第5話家【なかま】
浜内 愛
2ヶ月がたった。
おじさんの骨壺はお墓に入った。少しだけ遺灰を小さな袋に入れて紐を付けて首から下げている。私の力の源だ。
学校は、唯さんと友莉ちゃんの協力があって進級できた。二人とも赤ちゃんの事は祝福してくれた。嬉しかった。
学校卒業後の進路もそろそろ決めていかないといけない。唯さんは当然、美容師。友莉ちゃんは進学を希望している。私は料理の道に進みたい。
友莉ちゃんから、結愛ちゃんが中学生になって、今度アイドルに向かって初めてのオーディションを受けに行くらしい。結愛ちゃんも頑張っている。
バイトは休ましてもらうことになった。マスターも奥さんもいつでも戻ってきていいと言ってくれた。料理人を目指すなら、先ずはマスターを見習いたい。
一ヶ月後。
友莉ちゃんの家に寄った帰り。バイクの止めてある学校に歩いていると、途中の公園でクラスメイトの男子が上級生の不良らしき人たちに絡まれている。
クラスメイトは顔と名前は知っている、確か岩瀬君、けど話したことは無い。印象は薄いけど、勉強はできる人だとは思っている。友莉ちゃんは苦手な数学教わっていたりノートを借りたりしていた。
こんな時、おじさんならきっと助けてあげるはず。見て見ぬふりなんか絶対にしない。
「何しているの」声を上げた。
駆け寄って間に入った。相手は3人で顔には見覚えがある。
その人達のリーダー格の人が「ちょっと金を借りるだけだから」
「どうせ返すつもりなんてないんでしょ」私が言ったら相手がさらに喧嘩腰になった。
「なんならあんたが貸してくれるか」
「絶対に貸さない」抵抗した。
「何」リーダー格の男が怒っているのが分かった。
おなかの赤ちゃんの事を考えた。
おじさんの遺灰が入っている袋を握った。
「こらー」公園の反対側から顔の知らない人達が来た。年配の人が先頭で、2人は20代後半男の人だった。
年配の人が「この子は私の知り合いの娘だ。何かやらかしたのか」リーダー格の人に聞いた。形勢逆転したようだ。
ホッとして赤ちゃんのいるお腹に手を当てた。
「少しお付き合いできませんか」年配の人が私に。若い男の人に指示を出して、スマホでタクシーを呼んでいる。若い男の人に岩瀬君と不良の男子達は付いて行く。私は年配の人とタクシーで移動。年配の人はまたスマホで何処かに連絡している。
目的地に着いたようだ。場所を疑った。私がバイトしていた喫茶店だ。
年配の人は中に入って行った。他の人達はもう到着していた。マスターも奥さんも久しぶりで驚いていた。
年配の人はマスターに「適当に人数分作ってやってくれ」と頼んでいた。マスターが「愛ちゃんはオムライスでいい」と聞いてきたので財布と相談して「はい」と答えた。
「おごりだから、心配しなくていい。お前たち知り合いか」年配の人がマスターに聞いた。
「山辺さん所の娘さんと言うか奥さんと言うか。こないだまでバイトしてもらっていたから」マスターが答えた。
「俺は山辺の葬儀の時その子を見かけて、追いかけて様子を見ていたら危なっかしかったよ」年配の人が答え。マスターは料理を作りに厨房へ。
年配の人が上級生に「お前たち。これは本来警察の仕事で、俺の仕事じゃないけど恐喝の現行犯だ。もう止めとけ。もし借りている金があるのならすぐに返すんだ」
上級生たちは自分のしていることが怖くなったのかおとなしくしている。
同級生の岩瀬君が「助かった。あの人知り合い」私に言ってきた。
「正直。分からない」と答えたけど、おじさんとマスターと共通の友人みたい。
年配の人は、やっぱりおじさんと中学生の時、同級生だった。名前は国立さん「番長」と呼ばれていた人だ。
国立 隼人
昭和の話。と言って国立さんが話し始めた。
俺達が中学の時、校内暴力全盛期だった。毎日校内で小競り合いがあった。同じ学年。上・下級生。先生と生徒。そして他校生。恐怖が上下関係を作っていた時代だ。
俺は3年生になった時、校内では敵無しになった。先生達は校内で事を大きくしたく無くて俺達を避けるようになった。
俺と山辺は3年生の時同級生で、俺は番長と呼ばれ誰からも怖がられていた。山辺は最初何でもない奴と思っていた。
ある日むしゃくしゃして機嫌が悪かった俺は周りにいた適当な奴に八つ当たりをした。そいつは泣き始めて余計むしゃくしゃしてきて、顔面を殴って眼鏡が割れた。クラスの正義感のある女子が「止めなさいよ」と叫んできた。俺は切れた。男だろうと女だろうと関係ないと思い、その女子に近づいた。
その時、俺の腕をつかんできたのが山辺だった。俺が睨みつけても山辺は動じなかった。
「外に行こうか」山辺が言ってきた。
ここまで来たら俺も引けなかった。
校舎裏で一対一の喧嘩になった。俗にいうタイマンだ。
俺は圧倒的に山辺を殴り蹴りノックアウトするはずだった。いくら殴っても効かない、蹴っても倒れない。今度は山辺の攻撃になった。俺は山辺のタックル一発で倒された。不思議だったのは次の攻撃が来なかった。
山辺は俺よりも強いと思った瞬間だった。これ以上やったら負けると悟った俺はそこで喧嘩を止めた。
そのまま授業中だった教室に戻った俺達は、どう見ても顔を腫らした山辺がボコボコにやられた様に見えたみたいだ。
山辺は優しいし世話好きだから、女子からは人気があったみたいだけど、山辺自身が女子に興味が無かった。
校内では敵無しだった俺は、他校との喧嘩をやるようになった。
ルールは5対5。素手。俺は山辺と校内の猛者3人を誘った。その一人が高田だ。
山辺は喧嘩のやり方を教えると直ぐに実践して相手をぶっ飛ばした。凄かった。
後になって、喧嘩した相手に聴いたのだが、喧嘩が始まったと思ったら、倒されていた、気を失っていた、殴られていた。山辺のスピードについてきた奴なんてだれ一人いなかった。
最後の他校との喧嘩の時だった。こっちは5人。相手は7人、しかも大将は空手の有段者。俺は「卑怯だぞ」と大声をあげた。同時に山辺は大将に向かっていた。相手の拳が空を切ったと思ったらタックルして相手のバランスを崩しているところに頭突き。相手は口から血を吐き、山辺は額を切った。
山辺はすぐ横にいるやつの顔面に拳を当て、今度は後ろに居るやつにタックルして膝蹴りをくらわした。
あっと言う間だった。1分もたたないうちに3人が目の前に倒れていた。
「強い奴は弱い奴を守るんじゃないのか。誰が強いか弱いか。支配するか、されるか。こんなことをしていて楽しいか」山辺が言った。
その場でいた全員が恐怖した。血だらけの顔で、静かな声で、気迫がこもった言葉だった。
俺はそれから変わった。
山辺が正直怖くて、気分で暴力や八つ当たりができなくなった。初めて我慢することを覚えて、自分の感情がコントロールできるようになった。おまけに勉強の面白さが分かって、中卒で働くつもりが工業高校へ進学した。
そうしたら何と、山辺がノックアウトした3人と同級生になって笑ったよ。
