第9話 彼と年齢と私

彼と向かい合って座っているのに目が合わせられない。


コーヒーはもう冷たくて酸味と苦みが増しいて、まさに苦い気持ちの私の心を味にしたようだ。おいしくない。


手を繋いで私も謝って、この空気をよくしたいけど、根本的に話の解決ができてない。


「ごめん。樹の言う通り、私は“35歳”を意識している。年齢がイヤとか、受け入れられないとか、そういうことじゃない。」


「うん...。」


「35歳になった日、賞味期限のプリンを見て、樹からメッセージもなく私も賞味期限かと、思えて悲しかった。もう、彼女として、女性として、魅力ないのかとか...樹に聞くのが怖かった...。」


やっと言えた。

言葉にすると思ってたことが肯定されそうで、怖くて言えなかった事が言えた。


「そんな思いさせてごめん。

優香は、俺にとって大切な彼女だし、女性として見てるよ。俺も優香の誕生日に会いたかったしお祝いしたかったけど、余計なことをしたら不快かと思った。

でも、何かいい形でお祝いできない自分にムカついてた。」


「なんか、お互い空回りしてすれ違った感じだね。」


お互い冷めたコーヒーを飲む。


「俺、思うんだけど歳の問題じゃなくて、歳を言い訳にしてるだけじゃないかな。」


「え?」

意味がわからない。


「怒ってたうちの会社の女性はなぜ怒ってたかはわからない。俺の想像だけど、女性として、社会人として、何かしら描く35歳以上の像があった。

でも、そうなっていない自分がいて、時間が過ぎるのがイヤなんじゃないかな?」


「...うん。」


「だから、歳を重ねたことをお祝いという形で思い知らされる気がして、怒ってた。八つ当たりのように。

でも、それは歳を重ねることが問題なんじゃなくて、自分が正しい選択と行動とそれに伴う結果が出てないことを、その女性は歳のせいにしている気がする。」


「なるほど...」

その考えはなかった。

もし、誕生日に私が35歳だからと言い訳せずに、素直に彼に会いたいって言ってたら、違う結果になってたかもしれない。


「俺は全く関係ないその女性の声を一般論だと思い込んだ。その女性と優香の35歳の捉え方は違うし、怒っている原因も違う。

この先もおばあちゃんになっても優香は優香だし、一緒にお祝いしたい。だから、年齢のせいにしなくていいし、この件で年齢を気にする必要はないよ。本当、ごめん。」


わかったような、わからないような...

でも、私は彼が私の年齢を気にしてなくて、歳を重ねることを受け入れてくれていることがわかって、安心できた。


私と彼の会社の女性の原因のポイントは違っても、私も年齢のせいにしたのは否めない。


35歳の35は、賞味期限でも悪魔の数字でもない。


彼と向き合う勇気がなくて逃げ道として、私が数字にそう意味を付けただけだった。

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