紳士は空から舞い降りる

 その少女は妙な出で立ちだった。銀一色の毛髪が別に珍しい訳で

はない。妙なのは彼女の顔の縫い傷である。顔を埋め尽く程に縫い

傷が走っているのだ。顔だけではない。パーカーとショートパンツ

の下、つまり全身に縫い傷があるのだ。しかし、彼女の外見がどう

でもよいと思える程の光景がついさっきまで彼女の眼前の荒野で繰

り広げられていた。

 それは一人の老眼鏡を掛け作務衣を纏った老婆によって行われた

事だった。まず老婆といっても只の老婆ではない。三メートルを超

える筋骨隆々の老婆である。背筋もしっかりしている。

その老婆の周りには、機械の残骸がいくつも転がっていた。

「大した事はなかったさね。スリー、怪我はないかい?」

「……あぁ、俺は大丈夫だよ。グランマが全部片づけてくれたから

ね。グランマこそ大丈夫なのか?」

「一発ももらってないからね」

 相手は生身の人間ではなかった。六メートルを超える人型戦闘機

だった。その数二十体。老婆はその軍勢に一気に詰め寄り一体を適

当につかみ振り回すは叩きつけるはを繰り返した。増援にきた飛行

機にはその辺の岩をぶん投げて対処した。もはや嵐の様だった。

スリーにとっては既に何度も見たことのある様ではあったが、や

はり何度見ても異様である。かといって呆けている場合ではない。

「こっちは作戦どうり終わったぜ」

 少女は荒野に佇む巨大な城を眺めながら、体内通信機で宇宙にい

る仲間に報告をした。小さな何かが城めがけて落ちて行ったのを確

認した。




 今、重筋王ゴリゴメスは不機嫌の極みに満たされていた。何故な

ら居城の玉座で酒を嗜んでいる最中に男が天井をぶち抜いて降りて

きたからであった。男は身を包んだ紳士服のほこりを帽子で払い、

言った。

「いやぁ天井から失礼。私、キジヌ=サルモモールという者ですが

お時間よろしいですかな?」

「よろしいもクソもねぇだろうが。てめぇ何しに人様の城にきやが

った?」

 ゴリゴメスは字のとうり筋骨隆々の大男であったが、頭の回る男

でもあった。相手の能力を探る為に先手をうった。キジヌのすぐ側

にマイクロブラックホールを発生させたのだ。それはゴリゴメスの

能力によって生み出された物だった。重筋王の由来の一つである。

 ――キジヌは紫色の靄纏いながら無傷で平然と突っ立っていた。

ゴリゴメスは驚愕した。

「星越者クラスのレンキ使いか!そんなのが何でこんな辺鄙な所に

居やがる!?」

 レンキ使いはそう珍しくは無かった。問題は眼前の男が星越者で

ある可能性があったことである。星越者とは文字通り惑星の重力を

越えることが出来る者たちの総称である。ゴリゴメスは残念ながら

星越者では無かった。つまり力の差は歴然である。

「まいっ――」

 ゴリゴメスの降参の言葉よりも速く、キジヌの拳がゴリゴメスの

顔面にめり込んでいた。  

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