第4話 神田へ潜入

 アルヴァーレのメンバー三人は神田の古書店街を目指して移動していた。もちろん電車と徒歩である。


「どうしてホウキに乗っちゃダメなの?」

「目撃されたら不味いだろう。そんな事もわからいのですか。レイスさん」


 狐耳をぴくぴくと動かしながらレイスが応える。


「だってさ。電車の中じゃ痴漢が出るし。今日も胸撫でられたよ」

「そのくらいで済んでよかったじゃないですか。私なんてこの間は何だか臭くて白いの引っ掛けられたのよ」

「うーん。それ、運が悪いです。リーダーの不幸体質ってどうにかならないんですか」

「無理みたいね」


 ヴァイが首を振る。青みがかった銀色の髪が周囲にたなびき、その瞬間芳香が漂う。


「痴漢多いよね。だから私もホウキ使って飛ぶの提案したんだけどさ。光学迷彩魔法使えば見つからないからってね。でも室長に止められちゃった」

「どうして」


 狐耳をぴくぴく震わせてレイスが首をかしげる。

 ブランは首を横に振る。


「だって、その光学迷彩魔法だけで魔法力を使い果たして任務に支障を及ぼすから許可しないんだってさ」

「うーん。それは由々しき問題です」

「無駄話はそこまです。そのビルが目的地になりますよ」


 神田の古書店街ではあるが、路地を入って奥にある古いビルの辺りには人影がなかった。三人はエレベーターを使いビルの6Fへと向かう。


 細い暗い廊下の奥に一匹の狐がいた。銀色の毛並みをもつ珍しい子狐だったが、メンバーと目が合った瞬間に姿を消してしまった。


「あの狐は?」

「室長の使い魔よ。確か名前はフェイスって言ったかしら」


 ブランの問いにヴァイが応える。その狐のいたところがアリ・ハリラーのアジトなのだろう。

 三人がその部屋の前へ行くとそのドアの中央には堂々と表札が掲げてあった。


『アリ・ハリラー商事』


 そしてその下には「各種抱き枕取り扱っています」の文言があった。そしてさらに但し書きがあった。内容は「オーダーメイドも可能です。貴方のお好みを形にしてみませんか。これで寂しい夜とはさようなら♡ ※十八歳未満の方はご購入できない商品があります」と書かれている。


「抱き枕だけじゃなくて、ほかにも怪しい商品を扱ってそうですね」

「普通に考えて全部十八禁。っていうか合法かどうかも怪しいですわ」

「皆さん、踏み込みますよ」


 律儀にノックをするヴァイ。中からは「いらっしゃいませー!」と元気のいい返事が聞こえる。


「失礼します」

「いらっしゃ……い?」


 中にいたのはゲップハルトただ一人だった。


「ここにある商品をすべて買いたい」


 ヴァイの宣言にゲップハルトは怪訝な表情をする。もちろん、三人の正体はバレているのだが律儀な彼は敢えてその言葉にのってしまう。


「今あるのは美少女レスキュー☆ビューティーファイブの試作品ですが、ご覧になりますか」

「試作品でも売るのか」


 ヴァイの言葉にもみ手をしながら応対するゲップハルトだった。


「もちろんでございます。むしろモニターとしてご使用いただき、使用感や、その使用感など色々ご意見を賜り製品開発に生かしていきたいと存じております。ご利用料金は無料ですが、期間限定のレンタルとなります」


「ねえねえ、リーダー。私、すっごく興味あるんだけど」

「私も~」


 興奮ぎみのブランとレイスがはしゃいでいる。レイスのしっぽは元気よくグルグルと回っていた。

 律儀なゲップハルトは五体の抱き枕をテーブルに並べ説明を始める。


「こちらがリーダーのレッド。長身で某宝塚の男役のようだと好評です。そしてブルー。細身ながら切れのあるセリフが人気です。グリーンは体術に優れる格闘家。口数が少なくぶっきらぼうな話し方がウケています。イエローは機械に強くて変態チックなセリフが面白いと評判です。そしてピンク。ややぽっちゃり系ですが天然ボケ系の頓珍漢なセリフが大人気です」


