第5話 トリニティ☆プリンセス、決戦!

「着きましたわね」

 ヴァイスが冷ややかに語ると、グレイスは炎の魔術で巨大な鉄の扉をぶち抜いた。

「ひぃいっ……!」

 崩れた鉄の扉の前には、ゲープハルトがいた。

 ヴァイスは魔術でゲープハルトの足元を凍らせ、地面に縫いとめる。

「あ、あぁあっ! た、助け……」

 ゲープハルトの懇願を無視し、ヴァイスは冷ややかに、ブランシュとグレイスに告げる。

「では、ブランシュさんにグレイスさん」

「ええ」

「思う存分、殴り飛ばして差し上げますわ」

 二人はゆっくりとゲープハルトの傍まで歩み寄ると、ステッキをかざした。

「よくもわたくし達を、はずかしめてくれましたわね」

「遠慮は要りませんわ、思う存分味わっておきなさい」

 スッと、ブランシュがステッキをかざす。

「ひっ……!」

 先端の宝石が光り輝くが、ゲープハルトには何事も起きていなかった――かに見えた。

「は、ははは! 所詮はただの……」

「ふんっ!」

 言葉を言い終える前に、グレイスがステッキで力いっぱい、ゲープハルトを殴りつける。

「ぎぃいやぁあああああああああああッ!」

 股間を痛打したかのように、何故か絶叫するゲープハルト。殴られたのはである。通常なら即死してしかるべき場所だ。

 それでもゲープハルトはピンピンしていた。ただし、、だが。

「貴方の体を、『何があっても一時間は失神せず、かつ異様に頑強だが、痛覚が十倍である状態』にしました」

「これで思う存分、楽しめますわ」

「もっとも、一時間後にはその反動で、受けた攻撃相応の変化が体には起こりますが」

「まあこのステッキに頭を殴られたら、死にますわね」

「うふふふふふ」

「うふふふふふ」

 ブランシュとグレイスは事実上の死刑宣告をしながら、冷ややかに笑っていた。ヴァイスもまた、同様の笑みを浮かべていた。

「ひっ、嫌だ、嫌だぁっ……!」

 悲鳴を上げるゲープハルトだが、グレイスは既にステッキメイスを振るい始めていた。

「いぎゃぁああああああああああああッ!」

 再び、ゲープハルトが絶叫する。

「うふ、うふふふふふふ……」

 グレイスは我を忘れ、ひたすらゲープハルトを殴っていた。


     *


「さて、十分に慣らした事だ」

 ハリアーは自らのズボンに手をかけると、するりと脱ぎ始める。

「はぁ、はぁ……」

 ララ殿下は蓄積された快楽によって、まともな思考を奪われつつあった。

 しかしグロテスクなソレを見ると、本能が警鐘を鳴らし始めた。

「ひぃっ、ナニをする気だ……! やめろっ、だけはやめてくれぇっ……!」

 全力で抵抗するが、ララ殿下の力をもってしても、拘束具はビクともしない。

「ナニって……結婚の儀とでも言うべきかな」

「いやだ、いやだぁっ……!」

 殿下の悲鳴も聞かず、ハリアーはその幼い体に覆い被さり――


「ん? ゲープハルト?」


 不意に見た脇のモニター画面に、意識を向ける事となった。


     *


「さて、思う存分殴りましたわ」

 思う存分ゲープハルトを殴り飛ばしてスカッとしたグレイスは、ヴァイスとブランシュに合流する。

「そうですわね。参りましょうか」

 ヴァイスは二人を連れてハリアーのいる部屋へ向かわんとし……途中の監視カメラにステッキを向け、宣戦布告した。

「聞こえておりますか、大罪人よ。今から貴方を、成敗いたします」

 短くも威厳に満ちた宣戦布告を終えたヴァイスは、ステッキから氷弾を放ってカメラを粉砕した。


     *


「ふむ、そういう訳か。まあいい、どの道花嫁は逃れられん。奴らを屠ってからでも遅くはないな」

 興が醒めたハリアーはズボンを履くと、本差ほんさし脇差わきざしの、計二振りの日本刀を手にする。

「そこでじっくり待っていろ。すぐにここに戻るさ」

 それだけ言い残すと、ハリアーは部屋を後にする。

「っ……(頼む……。勝ってくれ、“トリニティ☆プリンセス”……!)」

 命拾いした、と言わんばかりの表情を浮かべたララ殿下は、ひたすら祈る事に徹し始めた。


     *


「ここですわね」

 ヴァイスがステッキで指し示した部屋は、ララ殿下が囚われている部屋であった。

「今助けますわ……!」

 グレイスが前に出ようとし――

「危ないっ、グレイスさん!」

 ブランシュがグレイスを突き飛ばすと、体に二振りの日本刀が迫った。ヴァイスのバリアによる防御が無ければ、今頃ブランシュは肉塊になっていただろう。

「へぇ……。貴方が……」

「ああ、いかにも私が有原ハリアーだ。“トリニティ☆プリンセス”よ」

 二振りの日本刀を構えた、中肉中背の男。


 この男こそが、ララ殿下を拉致した有原ハリアーそのものであった。


「私の婚儀を邪魔立てした貴様らには、死か肉体でもって償ってもらう!」

「それはわたくし達の言葉ですわ! ララ殿下を拉致した罪は重いですわよ!」

 ヴァイスとグレイスが、二方向から同時に仕掛ける。

「はぁっ!」

「やぁっ!」

 しかしハリアーは、飄々とした様子で二つのステッキを受けた。澄んだ金属音が響き渡る。

「ふん、所詮は女か」

 そして軽く腕に力を込めると、ヴァイスとグレイスを押し戻した。

「くぅっ、何て力……!」

「ブランシュさん、補助を……!」

 圧倒的な力に、“トリニティ☆プリンセス”の三人は攻めあぐねていた。

「けれど、これなら!」

 三人がステッキの先端をぶつけ、魔力と霊力を集中させる。

「これだけの規模、受けきれるかしら……!?」


 ヴァイスのステッキが一段と強く輝くと、先端から無数の氷弾が拡散した。

 いや、氷弾だけではない。

 炎、風、土の弾丸もまた、氷弾とともに散らばっていたのだ。


「小癪な……!」

 ハリアーが腕と刀を交差させて弾丸を防ぐ。

 顔面、特に目と心臓部以外のダメージをやり過ごすつもりだ。

「私の体は、魔術には耐性があるのでな……!」

 言葉通り、雨あられと弾丸を受けているのにも関わらず、ハリアーの体に大したダメージは見当たらない。

 しかし、何か光り輝くものが弾丸を受け、ハリアーの腰から飛んで行った。

(あれは……!)

 目ざとく見つけたヴァイスが、念話でブランシュとグレイスに伝える。

『ブランシュさん、グレイスさん。少しの間、あの男を引き付けていてくださいませ』

『どうしてでしょうか?』

『何か、策でも?』

 二人が問い返すと、ヴァイスは会話を続けた。

『少々前倒しになりますが、殿下を救出して参ります。たった今、目処めどが立ちました』

 それを聞いた二人は、何も返さず――ただ、頷いた。


 やがて弾丸の雨が止むと……そこには、五体満足のハリアーが堂々と立っていた。

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