『マックスボビー』

 宇宙は今、大まかに五つに分かれていた。中央ギルド領域を中心

に七宝帝帝国領域、N・B・P・C領域、ワンダーグレインズ領域、

エルダーワンズ領域の五つである。それぞれの領域にはそれぞれの

法や秩序が存在している。その中でも中央ギルド領域は宇宙の中心

とさ、れ様々な人種の集まる領域である。故にトラブルも多く警察

や軍が干渉し辛いのが現状である。そのせいか人口の半数が賞金稼

ぎであり、賞金稼ぎ用の港も数多く存在している。当然荒くれ者も

多いため、常に喧騒冷めやらぬ領域でもある。それでも成り立って

いるのは奇跡に近いのかもしれない。

 大量の艦が並ぶ四十九番港に、一隻の葉巻型の艦が近づいていた。

名はグレートジェントルマン号。軍の古い駆逐艦でキジヌの船であ

る。

「いつ見ても大きい港デスネ」

 宙に浮いた球形に二本のアームの付いた機械生命体が、船のブリ

ッジでぼんやりと呟いた。彼女の名前はアビゲイル。仲間からはア

ビーと呼ばれていた。

「百以上ある港の中でもそこそこ大きいほうだからなぁ」

 縫い傷の少女スリーが答えた。

「俺も全部みたことはないからなぁ」

「僕もデス。色々違うみたいなので他にも行ってみたいデスネ」

「あんた達、準備は出来たのかい」

 グランマがいつもの老眼鏡と作務衣でブリッジ上がってきた。

「僕は準備オッケーデス」

「俺も用意終わってるぜ。……ボスは何処行った?」

「いやぁ済まない。」

そう言いながらキジヌもブリッジに上がってきた。

「これで全員揃ったね」

「俺とアビーは買い出し、ボスは仕事の報告、グランマは船で留守

番だな」

スリーはそう言うと操舵輪を回して港に艦を接舷させた。


 四十九番港のとある一角にある酒場『マックスボビー』にキジヌ

は来ていた。先の重筋王の件を報告に来たのである。賞金稼ぎの仕

事の依頼は様々な場所で受けることがある。『マックスボビー』も

その一か所である。故に大勢の賞金稼ぎのたまり場にもなっている。

「ああ~キジヌさんだ~こっちで一緒に飲みましょ~」

「おお、ミスタービースト、腕相撲やろうや」

 賑やかな客たちを適当にあしらいながらキジヌはカウンターにい

た店のマスターの元へと足を運んだ。

「やあボビー、仕事の報告に来たよ」

「おおぅなんだキジヌじゃねいか。随分早かったな」

 ボビーは緑色で液状の巨体をぷるんぷるんと震わせながら、触手

を伸ばして、金の詰まった袋をカウンターの上に置いた。

「ほれ、報酬の二十万ダールだ。注文はいつものマギー酒でいい

か?」

「いや今回はこのまま依頼を受けたいのだが何か良い仕事はあるか

い?」

「なんでい、せっかちだな。良い仕事は大体インフィニティのとこ

ろに行くからなぁ……いや待てよ」

 そう言うと大きな体をカウンター下に潜り込ませた。

「あったぁこれだ、護衛で二百万ダール」

「……護衛で二百万ダールとは随分きな臭いな」

「うちに来るのはそんなのばかりだぜぇ。どうする?」

キジヌ一行の台所事情は余りよろしくない。にっこり笑顔で依頼を

受けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る