今じゃ俺が社長で、相手の大将が専務、一生の友だ。
もし、山辺が居なかったら今の俺は無かった。ずっと恩返ししたかったのだけど。先に行ってしまった。
浜内 愛
おじさん。かっこいい。
マスターが料理を終えてやってきた。
「僕も何時も喧嘩の時、助けてもらっていた。当時の僕は体が小さくて粋がっていただけで情けない男でした。山辺さん血だらけ言った言葉は未だに覚えています。あれが無かったら確かに今の私は無いですね」
国立さんがマスターに向かって握手を求めて「今度、山辺を追悼して一杯やるか」
国立さんが最後に上級生に向かって。
「いいか、もし山辺の娘に何かしたら、分かっているな」迫力のある声。
でも「私、おじさんの子供じゃないのだけど」と言いたかったけど止めた。
オムライス食べていると奥さんも来てくれた「おじさんって凄い人だったのね」おじさんを誉めてくれた。
今日は嬉しい日になった。
家に帰ってきたら仏壇の部屋に行って、おじさんの遺影の前で今日あったことを報告した。もしかしたら、国立さんは私が勇気を出したから、おじさんが呼んでくれたと思った。
次の日学校に行ったら、昨日の事が唯さんや友莉ちゃんに知られていた。どうも岩瀬君が喋ったみたいで、唯さん、すごく怒っている。皆は身重の私の体の事を心配してくれて、クラスの男子も含めて上級生と喧嘩する勢いだ。
ちょうど、昨日の上級生が教室に入ってきた。
入って来るなり、岩瀬君と私に頭を下げ、岩瀬君には封筒に入ったお金を返している。足りない分はもう少し待ってくれと言う事みたい。
クラスの皆は拍子抜けしていた。
その時、上級生が私に対して低姿勢で「姉さん」なんて言うから、それから学校では「姉さん」と呼ばれるようになった。すごく恥ずかしいし、嫌だった。唯さんと友莉ちゃんが今までと同じように呼んでくれて良かった。
唯さんと友莉ちゃんは事情を話したら、おじさんが、そんなに喧嘩が強かったと思わなかったみたい。それと国立さんの会社、この地区では有名みたい。唯さんでも知っている会社で、卒業生も何人か職人として採用されているみたい。
友莉ちゃん家は最近、結愛ちゃんがアイドル目指して大変らしい。東京に一人で行き来しているのは両親とも心配らしく。お母さんが付き添いで東京まで行っているらしい。おかげで友莉ちゃんは自由な時間が増えて、勉強に打ち込めるらしい。お父さんも家に帰ってくることが多くて、やっと家族らしくなってきたと嬉しそうだ。
夏休み前。今でもおじさんの家に私は一人で住み続けている。佳菜子さんから一緒に住もうと言われたけど、この家が良かった。近所の人から時々野菜を食べきれないほど貰う。ありがたい。
赤ちゃんの方もだいぶ大きくなって体も重くなってきた。動作が緩慢になってきたのが分かる。
そんな時に恭子から連絡があった。久しぶりでびっくりした。
恭子のバレーボール部が県大会優勝して、全国大会出場をはたした。嬉しくて連絡してきたのかなと思っていたら。夏の全国大会がわが県で開催され。会場は直ぐ近くの大きな体育館。植村先生も部活の監督として来るみたいで私と会いたいらしい。2度びっくりした。
大会は8月に入ってすぐに開催されるから。その前にこちらに来るそうだ。
恭子が言うには「マグレで県予選突破したから一回戦で負けるかもしれないけど応援してね」あきらめムードだけど、会えるのが楽しみだ。
唯さんと友莉ちゃんに、前いた学校の友達が全国大会で来るから応援に行こうて言っただけなのに、次の日には学校中に知れ渡っていた。
どうも唯さんがクラスの男子に喋って、そこから部活関係、全校生徒へと広まったみたい。学校挙げて応援することになってしまった。特に上級生の4年生は私が絡んでいると気合が入るみたいで先頭になって仕切っている。
今度は結愛ちゃんから連絡があった。ダンススクールの皆で応援することになった。女性全員でチアガールするらしい。せっかく練習しているのに発表の場が見つからなかったから、逆にいい機会みたい。
さらにダンススクールの社会人の人から国立さんの会社に情報が回って、社長の国立さんの耳に入ったらしく、喫茶店のマスターに連絡が来たらしい。奥さんから連絡が入った。
どうしていいか分からない私は、『こんな時おじさんならどうする』と考えた。とにかく皆を集めて話し合おう。
先ずは学校関係。4年生の人。先生は佐藤先生に相談してみる。それからダンススクールの人は結愛ちゃん経由で代表の人に来てもらって。国立さんの会社は国立さんでまとめてもらう。
週末夕方、バイトしていた喫茶店に皆さんに集まってもらった。4年生の人は2人、稲垣さんと花井さん、岩瀬君にお金借りていた人達。先生は佐藤先生と体育の小林先生。ダンススクールから結愛ちゃんと代表の女性、金井さん。国立さんの会社から国立さん、専務の中村さん、女性の西川さん。私と、唯さん友莉ちゃんが出てくれた。全員で12人。
深呼吸して「ありがとうございます」お礼の言葉から始まった。大人同士は名刺交換している。これも礼儀だ。やっぱり国立さんは会社しているだけあって仕切ってくれる。日程とか全然分からない。学校同士の連絡は先生担当。応援の形や、やり方は合同で4年生とダンススクールのメンバー。連絡や状況は全て国立さんの会社総務西川さんに連絡する。細かな連絡先は紙に全員が書いて週明けにまた集まる事になった。
「私は、何をすればいいですか」国立さんに聞いた。
「山辺の娘さんは。愛さんだな。向こうの友達との連絡係してくれ」国立さんが答えてくれたけどそれだけで良いのかな、考えていると。
「おじさん。愛ちゃんのお腹の中には山辺さんの赤ちゃんが居るので奥さんですから」唯さんが国立さんへ言った。
「ハハハ。すまん。山辺の嫁さんか」国立さんは豪快に笑っている。
「高田。メニュー持って来てくれ。お詫びに全員に食事おごりますよ」
「やった」総務の西川さんは喜んでいる。
友莉ちゃんと結愛ちゃんが「晩御飯断らないと」と言って、友莉ちゃんがスマホで家に電話している。
今回もオムライス頼んだ。
帰りに国立さんにお礼を言った。
友莉ちゃんと結愛ちゃんのお父さんが迎えに来た。国立さんとは面識があるみたい。
友莉ちゃんから後で聞いた話では、国立さんは、友莉ちゃんのお父さんが勤めている会社のお客さんらしく、「悪いことはできないな」と呟いていたらしい。意外なところに繋がりがある
恭子に連絡を取った。学校と知り合いで応援団結成されて沢山の人が応援に行く事を伝えたら、びっくりしていた。
週明けに12人が集まった。
学校同士の連絡は無事ついた。問題点が向こうの旅行会社がこちらの宿舎や、輸送手段がまだ取れていない。先生も困っていたとのことだった。
会場の状況も分かってきた。観客席は案外狭く試合の都度観客は入れ替わりをしないといけない可能性がある。それと応援する人たちの着替える場所や物を置いておく場所が無い。
