第12話 結婚、結婚ってうるさい
いくら軍艦の海苔をゆっくり噛んで飲み込む。
「結婚とか出産とかそういうことは、考えてません。」
母の顔が一層険しくなった。
「前にもそう言ってたけど、あなたは今のことしか考えていないから、そういうことが言えるのよ。」
「私も前に言ったけど、今までも今もこれからも、私の考えは変わらない。」
「樹さんも35になる女性とお付き合いしてて、結婚とか考えてないのかしら。無責任というか、全く何を考えているのか...。」
こんな風に彼の責任問題にされるなら、“彼氏いないフリーの娘”で押し通した方がよっぽど良かったかもしれない。
「彼は関係ないでしょ。私たちは私たちの成り立つ形で付き合ってる。」
「それはあなたたちが都合のいいように考えてるだけのように思えるわ。ただ付き合ってるだけなんて、あなたはもう若くないのよ。
あなたが将来歳をとったときに私たちが先に死んだら、独り寂しく生きていくなんて、不憫だわ。」
結婚したら永遠にパートナーが傍にいるとも、子どもがいたら必ず親の面倒をみるわけでもないし、頼れるとも思えない。
「寂しくならないように、迷惑かけないように、施設に入れるように、お金を貯めるよ。」
「そういうことを言ってるんじゃありません。地元の同級生はみな結婚して子どもがいるじゃない。なぜ、普通に生きられないの?35歳にもなって、結婚もしないなんて...。」
母にとっては、女性として、結婚の賞味期限は35歳よりも前だったのだろうか。
結婚して子どもがいることが普通って誰が決めたんだ。
他人では言えないことを家族の特権か、ズケズケ言ってくる。
「もう、いいじゃないか。この話は。」
私の頭の中のゴングが鳴る直前、父が再び口を開いた。
張りつめてた空気が一瞬緩むが、一瞬で終わった。
「貴方は、優香のことが心配じゃないの?」
母は父を攻撃し始め、私は心の中で父を応援する。
「優香の人生だから、俺らが決められることじゃない。未婚を貫く人も少なくない。もうそういう時代なんだ。」
「時代って...それじゃ、私たちは結婚すべき時代だったから、貴方は仕方なしに私と結婚したんですか?」
「そういうことを言いたいんじゃない。
みんながせっかく集まったのに、今話す内容じゃないだろう。」
「今、話さなかったら、いつ話すんですか?」
「優香は結婚する気がないんだから、話さなくていい。」
「はぁ。全然、理解できないわ。」
誰かが誰かに話しかけることもなく、昼食を食べる。
さすがの5歳の姪も空気の重さを感じているのか、口数が少ない。
結婚するとかしないとか、子どもがいるとかいないとか、時代の変化とか私にとっては重要ではない。
母から受けるマリッジハラスメントは、母の考え・心配する想いから生じているとわかるが、その攻撃に負けて私は私の意思に反して結婚はできない。
まして、“結婚”“出産”“老後”のために結婚するなんて、論外だ。
この私の価値観を母に理解してもらうことは難しいかもしれないが、せめてそっとしておいてほしいと願う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます