第8話 35は悪魔の数字
樹の一言がひっかかった。
「ん?お祝いを不快に思うってどういうこと?」
「優香が35歳になったから。」
私の顔が赤くなるのがわかる。そんなに35歳はだめですか?
彼の言っている言葉が理解できない。
「35歳って…意味がわからないんだけど。35年生きたら35歳になるよ。」
苛立ちなのか、情けなさなのか、悲しさなのか、複雑な感情が爆発しそう。
「優香の歳の問題じゃない。そうだけど。」
「そうだけど?」
「さっき優香が部下に1歳増えたことをお祝いされたのが不快っぽかった言い方してた。…優香は、35歳をお祝いしてほしかった?」
はい?この彼は、何言ってます?
「そうだね…樹と誕生日を過ごしたいと思ったよ。その部下からじゃなくて、樹からおめでとうの一言くらいほしかったよ。」
部下にお祝いされて不快だったのは、誕生日に樹と過ごせなかった寂しさで気分が落ちていたのに、何も知らない木瀬に明るくお祝いを言われたから、八つ当たり的な感情。
うまく彼に伝えられない。
「そっか、ごめん。間違ってた。」
「何を?」
「会社で女性スタッフが少し前に、35以上の誕生日のお祝いは全然うれしくない、むしろへこむとかムカつくからそっとしておいてほしいって話しているのが聞こえたから、優香もそうかと…そっとしておいた方がいいと思った。」
湯沸かしケトルのように急速沸騰しそう。
「私は、そんなこと一言も言ってないし、願ってもいない。なんで聞いてくれなかったの?」
「聞けないよ。同じ女性が言っていることだよ。変に聞いて優香を傷つけたら、だめでしょ。俺もどうしたらいいのか悩んだよ。」
「私は…確かに、歳をとることは嫌だし、若い子の方がいいなって思うときもある。でも、誕生日は好きな人と過ごしたいし、お祝いされたらうれしいよ。」
「…ごめん。」
35歳以上?女性の意見が聞こえたから歳を意識して、お祝いできなかったって…。
こんな理由で、誕生日を一緒に過ごせなくて、メッセージもなかったなら、単に忘れられていた方がよっぽどましだった。
こんな思いにさせる“35”がいけないんだ。
女の賞味期限と年齢とを考えさせる“35”がいけないんだ。
単なる数字でも、年齢でもない。
悪魔の数字だ。
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