国立さんと中村さん西川さん社会人の3人は、問題点に取り組むことを嫌がるより、むしろ楽しんでいるように見える。佐藤先生が4年生の人達に「この人たちをよく見ておくんだ、社会勉強になる」と言っている。
選手のお世話は、私と唯さん友莉さんがメインで向こうから来る選手の親と連携を取ってすることになった。マスターが「僕にも手伝わしてほしいし、一度店にも来てほしい」と言われお願いすることにした。
応援の練習は学校の体育館を使い、大会までの予定を組んだ。リーダーはダンススクールの金井さん、4年生の稲垣さんと花井さんにやってもらう。金井さんは広い所で練習ができると喜んでいた。応援団、チアガール含めて50人近くになり、気合が入っている。
やはり宿舎や移動手段については、直ぐには決められないし、向こうの先生や親の意向もあるから明日また国立さんと西川さんが学校に行ってテレビ電話で話し合う事になった。
だんだん凄いことになってきた。
この日は早めの解散になった。私と友莉ちゃん結愛ちゃん3人が残って選手の世話をどうすればいいか誰に聞けばとかを話していたら。国立さんと専務の中村さんが話しかけてきた。
「こいつが山辺にノックアウトされた奴だ」国立さんが中村さんの肩をたたいた。
「おう、前歯全部持ってかれたわ」中村さんが笑いながら答えた。
「その時、山辺も額切っていたけど、逆に迫力があったな」
「おまえ、その時口押えて唸っていただけじゃないか」と国立さんも笑っている。
結愛ちゃんが話に入ってきて「もしかしておじさんの額の傷中村さんが付けたの」とびっくりしていた。結愛ちゃんは額の傷で脅迫されたと笑っている。
私は額の傷の事は知らなかった。でもなぜだか皆笑っている。
3日後、12人が集合した。残念ながらバレーボールの応援は野球みたいに太鼓や吹奏楽みたいに派手な応援はできないみたいで座っての応援になるみたい。金井さんが残念がっていた。でも今度、野球の大会があるからこっちの応援をすることになった。野球部の人達が嬉しがっている。当然国立さんたちも協力してくれる。
国立さんから、向こうの学校の予算が無くて国立さんの会社から補填する。それでもともと私と恭子。私と国立さんといろんな人との繋がりを新聞に載せる計画で会社から「宣伝費」の名目で寄付の形でお金を出す。金額は秘密だそうだ。野球の応援も予算取ったらしく金井さんは国立さんにお礼を言っていた。
大規模な応援は無くなったけど、普通の応援で来る人は百人位になる計算だ
今日はおじさんの月命日。私は朝おじさんのお墓に行って、お花替えて拝む。帰ってきて仏壇の花を供えローソクに灯を点ける。
ローソクの灯が消えるまでおじさんの遺影を見て近況を報告している。今回は報告することが多い。
外に車が停まる音がした。玄関の呼び鈴が鳴った。返事をして玄関に出たら、結愛ちゃん、友莉ちゃんお父さんお母さん家族全員が家に来た。何故だか分かんなかった。
畳の部屋へ上がってもらった。
友莉ちゃんのお父さんが、おじさんのおかげで長い間バラバラだった家族がやっと一つになれたから、おじさんに線香を上げさせてほしいらしい。
私は襖を開けて仏壇の部屋に案内した。
結愛ちゃんが「おじさん久しぶり。私、頑張っているよ」拝んでくれた。
また呼び鈴が鳴った。玄関に出ると、国立さんと中村さん、知らない年配の男性が2人と女性が1人。
国立さんが「中学の喧嘩仲間と俺の嫁だ。後から料理を持って高田もやってくるから。あれ先客が居るのか。駄目かな」友莉ちゃん達に気付いたみたいだ。
「吉村君か。君も山辺に恩があるのか」
「家族全員世話になりました」友莉ちゃんのお父さんが答えた。
「愛ちゃん良かったら山辺の前で、皆で飲みたいんだ。許してくれるかな」
「はい」私は答えた。
女性を紹介してくれて、国立さんの奥さんで、おじさんも含めて同級生。後の男性2人も同級生らしい。
どうしようと思っていたら、国立さんの奥さんが「台所に案内して私がするから」慣れているみたい。「私も手伝う」結愛ちゃんが。「私たちも」友莉ちゃんとお母さんも。
台所は女性ばかり5人になった。
呼び鈴が鳴った。マスターと奥さんが来てくれた。沢山の料理を持って。
夕方。佳菜子さんがやってきた。家の中の惨状を見て驚いていた。と言うより暫く放心状態になっていた。
「おじさんの昔の仲間みたい」佳菜子さんに言った。
「分かった」佳菜子さんは答えてくれた。
仏壇の部屋に行ったら、皆さん湯飲みでお酒を飲んでいる。佳菜子さんが挨拶した。
国立さんの奥さんが来て「佳奈ちゃん懐かしいわね。中学生の時にあったのが最後ね」佳菜子さんは誰だか分からないみたい。
佳菜子さんは「お兄ちゃんにこんなに友達がいたの知らなかった。あの人確か社長さん」
男の人達は仏壇の部屋で、女の人達は畳の部屋へ自然に集まった。
おじさんの恋話になった。
佳菜子さんは「初恋の人が忘れられなくて、30歳前まで引きずっていて、まともな恋愛しなかったのに、最後に良い子に当たった」私の事褒めてくれているのかな。
国立さんの奥さんが「初恋の人誰かしら」分からないようだ。
佳菜子さんが「雰囲気がこの子に似ていて、静かで、青い色が好きな人」
「あ。もしかして景子ちゃん。イメージぴったりよ。確か結婚して子供ができた時にご主人の転勤で遠くに行ってしまって、今はどうしているか分からない」国立さんの奥さんが。
「中学の時は、目立たなくて、勉強も何をやっても中位。女子では人気があるとは思わなかったけど。男子、特に今日来ているうちの旦那や仲間の中ではヒーローよ。旦那の話聞いても「山辺君が居なかったら俺はただの不良で人生が終わっていた。今の俺があるのは山辺君のおかげだって崇拝しているわよ。ありがとうね」私にお礼を言ってきた。
マスターの奥さんも「喧嘩して一番最初にいつも助けてもらっていたらしいの、うちの人喧嘩弱いのにね」
結愛ちゃんも「私の夢に向かっていくのを後押ししてくれた。今、一生懸命になれるのはおじさんのおかげ」
友莉ちゃんのお母さんが「結愛が家で喋れるようになって家が明るくなって、お父さんも帰ってくれるようになって、家族を一つにしてくれて感謝しています」
「私も。今が一番楽しい」友莉ちゃんが。
佳菜子さんは瞳に涙を潤ませながら「お兄ちゃん凄いね。私も飲む」と言って男の人の所にある一升瓶からお酒をコップに入れて飲んでいる。
私は胸の遺灰の入った袋を握りしめ、お腹を押さえた。
佳菜子さんが、こんなにはじけた姿、初めて見た。兄妹だから嬉しいんだろうな。
夜、遅くなってマスターと奥さんは次の日、仕込があるからと奥さんが運転する車で帰った。他の人達は家に泊まることになった。
朝起きて女性の皆さんに洗い物。余った料理は私と友莉ちゃん家でタッパーに入れて分けた。男の人達は掃除と片付け。
「皆さん。ありがとうございます」皆さんにお礼を言った。
