第6話
その後は何事もなく時は過ぎてゆく。
と、私は思っていました。ところが実際はそうではなかったのです。
ある日いつものようにテレビを見ていると、誰かが道を歩いて来るのが見えました。
近所の北畑さんです。
知人ではあるが友人ではない人で、少し離れたところに住んでいる中年の女性です。
北畑女史が歩いていることは、珍しいことではありません。
健康のためと言いながら、暇にまかせて毎日けっこうな距離を散歩しているのですから。
おそらく本人はダイエットのつもりなのでしょう。
頬から足の甲にいたるまでたいそうな量の脂肪を蓄えている人なのですから。
でもそれなら散歩もいいのですが、その前にこのあたりの住人で知らない人はいないという彼女の暴飲暴食を控えたほうが、ずっと効果があると私は思うのですが。
地域の人たちで開催された河川敷でのバーベキューパーティで、用意された十人分の食材のうちのほぼ半分を一人で胃の中に収めたことは、もはやこの界隈では伝説と言っていいものになっています。
誰が言い出したのか、人間バキューム。
その名に恥じない巨体を揺らしながらどすどすと歩く彼女。
何事もなく私の視界から消えるものと思っていましたが、ふと立ち止まり、そのまま公園のトイレに入っていきました。
彼女の家までは、歩けばまだまだ時間がかかります。
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