第1部 第3章(1)荒ぶる神の御霊の鎮め方

 また見知らぬ天井だ。最近はこんなのばかりだ。

 しかし、今回の状況が過去2回と大きく異なるのは、隣に裸の万理が眠っていることだった。

 殺し合いをやっていたはずなのに、一体どういう状況なんだ?

 悟郎は混乱した。

 身を起こそうとしたが、体が重い。自分の体ではないかのようだ。


「ようやくお目覚めか、寝坊助くん」

 悟郎が起きた気配に気づき、万理が微笑みながら声をかけてきた。

 万理が上半身を起こす。真っ先に目に入ったのは、形のいい乳房だった。ついで目に入ったのは、彼女の白い肌に浮かぶ赤黒いあざや咬み痕だった。彼女の首筋や胸、上腕などいたる所についている。

 どう考えても事後だ。だが、まったく覚えていない。本当に俺がやったのか?

「これはどういう?」

「あら? いいように弄んだくせに、何たる言い草!」

 甘やかな声でそう言った後、万理は悟郎の上に覆い被さってきた。悟郎の顔に触れそうな位置に彼女の胸がくる。

「そんなつれないことをいう人には少しお仕置きが必要かしら?」



 神の荒魂を鎮める方法について悟郎が聞いても、万理が答えにくそうにしていたのはこういう訳だったのか。ようやく納得がいった。

 考えてみれば、よくある話だ。日本のみならず、世界中にも。だからといってそれが我が身に起こったとき、平然としていられるかというと、それは別の話だ。万理にとっても、悟郎にとっても。


「最初にこの役目を仰せつかったとき、すごいショックだった。候補は何人かいたみたいだけれど、最終的には私に白羽の矢が立ったの。

 でも、どうせ逃れられないのなら、自分の好きなようにしようって思ったの。だから、光輝く中あなたが降りたって、その姿を初めて見たとき嬉しかった。私の思い描いたような人だったから。もう、神様には感謝しても感謝しきれないわ。

 川上は筋骨隆々とした身の丈七尺もあるような大男をご所望のようだったけれど、そんなのは願い下げだわ。強くて逞しくて、けれども繊細で、優しくて…、そんな人を請い願ったの。そうしたらあなたが来てくれた」

 ここで万理は言葉を切り、悟郎の上に馬乗りになった。そして、万理が今まで右の手で弄んでいたものを、彼女の中へと招き入れる。悟郎は彼女のなすがままに任せた。

 万理の口からため息がもれる。


「けれどね、いくつか誤算もあったの…」

 彼女の声は先ほどとは打って変わって深刻なものだった。

「悟郎、あなたの力が強すぎて、あなたが下ろした荒魂を鎮めるには私では役不足だったということ。そして、わたしがあなたを好きすぎて、もう離れたくないということ。

 もう私は死んでいくの。多くの死穢に触れて、神の荒魂に触れて。最初はそれで仕方がないと思っていた。それが私の運命だったんだって。けれどね、あなたに触れて変わったの。それじゃあ嫌だって。だから、私と死んで? ね?」

 万理はどこからともなく取り出した短刀で、悟郎の腹を突き刺した。

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