2章 第8話

ヒナガ達にお礼を言うカレンはアリサの方に向く。


「アリサさん、わたし子供達の様子見てくるわ、ヒナガちゃんアスガちゃん、トウマはああ言ったけど、二人の事感謝しているのだから」

「「分かった、さっきの言葉は気にしてない」」


 ヒナガ達はトウマが酷(ひど)いことを言った事を気にしてなかった。自分達が化物だってことは分かっているから、死者と同じ化物だと分かっているからだった。


 カレンはアリサ達に「ありがとう」っと伝えると、子供達の所に向かった。ヒナガ達もそろそろ街のパトロールを始めるとアリサに伝える。


「わたしもパトロールに行くわ」

「アリサ先輩は安静」

「ヒナガお姉ちゃんとわたしで行く、アリサ先輩。今の状態は足でまとい」


 アスガの頭に軽くチョップするヒナガ、最後のは一言余計だったらしい。アリサは二人のやりとりが面白かったのか、クスクス笑う。


「そうだね、わたしもう少し休んでおくね、パトロール任せるわ」


 ヒナガ達はアリサの手を握る。ヒナガ達の手は冷たかった。


「「無理しないで、わたし達を頼って」」



 二人の手は冷たいが、心が暖かく、穏やかになっていく。これは一体なんの感情かわからない。


 だがアリサは二人のお陰で元気になっていくのがわかった。

   

 ☆☆☆


 数時間前


 街の中央のバリケードを守る少女がいた。


「はふ~ヒマだな……うん?」


 バリケードに向かって来る、車があった。クミは止まれ!っと言うがこっちに見えてないのか車が猛スピードで近づいてくる。


「うわぁ!?」


 クミは地面に伏せると、車は横に過ぎて行く。誰が操作していたのか、確認する為にすぐ立ち上がり、クミは近付こうとした時に、バリケードの近くに知らない少年が立っていた。


「あれ、君もしかして、外から来た子?それとも。あの車に乗っていた?」

「うんうん。違うよ、それよりお姉さん、車はいいのかい?」


「違うのかな?とりあえず、わたしと一緒についてきてもらっても……あう!」


 ドサリとクミが倒れる。

 たった今、バリケードで見張りをしていた少女は少年によって気絶されていた。


「こうも簡単にこの街に干渉かんしょうできるなんてね、それにこんなありきたりの罠の張ったバリケードなんか並べて······全く、随分と舐められたものだね、こんなもの僕や化物達にとっては無意味でしかないのに」


 ここで化物を放っても良いが、知能のない化物はすぐに街を壊すだろう。それでは困る、これからこの街は僕たち人間の物になるのだから。


「まあ、壊れたとしてもこの街は一晩で直るけど。まあ、まずはこの街の観光をしようじゃないか。できるだけ亡霊とは会いたくないけど、見つかったときは殺せばいいだけだしね」


 少年はクミを車の近くまで運び、見つけやすい所に横に寝かせた。車を操作して者達と共に死者達に喰われるか。もしくはあの銀色の双子が助けに来るか、どちらになるか楽しみだと。


 少年はつぶやくのだった。


 ◆◆◆


 ヒナガ達が街のパトロールが終わったのは夕方だった。


 街はオレンジ色に染まっていた。


 トウマは一人で街を回っていた、見渡せばそこには沢山の子供がいた。自分が歩いていると子供達は質問してくる。


 どこから来たのか、街の外はどうなっているのか、色々な質問がトウマに言う。しかし手で行った、行った、と手で払う今は一人になりたい気持ちだった。


 トウマはビルの屋上で一人になる。さっきの質問してきた子達が一体どんな思いでこの街に来たのか。大切な家族や恋人、友達など失って悲しくないのかとこちらから質問したいくらいだ。


「死者の手から守っているのが化物だったそれを判っているのだろうか………この街は」


 もし、この世に化物がいなければ仲間が失わずにすんだ、しかしこの世の中は残酷だ。世界には化物がいて人を襲っている。


 何故、化物が現れたのか分からないが言える事はある我々人間達にとって化物は人類の敵だ。この世に存在してはならない。


 この街に来て襲われたところを助けた人達を思い浮かべる。その内二人の少女がいた。あの身体能力、そして異能の力を使って化物を倒していた。あの二人は人ではない、人の姿をした化物だ。しかし、助けて貰った者に対してついひどい態度をとってしまった。


 ・・・・・・・

 それだけ【化物】達に仲間が失ったことがショックだったのだろう。だからつい、言い過ぎてしまった。


「カレンにも謝まりたいが、どうするか」


 トウマは屋上から夕焼けの空を見上げながら独り言をつぶやく。


一人で彼女に謝る方法を考えていると後ろからミツルが近くトウマは別の場所に移動しようとすると、ミツルは声を掛けて引き止める。


「僕はミツルって言います。トウマさん、さっきアリサから聞きました、ヒナガ達を化物と」

「なんだ……わたしが二人に化物と呼んだ事が気にいらないのか?」


よくカレンにも言われる。【言い過ぎです】だとこの街に来る前もよく言われた。だが自分は冷静にはなれなかった。目の前で虐殺(ぎゃくさつ)のような光景と自分より幼い少女に助けられ、仲間を見捨てて逃げた自分、それがどれだけ悔しく自分に許せないのか。


「わたしにあの二人に謝れと言いたいのか」


ミツルは首を振る。


「いや、あの二人が化物だって言いたいの判ります」

「!?」


トウマは返ってきた返事に驚く。まさか仲間の暴言を謝れと言うのではなく、肯定するという返事、化物だと言うのは本当だと言うのなら、質問してみることにする。トウマだった。


