第49話 伝家の宝刀
「みんなに、ちょっと相談があるんだ」
特訓も順調に進んでおり、翌日にはパーティー会場であるモーガンの街へ移動しようという日の夕食時に、イリスが言ってきた。
「何? 特訓は順調なんでしょ?」
問い返したアイナに、ナプキンで口の端を拭きながらイリスが返す。
「いや、ダンスのことじゃなくて、ボクの
「
首をひねるウェルチに、イリスが補足説明をする。
「実は、Aランク冒険者になってから初めて帰省したものだから、今更なんだけど父親から『武門の誉れだ』と褒められて、いくつかある家伝の武器のひとつを譲られたんだ」
「おお、良かったじゃないか。だけど、それが
俺の言葉にうなずいたイリスが話を続ける。
「そうなんだ。元は異世界ニホンから伝来した武器でカタナっていうんだけどね。これは『サムライ』系か『ニンジャ』系の
「おお、カタナでござるか! それは是非拝見したいでござるな」
元ニンジャのオリエが食いつく。それにうなずいたイリスは席を立つとみんなを自室に誘った。
女子の自室……とは言っても、既にイリスは家を出て三年以上たってるし、その前に通っていた学院でも寮生活だったようで、あまり生活感が感じられない部屋だ。部屋自体はそこそこ広いのだが、さすがに八人入ると少し手狭に感じる。
「ほら、これなんだけどね」
無造作に机の上に置いてあったカタナを取って、鞘から抜いて見せるイリス。オリエが使っているニンジャ刀というのは直刀なのだが、これは少し反りがある片刃の曲刀だ。
「ちょっと拝見するでござる……ほう、これはなかなかの
受け取ったカタナの刃の厚みとか文様を見ていたオリエが感嘆したように言う。俺も隣からのぞき込んで見たが、確かに刃の鋭さからすると切れ味は良さそうだ。
「鋭利、美麗」
カチュアも軽く目を細めて刀身を眺めてから賞賛した。普段通りの無表情なのだが、どことなく羨ましそうな雰囲気だな。
見終わったカタナを鞘に収めてイリスに返しながらオリエが尋ねる。
「
「『ムラサマ』だそうだよ。通称は『妖刀ムラサマ』といって、女性が使うと特別な効果があると伝えられているんでボクに与えられたんだ」
「ちょっと待てっ! ムラサマであるか!? ムラマサでなく!?」
イリスの説明を聞いてクミコが大声で尋ねたんだが、一体何を興奮してるんだ?
「あ、ああ、そうだけど。何か変かな?」
「確かにカタナの名前としてはムラとかマサってよく聞くよな。ムラサメとか、マサムネとか」
「そうなのかい?」
気圧されたように答えるイリスを、俺も自分の知識からフォローする。先祖が異世界ニホン人だから、ウチの親戚にはサムライ系の
「だからムラサマって、そんなに変な名前じゃないと思うんだけどな」
俺がそう言うと、クミコがガックリとうなだれてつぶやく。
「異世界ニホン人の子孫でもこの程度であるか……それにしても、よりによって何で『ウィザードリィ』の初期誤植ネタ……いや、今は『メタルギア』もあるのか……」
例によってサッパリ意味不明なことをブツブツとつぶやいてるから放っておこう。イリスもそう思ったのか、スルーして話を再開する。
「ああ、それで話を戻すと、その女性限定で使える特殊能力なんだけど、残念なことに、その使用条件が失伝していて不明なのさ。使えるようになったら、使用者には開放キーワードが分かるようになっているという話なんだけどね」
「何か妖しげですわね」
「だから『妖刀』なんて徒名が付いてるんでしょ」
キャシーの感想にアイナがツッコむ。それを苦笑しながら聞いていたイリスが話を続ける。
「だからまあ、特殊能力の方は見つかったら儲けものくらいのつもりでいるんだけどね。それで、ニンジャ系はオリエがいずれ戻るだろうからサムライ系に
それを聞いてイリスが何を懸念しているのか俺には分かった。
「ああ、戦闘スタイルが違うんだな。サムライの攻撃は斬撃が主体だから……」
俺の言葉にうなずいて話を続けるイリス。
「一応斬撃系のスキルもいくつか持ってるけど、サムライの戦闘スタイルに慣れるまでは戦闘力が結構落ちそうだと思って、それでみんなに相談したかったんだ。ただでさえレベルが一に戻って総合力が下がるんだからね」
「そっか……あたしの場合はレベルは落ちても同じ
アイナが腕組みして言う。ウチのパーティーで初めて
このカタナの攻撃力は確かに魅力だけど前衛のメインアタッカーであるイリスの戦闘力が落ちるのはウチのパーティー的に考えると、どれだけマイナスか……とか考えていたら、キャシーが口を開いた。
「別にかまわないのではありませんこと。わたくしたちの主戦力はレインボゥちゃんですもの。弱い敵が相手なら新しいスタイルに慣れるのにはちょうど良いでしょうし、強い敵が相手ならレインボゥちゃんに戦ってもらえば良いのですわ」
身も蓋もないことを言うキャシー。まあ、確かにその通りなんだけど、みんなが分かっててもあえて指摘しなかったことをハッキリと……もっとも、そういうことをあえて言うのがキャシーの持ち味なんだけどね。
「イリスさんの戦闘力が落ちた分は、みんなでカバーすればいいんですぅ! そのためのパーティーですぅ」
フォローするようにウェルチが言う。これがウェルチの持ち味なんだよな。そんなウェルチに賛成するようにマリンが机の上に飛び乗ってぴょんぴょんと小さくジャンプする。ウインドもイリスの肩に飛び乗って召喚主の頬を突っついている。
「お前たちがフォローするから大丈夫だって? フフフ、頼りにしてるよ」
そんなウインドを優しく撫でながらイリスが穏やかに笑う。
「それじゃあ、今日は先に『
「「「「「「賛成」」」」」」
俺の提案に当事者であるイリス以外の全員が賛成する。
「ありがとう、みんな」
「何、どうせ『テレポート』で簡単に往復できるからな」
「それで、何に転職するの? サムライ?」
アイナが聞いたのに、イリスは首を振って答える。
「ステータス的にはサムライマスターに転職できそうなんだ」
「おお、高位上級職!」
「近接攻撃力が高いだけでなく弓術も攻撃魔法も使える
サムライ自体がニンジャと同じで初期ステータスが高い者しかなれない準上級職なんだが、それの更に高位に当たる上級職だから相当に戦闘力が高い。
「確かに戦闘スタイルが変わるから最初は戦闘力が落ちるかもしれないけど、汎用性が高くなる分、総合戦闘力は以前より上がるだろうな」
「そうなるよう頑張るよ」
俺がそう評すると、イリスもうなずいて答える。
そして全員で館の外に移動すると、俺がテレポートの魔法を使って
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