第3話 単なる会話かセクハラか
「先輩、今お時間よろしいでしょうか。」
急に背後から声をかけてきたのは、7歳下の長谷川涼平だった。
声のトーンが重たいような暗い表情をしている。
昨日の独りぼっち誕生日と今朝の木瀬のトーク内容に続き、なんだか嫌な予感はする。
「うん、大丈夫だけど、ここでいい? 場所変えた方がいい?」
「場所、変えていただけたら助かります」
昼休憩まで中途半端な30分くらいで、ちょうど社内カフェルームには誰もいなかった。
一番奥の壁側のパーテーションで仕切られた2人かけテーブルに座った。
「さて...どうしたの?」
「実は、席を移動させてもらえないかと...というよりは、木瀬さんの指導担当から外してもらいたくて。」
我が社は1年目新人にピッタリと指導者が付き、2年目は引き続き同じ指導者がアドバイザーとしてフォローするため、席が隣になっているが、唐突に面倒なことを言ってきた。しかも、木瀬絡み。私はチーフ(スーパーバイザーポジション)なため、この人の相談を聞く義務があるため、溜息が出ないように気をつけないと...。
「うーん。言いにくいかと思うけど、理由を聞いてもいいかな?」
少し沈黙があり、話すべきか話して良いか長谷川は考えているようであったが、結局は口を開いた。
「その...木瀬さんは明るくて元気が良くていい子です。指導したことも修正してくれます。しかし、パーソナルスペースを無視して接近してくるのです。」
「パーソナルスペース...?」
「なんと言うのか...表現が難しいのですが、彼女にとっては何でもない会話や冗談かもしれないですけど、プライベートな内容の質問や会話をしてきて困るんです。彼女のおしと言うか、テンションについていけないというか。」
今朝の木瀬と私との会話を思い出し、長谷川の言いたい意図が分かる気がした。
「つまりはプライベートな会話を業務中にされて、困っているってことかな?」
「はい、そうです。」
「それから...何か会話の途中で僕の腕を掴んできたりするのも、困っていて...
コンパを開催してほしいと何回か催促されたし...」
「うん…。」
「そこまで仕事への支障はないのでセクハラとまで言えないかもしれないですが、結構、しんどいです。」
今時、プライベートや恋愛・年齢・外見などに関わる内容の会話はデリケートでセクハラと受け取られ、よほど親しくなければ職場で話題にする人はあまりいない。
「コンパは開催できないとか、話題変えたり、腕掴まないでって木瀬さんに話したことは?」
「え...いいえ。そういうことって本人に言いづらいですよね、普通。それに、それを言って木瀬さんと仕事がやりにくくなるのもイヤですし。」
「そうだよね。」
指導者交代を相談するほどイヤなら適当に答えるとか、さりげなく会話内容を変えればいいのに。自分の不快な言動をされてそれを相手に伝えて仕事への影響って、どれだけ幼稚だとも思うが、伝えることで改善されるとも限らないし、正解とも言えない。
「まずはマネージャーに相談させてもらうね。急に指導者変更は難しいと思うから、まずは木瀬さんに業務態度ということで注意をするかも。もちろん、長谷川さんのことは表に出さないよ。少し時間をちょうだい。」
「はい、お願いします。」
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