第13話 両親の想いと私の生き方
「優香、今、いいか?」
父がリビングで1人深夜のバラエティ番組を見ている私に声をかけてきた。
「ん?いいよ。テレビ消した方がいい?」
「いや、それはどちらでも構わない。」
「…うん。」
番組内の笑い声が急に煩わしく感じ、テレビを消した。
「昼間のことだが…。」
「あ…。お母さんの?」
「あぁ。優香は、結婚や将来のこと、どう考えているんだ?」
父が私にこの内容の話を持ちかけるのは、初めてかもしれない。
「私も、正直わからない。お母さんが言うように出産には適した年齢があるし、周りはみんな結婚して子どもがいる。」
「うむ。」
「でも、私もそうしたいとは思わない。」
「そしたら、優香は、どうしたいんだ?」
「今のままが、いい。フルで仕事して、子どもや家事に振り回されず仕事に集中できる環境があって、応援し合える彼がいる。」
「樹君とは、結婚とかの話にはならないのか?」
「うん…お互い、そういう話はしない。」
「そうか…。」
「お父さんも私に結婚を強いる?」
「うーん...お父さんもわからない。
結婚したら楽しいこともあるが、悪いこともある。それに、結婚して必ず幸せになれるわけじゃないし、離婚しないとも限らないしな。
しかし、優香が新しい家庭を築く姿が見たいとも思う。」
「そうだね。」
「お母さんの若い時は、女性はみんな20代で結婚して、専業主婦になるのが当たり前だった。きっとお母さんは剛と優香を育てて、孫がいて、今ある形が幸せなんだろうな。だから、偏見かもしれんが子どもが産めるうちに優香にもその幸せを知ってほしいんだと思う。もちろん、お父さんたちが死んだ後に優香が独りになってしまうことが心配というのも本心だと思う。」
「うん…。」
「優香は、そんなお母さんの気持ちが煩わしいと思うかもしれんが、そんな親心もあることを知っておいてほしい。」
「うん。もし、私がこのまま一生結婚しなかったり、子どもがいなかったら、娘の私に失望する?」
「それはないから、安心しなさい。優香の人生は優香の人生だ。優香が選択しなさい。」
「うん。」
「それから、人生で後悔するなとは言わん。ただ後悔した時に人のせいにするな。自分を責める必要もない。お父さんもお母さんも優香のことが大切だ。応援しているから、よく考えなさい。」
「ありがとう。ごめんね。」
「うむ。お父さんは寝るよ。おやすみ。」
「うん、おやすみなさい。」
どの選択が正解なのか、どの選択をすべきなのか、私にもわからない。
母の想いも父の想いもわかる。
今までの無言や遠回しの圧力ではなく、母の経験した幸せの形と、父の見守ってくれる優しさを言葉として聞くことができて、無意識に年齢と結婚や出産に対して張り詰めていた気持ちの糸が緩んだのを感じた。
将来、結婚してないこと、子どもがいないことを後悔する時が来るかもしれない。
でも、今、自分の意思をねじ伏せて結婚や出産をするための人生を選択したら、その選択を後悔するかもしれない。
どちらを選んでも後悔するのなら、今ある自分の生き方を守っていきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます