第4話
そこには手前に薄汚れて一部にひびの入った男性用小便器が一つ、奥に個室が一つありました。
個室は男女兼用です。
陽が高いにもかかわらず薄暗い中個室を見てみると、その戸が少しばかり開いていました。
そのさして広くないすき間からは中の様子が充分に見えるとは言えませんが、それでも私にはその中に人がいるようには思えませんでした。
人の気配と言うものを、全く感じ取ることが出来なかったからです。
念のため、私はドアを軽くノックしてみました。
なんの反応もありません。
思い切ってドアを開けてみると、思ったとおりでもあり同時に驚くほど意外なことに、そこには和式便器があるだけで、誰もいなかったのです。
女性がここに入っていくのは間違いなく見ました。
そして女性がここから出て、どちらの方向に歩いていったとしても、わたしがそれを見過ごすはずがありません。
それなのに個室の中には女はいなかったのです。
見知らぬ若い女性は、完全にその姿を消してしまいました。
一人の女が正に神隠しにあいましたが、それだからと言って近所で何かしらの騒ぎが起きる、あるいはニュースなどでそのことが取り上げられる、と言ったことは一切ありませんでした。
この日本において行方不明者はそう珍しいことではありません。
それによって騒ぐのは、親族、友人、知人くらいなものです。
マスコミが騒ぐとしたら消えたのが子供だった時、あるいは明確な事件性がある場合でしょうか。
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