第14話 結婚したら幸せか

お盆休みの最後の日、久しぶりに会社同期で育休中の大河内玲とランチ。


「今日、大丈夫だった?娘ちゃんは?」

「うん、大丈夫。娘は旦那が見てるよ。」


「そっかー、旦那さん、子守してくれるの助かるね。」

「イヤ、普段やらないから、こういう日くらい見ててもらわないと。」


「普段は育児してくれないの?」

「形だけだよ。育児だけじゃなくて、家事もお手伝い程度だからね。」


「え?」

「娘が生まれる前は、俺も育児一緒にやるからとか家事手伝うとか言ってたのに。

今は、私が育休でずっと家にいるせいか、お前がやって当たり前って思ってるのか、全くやらないよ。」


「でも、玲が職場復帰したら、協力ないときつくない?」

「そうだよ。9月からの保育園に入れるから復帰するけど、今の旦那を見てると仕事がプラスになる分、私の負担の増大が推測できて気が滅入る。

保育園に入れて会社復帰がいいのかどうか...。」


「体崩さないようにね。」

「体はなんとかなっても、精神的にきつくなりそう。」


「そんなに?」

「そうだよ。そもそも家事はどっちかが負担とかじゃなくて、共働きだからお互いがやって当たり前なのに、旦那はやったら一つ一つ報告してきてお礼を求める態度が余計イラつく。」


ランチタイムではなく、ディナータイムでアルコールがあったら、一気にワインボトル1本を飲み干す勢いだ。


「家事や育児の捉え方の違いかもね。」

「私、フル勤務に戻って収入が安定して娘が見てもらえる環境があれあば、何もせず態度は大きい旦那はいらないかもって、最近正直考える時があるよ。」


「そうだよね...お互いフル勤務で稼いでいるのに、玲は仕事と家事育児に時間を取られて、ご主人は仕事だけってなると、不満が出るかも。

でも、玲もご主人も愛し合ってるわけだし、娘さんのこと思うと...。」


「え!?優香、本気で?」

「え?!」

「いや...優香はてっきり自分と仕事中心で生きたい人だと思ってたから、愛や子どものために家族を続ける発想の反応が来るとは。

優香からは“収入安定して、育児の環境あればシングルもあり”的な返事だと思ったよ。」

「いや、さすがに私でも旦那さんや子どもがいたら、負担が増えてもパートナーや子どものことを思って頑張ろうって思うと思うよ...たぶん。」


「ふーん、意外。」

「まぁ、確かに血の繋がった親や兄弟でも今から一緒に暮らして、私の生活を続けるのは無理だから、新たな家族との生活は想像できないよ。

だから、私は結婚っていう選択肢はないけどね。」


「選択肢かー。私が結婚する時、その後の自分の生活とか大変さとか、考えなかったな。

付き合ってた旦那にプロポーズされて、仕事も落ち着いて年齢的にもちょうどよかったし断る理由もないから深く考えずokして、幸い自然な流れで子どもができて、今に至るだからね。」

「適齢期や流れか…。

うーん。私は結婚も育児のことも、仕事も、自分の負担を考えすぎなんだと思うよ。だから、結局は今も一人。」


旦那の態度に不満なのか、育児が大変なのか、9月からの仕事と家事の負担に困っているのか、何をどう解決すればいいのか、この苦労の経験のない私にはいいアドバイスが思いつかない...。

私が語れるのはきっと理想論とか夢物語だけだろう。


「今思うとさ、優香の選択の方が良かったかも。

娘がいないのは考えられないけど、自由にお金も時間も自分のしたいことに使えて、好きな人はいて、自分の人生を生きているって感じが羨ましいよ。」


「確かに時間もお金も恋愛も自由にできるよ。

…でも、玲には私にはない夫や子どもがいて、私はできていない経験もできて、私はそれがいいなーって思うこともあるよ。」


「そうだよね…ないものねだりかな…。

交際中やプロポーズや結婚式の時は夢しか描いてなくて、幸せしか感じてなかったのに、数年たって結婚して子どもがいても現実は幸せとは限らないって、今だとわかる。」


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