「あの二人が化物だと分かって、なぜ二人と一緒にいる、お前はあいつらの事が怖くないのか?」

「ええ、二人は怖いですよ、約束を破ると、罰として誰も食べれない激辛カレーを食べさせる、そして平気でそれを食べる少女達がすごい怖いですよ」


ミツルは何処からか缶コーヒーを出した。カチャっと音を立て、それを飲む。


「何をわからない事を言ってる、わたしが言いたいのは死者達と戦ってるあの幼い少女達が死者達に抵抗出来る力を持っている事、自分の仲間がいつかあの氷と炎で殺られるかも知れないだぞ!」


ミツルは缶コーヒーをトウマの方に見せる。


「ヒナガとアスガは最初はこの缶コーヒーのフタを開けることが出来なかった」

「何を言っている」

「初めてこの街にきた頃はスプーンやフォークの持ち方はグーにして持って食べて、お風呂の入れば冷たい水に入って、服を着るのもアリサ達が着るの教えて」


ミツルはヒナガ達が初めて来た時の事を語る。なぜ今その二人が来た時のことを話すのか理解できなかった。


「一体何を言っている……二人は化物だからと」


トウマは額に汗が流れる、そう自分が思ったことが全く違うと解ってしまったと。


「あの二人は一部の記憶を除いて、記憶が全くないんだ、生活出来るような環境でも無かった。ヒナガ達はやり方を教えれば、すぐこなしたが、トウマさんが言う、化物は生活も出来ない演技をして、俺達を騙す意味はあるのか?」


その二人が記憶を無くさずにそのままミツル達を殺れていただろう。しかし、全く記憶がない二人の少女がその人達を殺せるのだろうか?無理だ。


そう判断するのは時間はかからなかった。トウマは自分がまた愚かなことをしてしまったと同時に仲間を見捨て逃げた自分はどうだろうか、死者達から逃げる前に少なからず仲間を数人救うことが出来たはずだった。


ヒナガ達以上に自分の方が化物に近い存在だと、思ってしまうトウマだった。


「くぅ…わたしは……謝らない…その二人が化物だと言うことは変わりない。だが、その二人がわたし達の敵では無いとわかった」

「それだけでも、解ってもらえて。良かったですよ、あと俺のことは呼び捨てで良いです」


ミツルは缶コーヒーを飲み終えると、屋上から出ていった。屋上に一人だけになった。トウマは夕日が沈み、闇が広がる街を見る、どこの家から光りが灯(とも)された。


「何も解ってもないのはわたし自身か………」


トウマは缶コーヒーを飲み干し、下を見ると自分を探しているのか、カレンが走りまわっていた。まだミツル達より少しお姉さんだが、自分みたいなおっさんを探しているのは少し悪い感じがした。トウマは屋上から出ていった。


次の日


トウマはヒナガ達を呼んだ。あの後、トウマはカレンに一言謝罪の言葉を伝えると、びっくりしたのか、カレンは慌ててトウマが熱がないか調べる始末だった。トウマはヒナガ達の他にミツルとアリサとラン、アスナ、ナナ、レイ達を呼んでいた。


「ヒナガ達を呼んだのは他でもない今回君達が使った。異能力【アルドノア】と【ブレンド】について話すが、その前にこの力が何処から来ているのか教えなければならない」


トウマは説明する。この世界に死者達が現れてからある。エネルギーが発生しているのがわかった。〈魂〉(ソウル)死者達が現れてからこのソウルが全ての世界に包まれているのが分かったらしい。死者達が行動出来たりするのは、このソウルに関係していると研究している内にわかった。


死者達の活動出来るのもこの世界に漂う、ソウルを吸収して動いている、そしてトウマはヒナガ達が使う、氷と炎もソウルを吸収して活動していると話す。


「2人が異能力(アルドノア)を使えるのはこの世界に漂うソウルをエネルギーに変換し使っている、今の研究でそれが解明されているが実際まだ謎が多い能力だ」


ヒナガ達はトウマの話しを聞いていたが、話しが難しかったのか、椅子に座りながら眠りかけていた。


「ヒナガ、アスガ、まだ話し終わってないよ」


レイがヒナガ達に言葉をかけるが「つまんない」と返事が返ってくる。トウマはそのまま話しを進めた。


「ミツル、君がヒナガ達の能力を銃に込めた時、その化物は武器が通じなかったが武器が通じるようになったのだろう?」

「はい、最初にそれを提案したのはアスガです」


アスガはミツルの銃に自分達の力を込める事が出来ないかそう考えたらしい。トウマはその銃に込めた物を【ブレンド】と呼んだ。


「アルドノアの能力を武器に込める事を研究ではブレンド(付加)と呼んでいる。一時的に同じ能力が備わるが、数秒で消える為あまり、研究者の間では気にはならなかったがまだヒナガ達からブレンドした銃を見せてもらえないか」


ミツルは銃を出すと、まだヒナガ達にブレンドしてもらった状態だった。何日経っても消える様子もない、危険な事もないので、持ったままだったらしい。


「この武器がブレンド状態で維持出来るのが異常過ぎる、しかしこの武器のお陰でわたし達は救われた」


トウマは銃を持って、話しをするが、アリサは質問する。


「トウマさんはその前の仲間だった人達と【アルドノア】と【ソウル】を研究していたの?それとも他の……」


他の街にも生存者がいて、それを知ったのか?アリサはそれを聞くと、トウマは首を振るう。他の生存者から聞いた訳ではなく、前の仲間達と一緒に研究していたのだろう。


「わたしはまだ異能力そして、この街についての研究を続けるつもりだ」

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