国立さんには「応援よろしくお願いします」とバレーボールの件をお願いした。
国立さんの奥さんが「今度、息子にも会ってくれない」どうしようと思っていたら。
「バカ。半人前のあいつにはもったいない」と国立さんが反対してくれた。
友莉ちゃんと結愛ちゃんも「バレーボールの応援頑張ろうね」二人とも楽しみにしている。
そんな中、佳菜子さんだけ家の中で、起きてはいるのだけれど、二日酔いで気分が悪そうだ。
皆さんを見送って家の中に入ったら、私の部屋で休んでいるみたい。コップに水を入れて持って行ってあげる。
コップの水を飲み干すと「あー。お兄ちゃんのバカ」八つ当たりをしている。
「愛ちゃん今更だけどお兄ちゃんの事好き」
「はい」と答えた。
「そんな胸を張って言わなくても分かっているけど、私も好き。私が子供のころ虐められたり、仲間外れになった事なんて無かった。お兄ちゃんが遠くから見守ってくれた。子供ができない時も慰めてくれた。優しいお兄ちゃん。お兄ちゃんが最後に愛した愛ちゃん」
ハグされたと思ったらキスされた。
「お兄ちゃんの宝物。ずっと大事にするからね」
まだ酔っているのかもしれない。でも嬉しくて涙が出そうだった。
「佳菜子さんありがと」
暫く二人で抱きしめあった。
佳菜子さんが眠ったからそっと部屋を出た。
おじさんの部屋からパソコンを持ち出して、台所のテーブルでおじさんが撮った写真を見る。景色が多い。人を撮るのを避けているみたい。空・海・川・岩・木・花・草・鳥・虫・魚・時々お寺や橋・古い建物も多い。
やっと私が出てきた。正直恥ずかしい。
私が撮ったおじさん。真ん中からずれちゃって、ピントが合ってないのも多い。
『おじさんごめんね』
そうだ、応援の時もカメラ持って行こう。おじさんの形見。使えるうちは大事にしなくちゃ。神社へ行って写真を撮ってきた。やっぱりピントがずれている。おじさんはどうやって撮っていたのだろう。左手でカメラを支えていたけど脇を締めるんだ。カメラが軽い。右手は軽くシャッターを押すだけ。
もう一度神社へ行って撮ってみた。上手く撮れている。自信が付いた。
夕方に佳菜子さんが台所に来た。まだ、気分が悪いみたい。
「あー。久しぶりに日本酒飲んだから、ダメだわ。まだ頭クラクラする。今日も泊まっていくわ」
「どうぞ」冷たいお茶を出した。
全国高校総体バレーボール大会。開会式の3日前に恭子たちが最寄りの駅までやってくる。
改札を出てくる恭子を見つけた。手を振った。恭子も手を振ってくれた。
恭子は身長が大きくなっているみたい。体全体が一回り大きくなっている。後ろから植村先生も、二人が目の前に来たけど、止まった。
「愛、お腹。おじさんの赤ちゃん」恭子が聞いてきた
「そう。赤ちゃんできたって言っていなかった。ごめんなさい」私が答えた。
恭子がハグしてきた「会いたかった」
恭子の学校からは、今年赴任した教頭先生、もう一人の顧問の先生、選手の親からは3人の方が来てくれた。マネージャーは2人、選手は補欠も含めて12人。全員で18名。
私から恭子たちに、私の主要メンバーを紹介した。
先生方や国立さん達は個別に皆さん挨拶している。
「おじさんは」恭子が聞いてきた。
「亡くなちゃった」小さな声で答えた。
恭子と植村先生は、時間が止まったように放心状態になっている。
「もう一度お礼を言いたかったのに」恭子が呟いた。
私はマネージャーと親御さんのフォローをすることになっているから、選手団と一緒に行動をとることになっている。友莉ちゃんと西川さんも一緒に大型バスに乗って宿泊場所へ。いつの間にか新聞記者の女性の方が密着取材で行動を共にする事になっていた。
宿泊場所に着いた。凄い門構え。
「この地区一番の高級旅館。お肉美味しいわよ」西川さんが。
もう国立さん達は到着している。
気が付いたら入口に「光ヶ丘高校バレーボール部御一行様」と書いてある。
選手たちは、試合前できるだけ一緒に居た方がいいとの配慮から全員が寝られる大部屋に案内された。先生や親御さんたちは各部屋に分かれた。全部和室みたい。
食事の前に大部屋へ全員集合がかかった。
女将さんの挨拶があって。西川さんがこまごましたことの手配をして旅館に宿泊することになっている。それと新聞記者さんも密着で取材するなど連絡事項を伝えた。
夕食まで時間があるから、恭子と友莉ちゃん・植村先生・キャプテンと呼ばれている人と話をすることになった。キャプテンは私を知っているみたいで、学年は一緒で違うクラスだった。
「お腹おっきいね。何か月」
「もう8ヵ月」
「おじさんはいつ亡くなったの」寂しそうに恭子が尋ねてきた。
「今年の2月」
キャプテンが「恭子この一年間でエースになって県大会優勝の原動力になってくれて。いつも愛とおじさんが居てくれたからが口癖になっているの」
「もしあの時、愛とおじさんと会わなかったら家のごたごたでバレーボール辞めていたかもしれない」恭子が
「家と一緒だね」友莉ちゃんが間に入った。
「もうあなたたち人の家庭何件幸せ運んでいるの」恭子が私に向かって言った。
「そんなことないと思うけど」私が反論すると。
今度は友莉ちゃんが「責任とってずっと友達でいなさい」
「ちょっと。訳わかんない」
「あ。お母さん連れてくるね」と恭子は少し離れた所に居た女性を連れてきた。
「おかあさん」恭子は私に紹介してくれた。
「愛さんありがとうね。酷いことしたのにお友達になってくれて」恭子のお母さんは事情を知っているようだ。
植村先生は少し元気がない。やっぱりおじさんが亡くなったのがショックなようだ。
「先生元気ないね」恭子が植村先生に。
「山辺さん残念ね。なかなかあんな人いないから」
「あ。先生ダメだからね、おじさんには愛が居るから」恭子が植村先生をちゃかす。
「ちがうわ。人を強さと優しさで包み込んで、励まして背中を押してくれる人。山辺さんそんな人じゃない」植村先生が皆に。
恭子と友莉ちゃんは何かを気づいたようで、私の方を見てきた。
恭子がまた私にハグをしてきた。
「ありがとう。愛・おじさん」恭子は少し泣いている。植村先生とキャプテンも私を中心に腕を回してきた。
友莉ちゃんも涙目になっている。
『おじさん凄いね。皆、おじさんの優しさに触れた人たちだ』
国立さんが来てくれて何とか皆落ち着いた。
私は夕方佳菜子さんが迎えに来てくれて帰ることになっている。私が強引に佳菜子さんの協力もお願いした。
佳菜子さんが来るまで、今度は恭子の話になった。別れてからバレーボールをするのが楽しくなって。ちょうど上級生が居なくなるのも重なって伸び伸びできたみたい。体が男みたいに、筋肉が付いてきたのが不満らしい。
彼氏は、相手が別れたくないらしくて続いている。キャプテンに言わせればラブラブらしい。練習の帰りはいつも一緒に帰っていると冷やかしていた。
