落ちる稲妻

「凄い大きい船だね!あたし初めてこんな船に乗ったよ」

 出港してから二日たった。それでもルーチェの興奮は冷めやらず、

毎日艦内を見学して回っていた。特に年齢が近かったからだろうか、

やたらとスリーに懐いていた。

「ねぇ今日はスリーの部屋に行ってもいい?」

「あん?俺の部屋なんか見たってつまんねえぞ」

「いいじゃんいいじゃん!レッツゴー!」

 という訳でスリーの部屋に来ていた。ルーチェは部屋をぐるりと

見渡すと嬌声を上げて棚の一つに駆け寄った。そこにはキューブ状

の猫の人形が飾ってあった。

「にゃんキューブだー!スリーも集めてたの?」

「ああなんとなく気に入っててな……似合わねえだろ?」

「そんなことないよ!にゃんキューブはワールドワイドだよ!それ

にしても見たことない色が多いね!」

「仕事柄色んなとこ行くからな」

「凄いこっちは惑星サルモのでこっちは……惑星アトムスフィア!?

あんな惑星でも限定品あったの!?」

「俺も見た時は驚いたぜ」

「アトムスフィアって核融合炉手榴弾投げてくるんでしょ!?大丈夫

だったの!?」

「観光地域は安全だからな。それでも生きた心地はしなかったが」

「いいなー色んなとこ行けて。あたしも賞金稼ぎになろうかなぁ」

「どんな理由だよ」

「スリーはどうして賞金稼ぎになったの?」

 ベッドの腰を掛けて足をパタパタさせながらルーチェは聞いた。

「恩返ししたい人がいてな。そのために賞金稼ぎになったんだ。」

「その人に恩返し出来たの?」 

「……まだまだだな」

「そっかぁ……なかなか難しいんだね」

 そんなこんなで話し込んでいると誰かが扉をノックした。スリー

がどうぞと促すと入って来たのはアビゲイルだった。どうやら目的

地に着いたらしかった。ルーチェの顔が晴れやかになった。


「どうしてあたしは留守番なの!?」

テーブルを叩いてルーチェは叫んだ。母親に会えるかもしれないの

だ。落ち着いていられるわけがなかった。そんな彼女を宥めるよう

にキジヌが口を開いた。

「確実に安全であるとは言えないのだ。依頼内容も『護衛』だから

ね。艦にはうちのグランマとアビゲイルがいるので待って頂く方が

安全なのだよ」

 キジヌの言葉は正論だった。なおかつ誠実だった。ルーチェは静

かになったものの、それでも納得はして無いらしく、ふくれっ面だ

った。

「まぁお茶でも飲んで待っていてくれたまえ。情報を掴んで直ぐ戻

るさ」

「……わかった」

「安心したまえ。必ず君の母親を見つけ出すさ」

 そしてキジヌとスリーは船から降りて行った。


「とは言ったものの直ぐ出てくるかね」

「取りあえずぼやいてもしゃーないだろ。とりあえず困ったら酒場

だ」

 という訳で二人は町中の酒場に来ていた。扉を開いて店内を見渡

した。なかでは労働者達だろう男たちがテーブル席で賑やかに騒い

でいた。二人はカウンターに座り、キジヌは麦酒を、スリーはオレ

ンジジュースを頼んだ。半分ほど飲んだ辺りマスターに紙について

聞いてみた。

「そいつは多分街はずれの教会で作っている紙だぜ」

 予想以上に早く情報が出てきたので二人はあっけにとられてしま

った。カウンターにお代をおいて直ぐに教会に向かうことにした。

酒場から教会はそう遠くは無かった。十分ほど歩くとすぐに着いた。

 だが何かがおかしかった。人の気配がなかったのだ。

「ようミスタービーストォ。待ちくたびれたぜぇ」

キジヌとスリーは声のするほうへ向いた。

「チームライトニングス。君達が何故ここに?」

二人の視線の先、三人の男たちが立っていた。『チームライトニン

グス』。彼らのチーム名だった。ギリアン、ドミニク、アストの三

人組で、三人共が電気を使う能力者であり、チームリーダーのギリ

アンに至っては星越者級の手練れだった。

「珍しい事じゃねぇだろうぅ?賞金稼ぎ同士の戦闘なんてようぅ。

特にオメェとはやりあってみたかったんだぁ。さっさとはじめよう

ぜぇ!?」

 そういうとギリアンは手から稲妻を放った。キジヌとスリ―はそ

れぞれ左右に回避した。二人がいた場所に雷光が当たり地面をえぐ

った。二人は分断された。


 スリーの元にはドミニクとアストが向かってきた。スリーは右手

を前に突き出し構えた。腕から射出口が飛び出しミサイルが放たれ

た。高速で放たれたミサイルはアストに直撃し、爆発した。アスト

は気を失い地に落ちた。ドミニクは叫んだ。

「おめぇ生身の人間にミサイルぶち込むやつがあるかよぉ!」

「うるせぇ!か弱い女の子に二人がかりできやがったやつのセリフ

かよ!」

「全身サイボーグのおめぇが何言ってやがる!おいたするガキにゃ

電気びりびりのお仕置きしてやらぁ!」

 ドミニクは腕を振り放電した。放たれた電光をスリーは身をかが

めてかわし、ドミニクの鳩尾に肘を叩きこんだ。九の字に曲がった

ドミニクの鼻っ面に頭突きを叩きこみ、頭を両の手で掴んだ。

「たしかおいたするガキにゃ電気びりびりのお仕置きだったなぁ…

…?」

 そう言うとスリーは手のひらから放電した。たとえ電気使いであ

ろうと頭部に電気を食らえばひとたまりもない。ドミニクは膝から

地面に倒れた。

 スリーは一つ息を吐いてから、キジヌの方を見た。

「こっちは終わったぜ、ボス」

「少し待っていてくれたまえ。こちらも直ぐに終わる」

「随分余裕こいてくれんじゃぁねぇかよぉ。ンなこと言われたらや

る気にみちあふれるぜぇ!?」

 ギリアンは全身から放電しながら叫んだ。キジヌは挑発したわけ

では無い。星越者同士の戦いは互いに必殺になりやすく長引くこと

が少ないのだ。ギリアンは空気を焼くほどの稲妻をキジヌに放った。

キジヌはレンキを全身に纏い稲妻を払い一気に距離を詰めた。キジ

ヌの拳がギリアンの頬に叩きこまれた。ギリアンの体は三十メート

ルほど吹き飛び大岩にぶつかり、止まった。勝負は付いた。キジヌ

の勝利だった。



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