第1部 第2章(8)悪寒

第一部 第二章(八)悪寒

 悟郎はどれくらいそうしていただろうか。目も徐々に見えるようになってきた。

 そして悟郎が目にしたのは、殴打され、切り刻まれた無残な男の姿だった。首は考えられないような方向を剥いている。浅黒い肌、こびりついた血の中にあって、大きく見開かれた男の白目が嫌に目立った。

 しばし、悟郎は呆然とした。自分がしでかしたことを受け入れがたかった。


 いけない!

 悟郎はまだ戦いの途中だったことを思い出した。周りを見回し、気を配る。動いている者は自分以外にいないようだ。

 凄惨な光景に声が出せないのか、観覧席も静まりかえっている。

 悟郎は地面に手をついて立ち上がった。右手に持った短刀の刀身はひしゃげ、用をなさない。太刀も倒れたときに曲がってしまった。思い入れのあるものだっただけに、親友が死んでしまったかのような喪失感に襲われる。

 左手が使えないので、片手のみで祈りを捧げる。


 使えそうな得物を探すが、手ごろな槍は落ちていない。仕方なく死体から太刀を奪う。怪我や疲労で瞼がいやに重い。体もふらつく。それでも、悟郎は自分以外全員の死亡を確認するため、右肩に抜き身の太刀を担ぎ、場内をくまなく歩いた。

 死に切れずに苦しんでいる者が数名いた。悟郎はその者たちの頸動脈を切り裂き、あるいは心臓を刺し貫き、楽にしてやった。


 突然、悟郎を悪寒が襲った。背筋を何かが這い上ってくるような不快感。身を襲う痛み、苦しみ、恐怖に全身が震える。堪えきれず、悟郎は意識を失い、膝から崩れ落ちた。

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