「あんたは危険だからね。殺されてしまうかもしれない」

酷い言いがかりだ。

「だから、俺をなんだと思ってるんだ。アリスの方こそ近くにいると危険だろ」

「どういう意味だ」

「そのままの意味だろ。猛獣だからなアリスは」

「言ったな!」

いつものごとくアリスと口喧嘩に発展する。

「二人ともやめてください。アリスさんもノガミさんももう帰りましょう」

マナブが提案するとアリスが、

「まぁ、こんなところで無駄に時間も使うもんじゃないね。帰るわよ」

「護衛は必要か? なんだったらワープで一瞬で帰らせられるぞ」

一応の提案をしてみる。答えはわかってはいるのだが。

「いらないよ。こっちはこっちで帰る。さ、行くよ」

アリスがマナブに促す。

「それではノガミさん。失礼します」

「だからそいつと話すな。死にたいのか」

俺に話しかけてまたアリスに怒られるマナブ。

二人はそのまま馬車に向かって歩く。



夜空を見上げる。ここには誰もいない。俺一人だ。

そうやってまた一人になると俺は考えにふける。

このチート能力についてだ。

先程インフェルノドラゴンを一瞬で消して見せた。

これは相手が弱っていたから消せたのではない。

初めからやろうと思えばできたことだったのだ。

爆発させるだとか凍らさせるだとか直接的なことはいらない。消そうと思っただけで消せる。

だからこそ、俺はアリスに怒られた。少し本気になっただけで出来ることをやらなかったからだ。

俺の能力はチート級だといったがそれは何の間違いもなく事実だ。

俺は星すら消し飛ばすこともできる。

別に消し去ることが能力ではない。なんだったら創ることもできる。

そして無くなったことも創ったことも全人類が始めからそうだったと思い込ませることもできる。

全ては自分の強大な能力の延長線上に過ぎない。

望めば何だって出来る。まさしく神の能力だ。


「今日も一人だな……」

だがそれ故に俺は孤独だ。

皆は俺を避けている。怖いのだ。俺のことが。

当たり前だ。

目の前にいつだって自分を消し去れる人物がいて、しかも消した事実すらなかったことに出来る。

もちろん皆は俺の能力を完全には理解できていない。

しかし、それ故の怖さもある。何ができるのかわからない怖さ。


だからだ。アリスにも避けられているのは。

アリスにとっても怖いのだろう。こんな自分が。

だからマナブにも近づけさせない。危険人物というのも何も間違っていないのだから。


俺はこの能力を持っていることを恨んでいるわけではない。

だが、やはり時折寂しくなるのだ。人とふれあえないことを。

「俺も帰るか」

空を見上げるのをやめ、帰路へと着く。

これは俺の孤独な物語だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る