第5話 受け止め方の変化

3人が去ったおかげで、ようやく私たち2人も移動できる。


「大滝チーフって、いつもどこでお昼食べているんですか?」

「え?適当に外で済ませてる。なんで?」

「あまり社内で見かけないなーと思ったので。」

「あー、確かに、社内では食べないかも。お弁当持参しないし、買ってこないから。」

「あの…もし、よければこのまま一緒に昼食食べに行きませんか?他の人と約束がなければ…。」 


どうした?!!長谷川!!!!


「うん、いいけど、蕎麦を食べる予定だったけど、いいかな?」

「はい!蕎麦、大丈夫です!」


カフェルームを出る際、ふと斜め後ろを向くと、峰と目があった。

げっっ!!!私がいたことがばれてしまった。


断る理由がなかったので、週一で食べているお気に入りのお蕎麦屋さんで、長谷川と向かい合ってそばを待っている。親しいわけでもなく少し緊張するし、困ったことに会話内容が思いつかない。


「チーフ。」

「ん?」

「いつもぼっちランチですか?」

「え…?ぼっちランチ?」

「あ、独りぼっちランチのことです。」


今はそうやって言うのか…。


「そうだよー。前は育休中の大河内とよくお昼食べてたけど、彼女が育休入ってからは独りかな。」

「誰か誘わないんですか?」

「いまさら馴染みない人とごはんって面倒じゃん。だから、声がかかったり、用事があれば会社の人と食べるくらい。」

「そうですか。僕も基本ぼっちランチです。」


あ…そう。理由を聞いた方がいいのか?いや、その事実を聞いただけで十分か?あまり会社の人と仕事以外で関わることがないから、どこまで立ち入っていいのかわからない。

救いの一声が聞こえた。

「天ぷらそば2人前、お待たせしましたー」


待ちに待ったお昼ご飯!

木瀬たちの登場で遅くなった分、空腹を感じていて出汁のきいた蕎麦の汁がいつも以上においしい!!!


「チーフ。」

「ん?」

「木瀬さんのこと…。もう少しがんばってみます。」

「えぇ?」

「さっき、木瀬さんと峰部長たちとの会話を聞いて、馴れ馴れしさも、性別気にしない会話内容も、木瀬さんの性格だから仕方ないのかも。と思えてきて。」


「でも、長谷川さんにとっては木瀬さんとの関わりが不快だったんじゃないの?」

「はい…そうです。僕は恋愛とか男女とかの内容は、木瀬さんに限らず誰と話しても不快に感じてた気がします。ただ木瀬さんの場合、頻度が高くて不快さが増していたんだと思います。」

「うん。」


「木瀬さんは恋愛とかの話を僕にするだけじゃなく、いろんな人と話をしている様でしたし…。あと、チーフに聞いてもらって、話す前の不快感が今は軽くなったんです。誰かに知ってもらいたかったのかもしれないです。だから、このまま指導者続けさせてください。」

「そう…。長谷川さんが、そう思うならそれでいいけど。」

「はい、相談しておきながらすみませんでした。」

「私はいいよ。特に何もしてないしね。無理しないようにね。」

「ありがとうございます。」


人の考えも心の動きも不思議だ。

ちょっとしたことがきっかけで、解決してしまった。


昔の私も入社した当初は、男性に限らず女性スタッフや上司から恋人とか、結婚とか、メイクとかの話題を振られるだけで、イライラしていた。

自分が嫌いな人に何か仕事以外のことを言われると、何を言われても不快に感じていた。

不快感が態度に出て、仕事以外の話をしなさすぎて当時の上司に“態度が悪い”と注意を受けたくらいだった。

今以上に強気で、短気で、許容範囲の狭い人間だった。

懐かしさで笑えてくる。

蕎麦食べて、さっさと会社に戻ろう。


「チーフ、なぜチーフは冷静なんですか?」


昼食時間が、長くなりそうだ。


「はい?また唐突な質問だね。」

「あ…すみません。さっきの木瀬さんの会話で僕的に結構、失礼だなって思いました。でも、チーフは聞いているときもその後も表情変えないし、愚痴を少しも言わないし。気になって。」


「えー。正直、年齢言われたり、若い方がいいだの言われたり、悲しかったし情けなく感じたよ。動揺もしてた気がする。」

「僕からみて、その態度は全くわかりませんでした。」

「まぁ、若さの情熱もセンサーも衰えて、年々、反応が鈍くなるのかもね。それに、それくらいの情緒は長谷川さんも数年後にはコントロールできるよ。」

「そういうもんなんですね。」

「そうだよー。嫌なことを我慢して、自分を犠牲する必要はないけど、受け止め方を変えることはできるし、関わり方を変えることもできる。」

「自分を犠牲にしないで、変える…。」

「例えば、木瀬さんは年齢について視野の狭い考えしか持っていないかわいそうな子とか。この考えはオフレコだけど。自分の問題ではなくて木瀬さんの問題であって、意に介することじゃない。みたいな?」

「なんとなくわかるような気がします。」


「偉そうに言ったけど、私も悩んだ時期はあったし、社内の人間関係で辞めたいって思ったことも多々あったよ。学校やプライベートみたいに好き嫌いで関わる人間を選べないから、時に辛いよね、会社や仕事って。」

「そうですね。」

「きっと、私の悩んでた時期は相手のことを考えずに態度が悪く拒絶してたから、仕事仲間もやりずらかったと思う。でも、仕事のためにコミュニケーションを取ろうとしてくた。相手ももし、仕事相手を選べるなら私を選ばなかっただろうなーって今は思うよ。」

「そっか…そうですよね、すべての人間が相手を好きで選んでいるわけじゃないし、何かしら感じながら仕事しているんですよね。」

「はー、なんか考えると気が重くなっちゃうね。」

「すみません。僕が変な質問したから。」

「いや、長谷川さんのせいじゃないよ。私も完璧な人間じゃないから、相手を認めるっていうか受け止めるゆとりを作らないとなーって、改めて思えたよ。ありがとう。」

「いいえ、僕の方こそありがとうございました。」

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