西川さんがやってきた。国立さんが言うには。西川さん仕事はできて、男に興味なし、食べることが大好き。変わっているらしい。
西川さんから、記者さんが、明日時間が空いた時に私を取材する事になった。記者さん興味あるみたい。
帰り際に、恭子と植村先生が来て
「おじさんのお墓参り行きたい」と言ってきた。明日午後行く事になった。
次の日。朝から学校に行って、男子が体育館にバレーボールのコートを準備する。私達女子は飲み物やタオルを準備する。
選手たちが来た。入ってきたら一礼して練習を始めた。
私、バレーボールのルールも知らない。でも恭子たちには勝ってもらいたい。
『頑張れ。恭子』
選手たちが練習している間、新聞記者の方から取材を受けることになった。
緊張して、恥ずかしくてきちっと答えられたか心配。でも随分長かった。
お昼はマスターのお店を借り切ってお昼。
ハンバーグとステーキのハーフ、野菜たっぷりのスペシャルだ。美味しそう。
佳菜子さんが来てくれた。佳菜子さんも同じお昼を食べて、私と佳菜子さん、恭子・恭子のお母さん・植村先生とでおじさんのお墓参り。私と佳菜子さんが最初におじさんと挨拶した。次に3人がお墓の前に並んで拝んでくれた。
「会いたかったな」恭子が呟く。
佳菜子さんの車で有名な神社に移動。選手より早く着いたみたいで神社では必勝祈願する予定。
門前町で名物のお菓子と冷たいお茶をいただきながら他の選手を待っていた。
西川さんから連絡があって、到着したようだ。選手の皆さんと合流して参道を歩いて鳥居をくぐる。空気が変わって神聖な場所に来た気がする。
佳菜子さんが「安産のお守り買ってくる」と社務所の方に行った。
本殿の中に入った。深呼吸した。
選手の皆さんと必勝祈願、初体験でした。
本殿から出てきたら佳菜子さんからお守りとお札を渡された。
私と佳菜子さんはこのまま帰って、選手の皆さんは少し観光して宿舎の旅館に戻る。
西川さんに今晩の食事は何か聞いてみたら「刺身とお魚の煮つけ。出汁が美味しいの。茶碗蒸し最高。出汁巻きも」幸せそうな顔。
家に帰ってきた。
落ち着く。今日も、おじさんに報告することが多い。赤ちゃんも元気ですくすく育ってくれている。夏休み中に準備しないと「おじさん手伝ってくれる。そんなことないよね」独り言。
家の中にはおじさんが居る気がする。
「何時も見守ってくれてありがとう。周りの皆が。周りの皆がおじさんの事言うの。おじさんが元気な頃、思い出しちゃった。一寸泣いていい」
左手で胸の遺灰を握り。右手をお腹に添えたら、潤んでいだ瞳から一気に涙が湧き出てくる。
だんだん涙もろいおじさんに似てきた。知らないうちに、泣くことまで教えてくれたんだ。
そのまま寝ちゃって。朝、蝉の鳴き声で目が覚めた。お腹の赤ちゃんが心配して、失敗したと思った。記録にないけどブラウスを羽織っていた。良かった。
今日はバレーボール大会トーナメント抽選会。明日の開会式の後から試合開始。
抽選会には応援メンバー全員参加。
高い所から抽選会の様子を見ている。恭子が言うには「何処と当たっても胸を借りる側だから目標はまず1勝」だそうだ。
抽選が始まった。抽選はキャプテンが引いた。初日の第2試合。相手は人に聞くと、全国大会常連校。恭子達と実力差は歴然とあるらしい。
選手の皆は元気にしているけど、諦めムード。国立さんが気付いたみたい。
会場の外に皆が出た。
国立さんが。選手の皆に。
「喧嘩に例えて悪いけど、俺の知っている奴は、どんなに力の差があっても全力でぶつかって、いくら殴られても、蹴られても立ち上がってきて、諦めなかった。だからそいつは一度も喧嘩に負けたことがない。俺達も全力で応援するから、負けてもいい、全力で悔いのない試合をしてくれ」
凄いな。もしかしておじさんの事かな。
選手達の雰囲気が変わった。
植村先生が私に「浜内さんの知り合いって凄い人ばかりね。私も頑張らないと」
開会式の後、光が丘高校応援団が会場に入った。4年生とダンススクールの皆が作った横断幕が会場を占領する。席が足らなくて大半の人が立って応援することになった。
私は選手達がいるすぐ後ろで椅子に座らせてもらって観戦となった。
試合が始まった。
緊張する。全然分からない。
周りの人が「拾え・拾え」と応援している。
植村 貴子
試合が始まった。
相手校は全国大会常連。実力差は歴然。やっぱり高さ決定力、何をとってもこちらに勝ち目がない。良い感じでスパイクしてもブロックに掛かってしまう。ブロックアウトを狙ってみるか、いやそんな器用な事うちの選手はできない。
向こうが10点取った。うちは3点。ダメだ、こちらの攻撃が何も通用しない。
何とか向こうのミスで10点は取った。でももう向こうは20点に届こうとしている。
どうする。こんな時にどうすれば、冷静になろう。
「拾え・拾え」浜内さんの応援だけが耳に入ってくる。浜内さんの方を見た。彼女だけが違う応援をしている「拾え」。
そうか、こんな簡単な事分かんなかった。
全国大会出場を決めてから、レベルを上げようとしてセットプレーやテクニックを磨こうとしただけだった。県予選の時何で勝ち抜いたか思い出した。うちにはうちのスタイルがある。
第一セット16対25まだ頑張った方だ。
選手たちがベンチに帰ってきた。精神的ダメージが大きい。
選手達に「いい、うちの攻撃は相手には通用しない。あなた達が何で県大会勝ち抜いたか分かる。点を与えなかったからよ。泥臭くいきましょ。ボールが1cmでも床から浮いていたら繋ぐのよ。あきらめちゃダメ」
宮田さんを見て「浜内さんが拾えって言っているわよ」
宮田さん、選手全員が浜内さんを見た。
浜内さんが一生懸命「頑張れ・頑張れ・負けるな・拾え」声を出している。
選手たちの目が変わった。
「私たちはチャレンジャーよ。ネバーギブアップ。頑張ってきて」
第二セット。
県大会の動きを取り戻した。何も考えずにボールに喰らい付く、かっこ悪くたっていい、泥臭く繋ぐんだ。いつか向こうがミスしてくれる。向こうは焦ってくるはず。焦りがミスに繋がる。
第二セットが終わった。
25対23。1セット取り返した。
次が勝負だ。
選手たちが返ってきた。
「いい感じ。でも向こうも修正してくるわよ。前の二人ブロックに入って。その分、他の人達は守備範囲を広くとって繋ぐのよ。勝てるわよ。ネバーギブアップ」
第三セット。
宮田さん頑張っている。3年生で最後の試合だからじゃない。浜内さんへの友情。違う償いなのかもしれない。走って、飛んで拾って。浜内さんが見ていてくれている。
マッチポイント。宮田さんのサーブ。お願い。サーブがエンドライン上に落ちた。
第三セット終了
25対23フルセットで光ヶ丘高校全国高校総体初勝利。
浜内 愛
応援はしているけど点が取れない。
「頑張れ・拾え」
試合が中断した。訳分からないけど応援を続けた。
「頑張れ・頑張れ・負けるな・拾え」