 ふむふむと試作品を眺める三人。ヴァイが徐に口をひらく。


「この子たちの名前は何かしら?」

「ビューティーレッド、ビューティーブルー、ビューティーライムグリーン、ビューティーイエロー、ビューティーピンクです」

「聞いているのは中の人の名前、ちゃんと設定あるんでしょ」

「申し訳ありません。残念ながら著作権の関係で中の人の名前は使用できないんです」

「ほほー。貴方が著作権の話をするのですか。肖像権という言葉は知っておいででしょうか」

「肖像権?」

「勝手に人の姿を使ってはダメなのですよ」


 ヴァイが胸のポケットから万年筆を取り出しそれを十字に振る。その万年筆は何と魔法のステッキに変化した。こぶし大の透明な宝石が光り輝き、そこから放出された細かい光り輝く粒子がゲップハルトの体を包んでいく。それは氷の結晶となりゲップハルトの体を拘束してしまった。


「まさか。魔法のステッキは先日奪ったはずだ」

「馬鹿ね。これは予備があるの」

「ブラン。レイス。ここを捜索するのよ。ほかの抱き枕とか、うっふん♡なものとか必ず見つかるはずだから徹底的にやって!」

「はい。リーダー」

「了解です!」


 ブランとレイスが部屋の中をくまなく探していく。奥にある別室にも捜索の手は入り徹底的に調べられた。


「止めてくれ。触らないでくれ」


 涙を流してそう訴えるゲップハルトであったが当然聞き入れてもらえない。しかし、そこにはアルヴァーレの求めるララ室長を模した抱き枕は発見されなかった。


「出てきたのは……現金1250円とエッチな人形と大人のおもちゃが数点ですか。ゲップハルトさん。あなた、彼女いないのかしら?」

「そんなのどうだっていいだろ。その人形はビニール製で敗れやすいから乱暴にするなよ」

「こういうのが好きなんだ。へえーレイちゃんね」

「ち、違う。自分はアスカちゃん一筋だから」

「へえ。生意気系が好みなのですか? じゃあララ室長とか大好物では?」


 ゲップハルトは下を向き俯くのだが、その頬は真っ赤に染まっていた。


「あら。二次元だけじゃなくてララ室長まで守備範囲ですのね」

「そんな事はどうだっていいだろう。早くこの氷を何とかしてくれ、冷たくて死んでしまいそうだ」

「じゃあ教えてください。ララ室長の抱き枕はどこですか? このままだと凍死してしまいますよ」

「埼玉県春日部市にある首都圏外郭放水路だ。そこの一部を占拠して開発と在庫管理を行っている」

「ありがとうございます」


 そう言ってヴァイはゲップハルトの頬にキスをする。

 その刹那、銀色の毛並みの子狐フェイスが姿を現した。


「場所が分かったみたいだから、即、移動した方がいいんじゃない。ここはボクに任せてさ」

「そうね、すぐに移動しましょう」


 三人は部屋を出て屋上へ続く階段を駆け上がる。

 屋上に出てすぐにステッキを天に向けてかざした。


「天の意思、水の精、風の精、火の精に申す。我らアルヴァーレの正義をここに体現せん」


三人の宣言に従い彼女たちの体は光り輝いていく。その衣装は光と共に消失し何もまとわぬ全裸となった。そして新たな光はステッキから拡散し三人の体を包む。ヴァイは青白い光、ブランは緑色の光、そしてレイスは赤い光に包まれる。その光は魔女っ娘衣装へと変化し三人の体を包んでいく。

 三人のイメージカラー、すなわち、ヴァイは青と白、ブランは緑、レイスは赤の魔女っ娘衣装となっていた。ブラウスにベスト、そして超ミニのフレアスカートに三角帽子を併せている。三人のステッキは魔法のホウキへと姿を変えた。


「さあ、行くわよ!」

「はい」

「了解」


 ホウキに跨った三人は空高く舞い上がり、そして猛烈なスピードで埼玉方面へと飛翔していった。


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