第5話 地下空間での対峙

 三人は通用出入口から首都圏外郭放水路の内部へと入っていく。ここは日本の首都圏の治水施設の一つであり、調整池の一種になる。延長約6.3km、深度約50mにある世界最大級の地下放水路である。


「真っ暗ね。明かりをつけましょう」


 三人のステッキが光り始め、あたりがぼんやりと見えてくる。天井まで十メートル以上あり、細長い柱が何本も立っていた。


「こんなところで在庫管理してるなんて信じられないわ」


 ヴァイの一言にブランが頷く。


「そうですわね。いったん大雨になると水没してしまうのに」

「でも、何かいそうでドキドキします」


 そう言ってはしゃぐのは狐耳を尻尾を持つレイスだった。


「幽霊とかお化けとか、そんなのが出てくるとでも思ってるの?」

「出そうでドキドキしちゃうんです。リーダーは怖くないのですか?」

「私は、大丈夫よ。多分ね」

「さすがはリーダー。尊敬いたします」


 そう言ってヴァイの後ろをついていくブランも怯えているようだ。


 その時、前方に小柄な人影を見つけた。


「え? お化け出たの?」

「やだ。怖い!」


 ブランとレイスはヴァイの後ろで縮こまる。

 しかし、ヴァイは落ち着いた口調で二人を諭した。


「あれはララ室長よ。先回りしていたみたいね」

「え?」

「ホントに?」


 そのシルエットだけでララ室長だと判断した三人は虚をつかれた。

 ララ室長のシルエットを持つ者は神速の踏み込みを見せ三人に襲い掛かる。


 ヴァイはみぞおちを突かれ、ブランは足払いを掛けられ、レイスは投げ飛ばされた。

 苦痛のあまり声も出ない三人。

 そこに現れたのは自称悪の権化、アリ・ハリラーだった。


「ふふふ。アルヴァーレの小娘共、いや巨乳娘よ。ご苦労だったな」


「ア、アリ・ハリラー、何を企んでいる」


 苦痛に満ちた表情で喋るヴァイ。しかし、アリ・ハリラーのにやけ顔は収まらない。


「ふふふ。将軍ノラベルの開発したララバスターの威力は如何でしたかな?」

「ララバスター?」

「そう。ララ室長を模した戦闘用アンドロイドですよ」


 アリ・ハリラーの指がパチンと鳴り、照明が灯される。

 そこには虹色に輝くチタン合金製の、体形だけはララ室長にそっくりなアンドロイドが立っていた。


「ふふ。あなた達は魔法を使うと厄介です。しかし、ララ室長の格闘術を真似させていただきました。すなわち、魔法術式を展開する前に叩くのですよ。ふふふ」


 ララバスターは、アリ・ハリラーの横で胸を張りふんぞり返っている。超ミニのメイド服を着せられていて、頭部からは金色の細いアンテナの束が垂れ下がっておりツインテールに見える。


「お前、命知らずだな。そのアンドロイドが室長に見つかったらタダじゃすまないぞ」

「大丈夫です。バレたりしませんよ」


 もう一度アリ・ハリラーは指を鳴らす。

 そこに将軍ノラベルが現れた。


「ララバスターは気に入ってもらえましたかな? さあ、本日の仕上げはこれです。私の開発した特異型スライムをとくと味わってください」


 三人の背後から突如大型のスライムが襲い掛かってきた。青紫色のそのスライムは三人を呑み込みもみくちゃにする。


「ふふふ。如何ですかな。気持ちいいでしょう」


 そのスライムに呑み込まれた三人の服が段々と溶けていく。魔法のステッキは奪われ、プイと吐き出された。


「いやーん。服がなくなっていくわ」

「マジで? ああん。下着も食べられちゃう」

「もうダメ。全部溶けちゃった」


 三人の服はなくなってしまい全裸となっていた。

 スライムに絡まれ妖艶な喘ぎ声を漏らす三人を見つめる将軍ノラベル。

 そしてその後ろには戦闘員のリュウとブレイもいた。


「これはいい眺めです。これはいい」

「へへへ。今日はもらっていいんだろ。将軍」

「僕、もう我慢できないよ」


 リュウとブレイもその乱れた姿に見入っていた。


「私の改良した衣類のみ食べるスライムは如何でしょうか? ついでに敏感な場所も刺激するよう調教してありますよ。ふふふふふ」


 スライムの中で翻弄される三人の少女。胸や脇や股間の敏感な部分をまさぐられている。


「いやーん」

「ダメダメ。そこは敏感なの!」

「はあ、はあ。ああああああ!」


 三人は欲情し身もだえていた。そこへアリ・ハリラーがふと疑問を口にする。


「ところで、君たちは何故魔女っ娘探偵なのだ。ふむ。君たちの任務内容からは、魔女っ娘特捜部とか、M T F魔女っ娘タクティカルフォースの様な名称が似合うと思うのだがどうだろうか。そもそも政府機関に探偵など場違いではないのか」


「ああん。いやいや。そこばっかり責めないで」

「もうダメ。イキそう」

「ああああああああ」


 スライムの攻めに篭絡された三人は返事をしてくれない。


「お前たちは知っているか?」

「知りませんな」


 ノラベル将軍は首を横に振る。戦闘員二人も応えることができない。

 

「これは困りましたね」


 アリ・ハリラーが何故困っているのかはわからない。

 コンクリートに覆われた地下空間では、アルヴァーレの三人が紡ぎだす嬌声が鳴り響いていた。

 


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