第11話 実家に帰りたくない
仕事も彼とも平和に過ごし、とうとう今日から“お盆休み”。
2泊3日分の荷物を持って、実家の門をくぐる。
「ただいまー。」
出迎えてくれたのは、専業主婦 60歳 母だ。
「あら、お帰り。もうすぐ昼食だから、荷物置いてリビングへ降りてきてちょうだい。」
「はーい。」
両親、兄夫婦とその子ども1人と私の6人がダイニングテーブルを囲んで、出前のお寿司とすまし汁、サラダを食べる。
「優香さん、最近、お仕事や体の調子はどう?」
母はなぜか昔から、私をさん付けする。
「うーん、ぼちぼち。」
「そう。彼の樹さんとはどう?」
去年、母の執拗なリクエストで彼を両親に紹介して以来、彼を名前で呼んでいる。
「うん、ぼちぼち。」
「そう。」
急に兄も会話に入ってきた。
「付き合って、どれくらいだった?」
「うーん、5年目かな。」
次はお嫁さんだ。
「はづきの生まれた歳に交際を始められたんですね。」
「あぁ。そう言われてみれば。」
そうか、もう兄の子は5歳か。早いな。
「そうね、はづきちゃんはもうすぐ5歳ね。優香さんは、この5年何をしていたのかしら。」
母の言葉の意図が予測できるから、イラっとする。
「それなりに仕事をがんばってたけど…。」
「仕事もいいけど、あなたは、この前35歳になったじゃない。」
「あら、お姉さん、もう35歳なんですか。お若く見えるから35歳だなんてびっくりです。」
何気ない嫁の言葉にもイラッとする。
「そうなの。もう35歳。早すぎて、私もびっくり。」
「見た目が若くても、35歳は35歳ですからね。そろそろ、優香さんも結婚かしら?」
母の言葉でお寿司が一気にまずくなる。
「まぁ、優香は仕事を一生懸命がんばっているし、樹君ともうまくやっているんだから、そのことはいいじゃないか。」
父は私と母の会話と張りつめた空気を終了させるため会話に入るが、母はそんなに優しくはない。
「貴方、よくないです。優香はもう35歳。」
「うむ…。」
「いつも言ってるけど、今は不妊の女性が増えてるって聞くし、高齢出産は先天性異常とか死産のリスクだって…。」
「母さん、優香は優香のペースがあるから、別にいいじゃないか。それに、不妊は年齢や女性だけの問題じゃないって前テレビで観たぞ。」
兄が口を挟み、母に意見するが…。
「そうだとしても、優香さんはちゃんと結婚や出産のことを考えているの?」
本人を前にすべき会話ではないでしょう。
帰宅早々にこの会話をする母を疎ましく思いながら、いくら軍艦を口に運ぶ。
そして、毎回、実家に帰るたびに母からこのハラスメント的言葉を突きつけられる。
だから、実家に帰りたくない。
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