声が届いたのか、選手の皆が私の方を見ている。もっと応援しないと。
「頑張れ・頑張れ・拾え・拾え」
また試合が始まった。
今度は応援している人達は、地鳴りのような応援になった。何かうちが勝っているみたい。
「ヒカリ・ヒカリ・ヒカリ」
また中断。友莉ちゃんに聞いたら。これで5分5分、次で決まるらしい。
頑張れ恭子。あと少し。
恭子を見ていた。目はボールしか見ていない。ボールを追って走って、飛んで、叫んで奇麗で輝いている。
人は一生懸命になったらこんなに輝けるんだ。凄いな。もう負けたっていい、これだけ頑張ったら誰も恭子を責められない。
でも、勝ってお願い。
急に周りが静かになった。まるで時間が停まったよう。今度は歓声が体育館に響く。
友莉ちゃんも興奮している。周りの皆は立って喜んでいる。友莉ちゃんが「勝った。勝ったんだよ。強い学校に勝ったんだよ」
私も遅れて周りの人達と喜んだ。
選手の人達がベンチに引き上げてきた。恭子だけが私の所に駆け寄ってきた。私に抱き着いてきた。私も抱き返した。
二人だけだけど一緒におじさんも腕を回してくれているような気がした。
選手の皆と応援団全員が体育館の外で集合した。応援団、改めて凄い人数。うちの学校生徒の7割が来てくれた。
キャプテンが代表して応援団にお礼の言葉を言ってくれた。選手の皆も勝てるとは思っていなかったらしく、時々キャプテンも言葉に詰まっていた。
応援団の人達は惜しみない拍手を送っていた。
明日の2回戦。相手が決まった。今度も強豪校。何年かに一度超高校生級の選手が出る。その選手が居る学校で、はっきり言って優勝候補らしい。私は唯さん友莉ちゃんに「何でうちの相手って強豪とか、優勝候補とか肩書がついているの」くじ運が悪いらしい。
解散してやっと落ち着いた。選手たちの何人かが私の所にやってきた。
恭子が、私がしていた応援、皆と違って「拾え」と言っていたらしい。植村先生も私の応援が無かったら何もできないまま負けていたみたいで、何でと聞いてきた。
私はどうやって応援するか分かんなくて、周りの人が「拾え」と言っていたから真似しただけ。逆に不思議に思っている。
恭子が「今日の殊勲賞は愛ね」と言った。
急に選手達が私の周りに集まって、代わる代わるハグされて言葉をかけられた。分かんないけど「ありがとう」の響きが心地良かった。
驚いているのは国立さんや佳菜子さん唯さん友莉ちゃん。周りの皆はこの光景の意味が分からないようだ。
恭子はもっと喋りたかったみたいだけど、明日の試合もあるし他の選手と一緒にバスで宿舎の旅館に帰って行った。
佳菜子さんは「あなたの友達、凄いわね」と恭子を誉めまくっている。実際、今日の恭子は皆が凄かったって言っている。私は素直に嬉しかった。恭子が友達になってくれて。
おじさんが導いてくれている。そんな気がした。
今日も、仏壇の前に来ている。何時寝てもいいように布団をひいて寝る準備をした。お腹の赤ちゃんの事もあるし、2階に上がるのは大変だ。
今日の第一声は「今日、おじさん近くに居たでしょう。分かっているんだからね」
遺影を見ながら暫くして
「ありがとう。一緒に居てくれて」
2回戦。会場に行くと凄いことになっていた。新聞各紙、光ヶ丘高校の強豪校を破っているのが大きく取り上げられている。特に大きく扱っているのが、私が取材を受けた新聞で、地方版とスポーツ欄で2面に渡って記事が載っている。見出しが「友情が繋いだ応援と初勝利」。私と恭子が勝利の瞬間、抱き合っている写真も大きく、しかもカラー。恥ずかしい。
佳菜子さんが新聞を買い占めてやってきた。
「愛ちゃん凄い」ニコニコしている。
恥ずかしい。
学校の皆も「姉さん新聞に載っていた」を言ってくる。先生まで「姉さん写真映りいいね」と声かけられた。
佳菜子さんが「何で姉さん」聞いてきた。
苦し紛れで「国立さんと仲がいいから」
「そうね。国立さん迫力あるから」納得してくれた。
恭子と、選手たちが私を見つけてやってきた。選手達は「私にハグすると勝てる」と言ってまたハグされた。
植村先生から「お願い」と頼まれた。
選手の親や付き添いの先生まで握手を求められた。
やっぱり新聞の話になり。佳菜子さんが新聞を広げていたら、記事を書いた記者さんが西川さんとやってきた。記者さんも自分が書いた記事がこんなに大きく扱われて、喜んでいた。もう一度、私と恭子の写真を撮りたいと、会場入り口にてツーショットで。
他の写真も、西川さん経由で関係者に送ってくれるらしく、早く見たいし私も欲しい。
選手たちは試合の準備で控室へ行った。
試合会場に入ると、恭子たちは練習していた。相手の学校も練習している。皆、男の人より身長が高い。恭子も背が高い方だけど、恭子が相手選手の肩位。
恭子がやってきた。
「相手選手、皆大きくない」聞いてみた。
「大丈夫。昨日も平均身長10cm相手が高かったんだから」気にして無いようだ。
試合前、中央のネットで両校が並んで挨拶をする。改めて、相手校の選手は背が高い。大人と子供みたい。
試合が始まった。
点が拮抗している。相手が取って、こっちが逆転して、また逆転されて。応援している皆も手に汗握る展開に興奮して、応援に力が入る。誰も優勝候補の学校にここまでできるとは思わなかった。
恭子は今日も、汗いっぱいかいてコートを走って飛んで、一番ボールを追いかけている。
「頑張れー恭子・拾えー」声が大きくなる。
恭子と目が合った。恭子が微笑んで右手で合図を送ってくれた。
休憩になった。
応援団が、昨日みたいに「ヒカリ」コールが鳴り止まない。
友莉ちゃんに聞いたら、勝っているみたい。
恭子がまたこっちを見てくれた。今度は右拳を握って合図してくれた。
結愛ちゃんが「新聞見たよ。恭子さん頑張っているね。私が解説するから、お姉ちゃんよりはバレーボール知っているよ」
「まずこの試合は2セット取れば勝ちで、光ヶ丘高校が1セット取って断然有利。次の1セット取れば優勝候補に勝ってしまう大金星。はっきり言って凄い事」
「それで応援の皆が興奮しているんだ」
「始まるよ」結愛ちゃんが言ってくれた。
20点になるまでうちの方が早かった。「勝てる」皆が言っている。
そんな時だった。
恭子がボールを追って相手のベンチに飛び込んだ。ボールは帰ってきてうちの得点になった。歓声が上がって、急に静かになった。
相手のベンチに居たコーチが試合を中断させた。恭子が倒れている。
植村先生と選手が恭子の所に駆け寄った。担架が運ばれてきた。
恭子が担架に乗せられてこっちに来た。恭子のお母さんと私が付き添うことになって、医務室に向かう。
「愛。ごめん、しくじった。飛び越えられると思ったけど、椅子の後ろに荷物があってぶつかっちゃった」恭子が悔しがっている。
医師の判断はレントゲンを撮る必要があるので近くの病院へ救急車で搬送することになった。救急車の中は狭くて機械が沢山、あまり気持ちいいものではなかった。
病院に着いたらすぐにレントゲンで診察。
幸い骨には異常は無く、かなりお腹を強打して青痣ができている。痛みは治まってきたみたいだ。シップを張って時間がたてば痛みも引いていくとの事。良かった。
2時間後に恭子と一緒に会場に戻った。
試合は終わっていた。
選手皆の顔を見たら、結果は分かった。
選手が恭子の所に駆け寄ってきた。キャプテンが恭子の怪我の具合を聞いた。恭子は大丈夫だと答えた。
「恭子の抜けた穴は大きかったわ。でも、負けたってここまで来られたら十分。楽しめた。最後に応援してくれた人達にお礼しよう」キャプテンがチームの皆に。
解散になった。
結愛ちゃんが恭子に興味を持っている。なぜだろ。
恭子の所に、超高校生級の選手が来た。
「ごめんんさい。教えてほしいの。何で私たちの攻撃、分かったの」
「目線が遠くになっていて、あなたを見ていたらどこから来るかが分かって、一歩動けば手が届くところにスパイク打ってくれた。殆ど勘だけどね」恭子が答えて、相手はますます混乱しているようだった。
「次の試合頑張ってね」恭子が相手選手に。
「ありがと。優勝狙っているから」
恭子と超高校生級の選手が握手をした。
今度は結愛ちゃんが恭子に「おじさん知っている」
「おじさんって。愛の・・・」
「気が付かないかもしれないけど、生きているおじさんにモノじゃない何か貰った」結愛ちゃんが尋ねた。
「ん。沢山もらった」恭子が微笑んだ。
今日の夜、恭子と結愛ちゃん、何故だか西川さんが我が家に泊ることになった。
私と結愛ちゃんは晩御飯を恭子たちが宿泊している旅館で頂く。西川さんの手配。感謝・感謝。食費が浮く。
家に着いた私達。仏壇の部屋に集った。
西川さんが「私、会ったことないけど、惚れちゃった」残りの3人が驚く。
結愛ちゃんが「どうして」と尋ねた。
「私の家族、兄妹多かった。おまけに貧乏でお腹いっぱい食べた事なんて無かった。高校卒業して今の会社に入って、普段ケチな社長が山辺さんに係ることは、幾らでもお金を出すから美味しい物沢山食べられてこの一週間ほんとに幸せ。だから山辺さんのこと大好きになったの」
基準は美味しい物みたい。
「それから愛さん。私あなたに付いて行くと良いことがありそうだから、よろしくね」
「え。私何処にもいかないけど」
「んんん。一緒に居たいのかな。時々泊まらせて。あなたと居ると和む。兄妹多いと家では落ち着かなくって」
「はぁ。おじさんからの借り物の家だけど何時でもいいと思います」少し丁寧な言葉になった。
西川さんが私に抱き着いてきた。
「ダメー」恭子と結愛ちゃんが静止してくれた。
今度は恭子が私との出会いから、学校でのいじめ。家庭の問題。おじさんとの出会い。私との仲直りの為におじさんがしてくれたこと。そしておじさんの優しさ。
結愛ちゃんも、あのキャンプの日あったことを話ししてくれた。純粋におじさんの事が好きみたい。結愛ちゃんが目を潤ませ泣きだした。
「私、絶対アイドルになっておじさんに見てもらいたかった」結愛ちゃんが瞳から涙を流しながら
「私も時々おじさんを思い出して、此処で一人涙流しているの。おじさんがそばに居て見守ってくれているみたいで」素直に話しをした。
「そうだね。ここは愛の場所だもんね。きっと愛の近くに居てくれるよ」恭子が遺影を見ながら。
「どんな人だったのかな」西川さんが呟いた。
4人で、おじさんの話で、泣いて、笑って、怒って、朝まで語り合った。
初めて分かったこともあった。おじさんがお酒もたばこもやらないこと。私は、それが当たり前だと思っていた。一度だけ送別会の時、あの時飲んでいたのかな。でも、お酒の匂いしなかった。きっとお酒は苦手なんだと思った。
西川さんが「一緒にお酒飲みたかった」と言っているけど、私は、一生お酒は飲めない。おじさんはそのことを分かっていてくれたんだと思うと大好きなプリンを食べたくなった。
3個入りのプリン。一個ずつ私とおじさんで分けて残りの1個をジャンケンでいつも私が勝っていた。そんな小さな事が楽しかった私。あの頃から私は変わり始めた。
『ありがと』
次の日朝、皆が返って行った。西川さんと恭子は今日1日県内を観光して明日帰る予定だ。結愛ちゃんは自宅に帰って、明日私と結愛ちゃんは見送る予定。
この夏はいろいろあった。私の人生の中で一番騒がしかったかな。
来年の夏は、あなたと一緒。お腹に手を当てる。
窓から夏の空を見ている。少し暖かい風が家の中を流れていく。家の中の空気が入れ替わって心地よい汗がにじみ出て、少し強い風が吹くと汗が乾いて暑さを忘れさせてくれる。
緑色が濃い。セミの鳴き声がうるさい。
南の方角、大きな入道雲が流れ込んでくるように成長している。いつか家の上に覆い被さると雨が降る。2週間、雨が降ってないから、恵みの雨。
感じられる。自然を、色を。
2年後の冬
今日は成人式。雪が降ったり止んだりの天気だけど、足元は大丈夫そう。
唯さんの美容院で着付けをしてもらって初めて晴着を着た。佳菜子さんが「お兄ちゃんが着てもらいたいと思うから」と奮発してくれた。
久しぶりに友莉ちゃんと一緒に行動した。
友莉ちゃんは、大学生になって勉強も大変そうだけど、友達も沢山増えて学生生活をエンジョイしているみたいだ。時々、仲のいい友達で店を使ってもらっている。今日も沢山のお友達と一緒。
学校の男子も一緒で、未だに「姉さん」と呼ばれている。
成人式の最中、目の前で数人が騒ぎ出した。人の迷惑を考えてない人達。流石に度が過ぎている。壇上、来賓の人が困っている。
おじさんだったらこうするに違いない。
席を立って「あなた達、他の人が迷惑でしょう」少し大きな声で。
「なぁに。お前ここに住めなくしてやろうか」定番の脅し文句。
友莉ちゃんが私の横で立ってくれた。学校の皆が立ってくれた。周りの人が次々に立ってくれた。
「もう止めにしませんか」
暴れていた人達は静かになった。
会場から拍手が起きた。
式典も終了して、帰りに皆で雑談していると、暴れた中の3人が私の所に来た。
岩瀬君がその3人を知っているみたいで「姉さんに手出すとお前たちがこの町に居られなくなるぞ。それとも俺達とやるか」本気で怒っている。3人は何も言わず何処かへ行った。
「あいつら中途半端だから目立ちたいだけなんだ」岩瀬君は友莉ちゃん友達の人気者になった。
後で岩瀬君が私に。
「ずっと礼が言いたかったんだ。浪人して大学に入れるように頑張れたのは、浜内さんのおかげなんだ。ずっと君の背中を見ていた。ありがとう」
卒業してから会っていなかった岩瀬君。見違えるほど成長してかっこ良くなっていた。
一人で家に帰ってきた。
降ったり止んだりしていた雪は少し本格的に降ってきた。西川さんに貰った和傘がお気に入り。おじさんのお墓があるお寺までは歩いて行くには少し遠いけど、歩くことにした。
