第48話 変な話には裏がある

「マイケル・モートンの経歴に変な所は無いでござる。モートン家の財務担当としての腕もなかなかのものでござるな。学院卒業後三年で、投資の成功率は五十七パーセント。運用資産の価値は三割増しになっているでござる」


 オリエが調べてきた情報をみんなに報告する。イリスの家は領主の館なので会議室みたいな部屋もあるんだ。結構広いので、八人くらいは余裕で入れる。


「成功率五十七パーセントって低くない?」


 オリエの報告を聞いてアイナが疑問を挟む。


「年利十パーセントと考えると充分に成功してるでござるよ。成功した投資が大きい代わりに失敗もあるということでござろう。ただ……」


「何かあるのか?」


「半年くらい前に、かなり大きな投資案件で焦げ付きが出たようでござるな。その失敗がなければ資産価値は五割増しくらいになっていたはずでござる」


「資産二割分の失敗ってのはでかいな」


「大きな商会が主体の投資で堅実な案件と思われていたのに、実は内実が火の車だったという、結構ある話でござるよ」


「でも、まだ黒字ではあるのでしょう?」


 キャシーが聞いてきたのに、オリエがうなずいて答える。


「左様でござる。大失敗ではあっても、投資担当として家族の信頼を失うほどではござらん」


「……その失敗を取り返すために考えたのがボクとの縁談の蒸し返しというのは、少しおかしい気がするんだけどね」


 イリスが首をひねる。


「俺もそれは納得ができないな。何かローザンヌ家とつながりを持つことでモーガン家に得なことはあるのか?」


 俺の問いにオリエは首を横に振って答える。


「それが、何も無いのでござるよ。ただ、その聞き込みの過程で興味深い証言が取れたでござる」


「「興味深い証言?」」


 思わず俺とイリスがハモって聞いたのに、オリエは少し言いにくそうな顔で答える。


「マイケルは酒場で縁談について学院時代からの友人にからかわれたとき、こう言っていたそうでござる。『この縁談は別に成功しなくてもいい。これを持ちかけて我が家にイリスを呼ぶだけで結構おいしい投資案件への伝手ができる』と」


 それを聞いたイリスが憤激して叫んだ。


「何だい、それは!? 結局ボクは当て馬ってことじゃないか!!」


 まあ、怒るのも無理はないよな……と思っていたら、オリエが頬を人差し指でかきながらボソッと更なる燃料を追加した。


「こうも言っていたようでござる。『まあ、成功したら成功したで、あの小生意気なイリスを組み敷いてヒイヒイ言わせてやれるのは楽しみだがな』と。下品な男でござるな」


 ……見られんわ。これはイリスの顔を見られんわ。アイナやウェルチがイリスの顔を見てドン引きしてるよ。


「大魔神、怒る……」


 クミコが小さくつぶやいてるのが聞こえたんだが、すぐに青ざめて口をつぐんだのはイリスに殺人的な視線でも向けられたんだろうな。


「リョウ……今度のダンスパーティー、絶対にボクたちのダンスでアイツを黙らせてやろう」


 イリスが静かに言ってきた。ああ、分かるわ。もう普段通りのクールな顔に戻ってるけど、これは相当に怒りを秘めてるぞ。


「もちろんだ!」


 俺が差し出した手を、イリスががっちりと握って握手をする。実の所、俺だって怒ってはいるんだ。俺の大事なパーティーメンバーであるイリスを、ここまでコケにするヤツを許すことはできないんだからな。


 ただ、それとは別に気にしておくべきことがある。


「オリエ、引き続きで申し訳ないが、その『おいしい投資案件』というのを探っておいてくれないか。『イリスを呼ぶだけでいい』という条件が気になる。これは、明らかに俺たち『スライムサモナーズ』をおびき出すか分断するための作戦に思えるんだ」


 俺がそう指摘すると、イリスもアイナもハッとした顔になる。その一方で、既にそのことに気付いていたらしいオリエは顔をひきしめてうなずく。イリスも普段なら気付いていたんだろうけど、何しろ自分のことだから気付けなかったんだろう。


「みんなも注意しててくれ。これは何かの罠の可能性がある」


「「「「「「了解」」」」」」


 そして解散した俺たちだったが、それと同時にさっそくイリスに誘われた。


「さあ、特訓だ! 大広間に移動するよ」


「わかった」


 それから、キャシーに向かって頼む。


「すまないが、ダンスの練習に付きあってくれ。あと、についてだが……」


 言いかけた俺に、キャシーは肩をすくめながらうなずいて答える。


「あんな話を聞いたら協力せざるをえませんわね」


 イリスと、それから意外に社交ダンスが得意なキャシーに協力してもらって、俺はダンスと、もうひとつの特訓をするのだった。

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