お寺までの道は車がやっと通れる狭い道、畑の真ん中。お寺は見えている。雪がうっすら積もって、誰も歩いてない道を狭い歩幅で歩いて行く。
何時もよりゆっくり歩いている。おじさんに晴れ着姿を見てもらいたい。おじさん、晴れ着姿見てなんて言うのかな。
狭い道を入って小さな門を通って1mほどの渡り橋を通り後ろを振り向く、うっすらと積もった雪の上に私だけの足跡が続いている。
お寺の裏におじさんのお墓、やっとたどり着いた。
「山辺家」横におじさんの名前「靖」が刻んであるお墓。枯れた花を奇麗な花に替えて、うっすら積もった雪を溶かしながら水をかける。
「今日、青は佳菜子さんに一日あずかってもらっているからゆっくり話せるね。晴着どう、おじさんに見てもらいたかった」声を出して話しかけた。
「青」はおじさんと私の娘。おじさんから名前を貰った。最近立って動いて手を焼いているけど、元気ですくすく育っている。人見知りしなくて誰にでもニコニコして駆け寄っていく、そんなときの目元はおじさんそっくり。
学校は無事卒業して、マスターの店にそのまま料理の勉強と修行させてもらうために就職した。最初は4年でマスターの持っている技術を全部教えてもらう予定だったけど、2年でマスターが教えることが無くなったと。好きだから辞めたくは無かったけど、次は和食で有名なお寿司屋さん。国立さんが間に入ってくれた。
先日、弟子入りの試験。
大将と一番弟子さん立会いのもと鯛が一枚まな板の上に乗っている。3枚に捌く試験らしい。包丁が2本、よく手入れされている。
鯛は捌いたことがない。そうだ、おじさんが捌いているのを見たことがある。夏のキャンプ。でも鯛の色が黒い、「なぜだろう」と思いながら鱗を取り始めた。内臓を出したら微かに変な臭い。白子も含めで捨てた。この状態で水で良く洗う。ここから3枚におろす。
以前キャンプ場でおじさんが鯛を捌いているのを思い出しながら。
大将が「なかなかや。何回か捌いたことあるんか」聞かれた。
「いえ、鯛は初めてです」答えた
大将は驚いていた。
次の課題が出た。「この鯛をお昼にお客さんに出せるようにする」
道具と食材はここにあるものを自由に使って良いとの事。奥の調理場を見た。出汁があった。調味料は一通りそろっている。あの時おじさんが作ってくれた「鯛飯」が食べたくなった。お米もコシヒカリの一級品。釜も見つけた。お米も洗って鯛も入れて火にかけた。
おじさんが作っているのを真似しただけ。その間にお吸い物を作る。おじさんがやっていた鯛のお頭兜割をしてみた。奇麗に半分に割れた。お吸い物を作っているときに油が浮いてきた、お玉ですくって取った。
5人分用意した。座敷に持って行くと国立さん中村さん西川さんがおられた。
「これは私も食べたくなった」大将が
「新しい裏メニューですね」西川さんが言ってくれた。
一番弟子さんが「私が10年かけて修行したことをすでに身に着けておられる。脱帽です」
「実はこの鯛は養殖です。良い魚を見ているんですな。これは店では刺身で出せません。私もいい勉強になりました」大将が言ってくれた。
春からこちらの店でお世話になることになった。
いつかは自分のお店を持って美味しい物をお客さんに食べてもらうのが夢。一歩ずつ近づいていく。
青が生まれてひと月位たってから、電話があった。団地に住んでいた時の町会長横山さんからだ。
「浜内さんのお母さんが返ってきたよ」興奮している。
お母さんにはこちらの住所と連絡先を伝え、直ぐに来てもらうように頼んだ。
その日の夜にお母さんは最寄りの駅に来てくれた。改札を出てきたお母さんに抱き着いた。懐かしいお母さんの臭い、変わらない。良かった元気で居てくれて。
話したいことは沢山ある。何から話していいか分からない。多分お母さんも。
二人とも黙って歩いて佳菜子さんの車まで来た。車の外でまだ小さな青が佳菜子さんに抱かれている。
「お母さん。青って言うの。女の子」
「え。もしかして愛の子」さすがに驚いている。
「そう。この子のお父さんは亡くなちゃったけどね」声のテンションを下げて答えた。
もうお母さんは何が何だか分からないみたい。
「こちらの方は」お母さんが佳菜子さんの事を訪ねてきた。
「この子のお父さんの妹さんで、佳菜子さん」
「よろしくお願いします。佳菜子と言います」佳菜子さんが言ってくれた。
一緒に家に帰っていた。佳菜子さんは気を利かして帰ってくれた。
青を寝かしつけて、私から話をした。
お母さんが家を出たところから、おじさんとの出会い、お父さんの事、団地の事、学校の事、図書館の事、映画の事。
そしてこの町にやってきて沢山の友達と仲間ができた事。その中心におじさんが居てくれた事。おじさんが病気で亡くなって、青が生まれた事。
「ごめんね。ごめんね」お母さんは繰り返した。
今日はこれくらいにして畳の部屋に布団を引いた。
いつの間にか、お母さんはおじさんの遺影に向かって泣きながら「ありがとうございました」と手を合わせている。
次の日からお母さんが話し始めた。
今までお母さんが話さなかった過去。お父さんとの出会い。駆け落ち同然で家を出て団地に住み始めて私が生まれた。
お爺さんお婆さんとは20年連絡を取っていないけど、連絡を取ってみるらしい。この日から、お母さんの中で何かが吹っ切れたみたいだった。
佳菜子さんとも話したみたいだった。今はおじさんの遺産で私の生活が成り立っていると聞いて驚いていた。
次の週からお母さんは働きに出だした。
そして、3週間後にお母さんのお爺ちゃんとお婆ちゃんがやってきた。お爺ちゃんは漁師で、お母さんのお兄さんが一緒に漁をしている。お母さんの兄妹は二人だけ。
流石にひ孫まで居るとは思わずに驚いていた。
お爺ちゃんたちが住んでいる町は、日本海側で冬になると漁はできないらしい。風が吹く前に漁に出たいと、次の日には帰って行った。
お父さんの家は、お爺ちゃんが住んでいる町では名家で水産工場を経営している。お爺ちゃんは帰ったら亡くなったことを言いに行くらしい。先の事はまた来るからと。
暫くして団地に住んでいた時の町会長にお礼の電話をした。
その時初めて分かった。「お母さんが返って来たらここに連絡してくれ」とおじさんが連絡先を言っていたこと。
私は、おじさんが亡くなってから、おじさんが見守っていてくれていると思っていた。
おじさんは亡くなる前に、私に生きるための道を作ってくれたんだ。最初は手を繋いでゆっくり道を一緒に歩んでくれて。私を導いて一人でも歩けるように。
青を抱いて、眠そうな顔を見て。そのまま遠くを見た。
私の人生におじさんの人生の足跡があるように見えた。
おじさんが作ってくれた道、何時までもこの道を歩いて行くから。
おじさんのお墓。
「靖」の字をなぞりながら。
『ここが私の行き先』
来た雪道を戻り、お墓を後にした。
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