第45話 ハーレム作戦第二号
お待たせいたしました、本日より第3章終了(第55話)まで毎日更新いたします。
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「ちょっと待ちなさいよっ!」
目を三角に吊り上げて席を蹴立てながら叫んだアイナに、俺は両掌を下に向けて押さえるジェスチャーをしつつ答える。
「落ち着け。『偽装』と言ってるだろう」
「偽装にしたって
そう叫んで、俺の左腕にしがみついてくるアイナ。悪い気分じゃないな、こういうの。嫉妬深いけど、それだけ愛されてるってことなんだし。
でもまあ、この場合はちょっと困る。
「ほかに良いアイデアがあるんなら聞くけど。ウチのパーティーを抜けないにしても、イリスが不幸になるのは仲間としては見過ごせないだろう?」
俺がそう言うと、アイナもぶすっとした顔でうなずいて答える。
「そりゃそうよ。イリスは大事な仲間だもの。だけど、だからって形だけでもリョウを譲ったりしたくもないの!」
「譲る必要は無いさ」
「え?」
俺の言ってる意味がわからないのか、ポカーンとした顔になるアイナ。その一方で、イリスの方は無言で頬杖をついて俺の方を見ている。
「シェアすればいい」
「は?」
「なるほど」
意味がわからずに口を半開きにして問い返すアイナに対して、イリスの方は半分得心した顔になってうなずく。
「つまり、ボクは君の二号になるってワケだね」
「言い方に語弊があるな。正式な側室候補と言わないと通らないだろう」
イリスと俺の会話を聞いて、ようやく納得した表情になるアイナだったが、すぐに目をむいて口を挟んできた。
「ちょっと待ってよ! それってやっぱり、形だけでもリョウとイリスがお付き合いするってことになるんでしょ!?」
「そこは避けられないな。嫌かもしれないけど、そこはイリスのためにこらえてくれよ。お前が『正妻』なんだし」
「正妻」に特に力を入れて言うと、アイナも不承不承ながらうなずく。
「うーん、納得はできないけど、ほかに良いアイデアも無いのよね……納得はできないけど」
二回言ったな。まあアイナにとって重要なことではあるんだろうし、そこは俺もしっかりと認識しておかないとな。あとできっちりと埋め合わせしないと俺の方が捨てられることになりかねん。
「そこはまあ、ありがちだけど、ありがちだからこそ効果的ではあるね。成功した冒険者なら複数の妻妾を持っているのはザラだし、そこでパーティー内のメンバーで結婚して正室と側室を分け合うのも、よくある話ではある」
イリスも言いながらうなずいているので、俺も例を出す。
「そうさ。俺にだって姉がひとりと妹が二人いるけど、全員母親は違うからな」
「ゑ!?」
「へえ?」
何とも珍妙な顔になったアイナに対して、イリスの方は顔色も変えていない。そりゃそうか、イリスは妾腹って言ってたんだから、俺と同じように異母兄弟や異母姉妹は居るはずだからな。
「リョウのお父さんって、ハーレム持ち?」
アイナが尋ねてきたので、うなずきながら答える。
「そう言ってもいいだろうな。もっとも、ハーレムというよりは、母さんたち全員がパーティーの延長線上で家族になっちゃったって雰囲気だけどな」
男ひとりに女三人のパーティーで、結局全員と「そういう」関係になっちゃったんだよな、ウチの親父は。あんまり家に長いこと滞在してたことないから、実の親子でもどうやってそういう関係になったかについては詳しく聞いてないんだけど。
「だけど、リョウの家は平民だろう? 家柄がつり合わないって無理に別れさせようとしてくるかもしれないよ」
イリスが聞いてきたが、そこについては多分問題にならない。
「それなんだけど、確かにウチは平民だけども、父さんが冒険者を引退した時点で、正式に騎士階級に成り上がるんだ。三代続けて名誉騎士の叙勲を受けるからね」
「ええっ!?」
「ほう?」
目をまん丸に大きくしたアイナと、軽く見開いたイリス。その表情の対比が面白くて、ちょっとにやけてしまった。
「帝国名誉騎士の叙勲条件は色々あるけど、冒険者の場合はAランクパーティーに十五年以上所属することだったよね?」
問いかけてきたイリスに、うなずきながら補足する。
「そうだよ。ウチの場合、
ちなみに、帝国軍に志願した場合は、士官なら十年、下士官なら十五年、兵卒の場合は二十年の勤続で名誉騎士の叙勲を受けられる。士官はもともと騎士階級の出身が多いけど、平民が名誉騎士の称号を得たいなら帝国軍に兵卒として志願するのが一番てっとり早い方法だ。Aランク冒険者は帝国軍の下士官扱いなんだな。
なお、名誉騎士は別に戦闘職でないと貰えない称号ってわけじゃない。医学上の優れた発見をした医者に与えられたこともあるし、斬新な音楽を作った吟遊詩人が叙勲された例もある。さまざまな分野で帝国に貢献した者に与えられる名誉称号なわけだ。
「そして、三代続けて名誉騎士を叙勲した場合は……」
「正式に帝国騎士として世襲が認められるようになる」
俺が言いかけた言葉を、イリスが引き取る。
そう、三代にわたって帝国に貢献したということで、帝国騎士の称号を世襲できるようになるんだ。冒険者の
名誉騎士は本当に名誉称号でしかないが、世襲騎士ともなると立派に特権階級の一員だ。まず人頭税は免除されるし、場合によっては所領が与えられることもある。所領が与えられない場合は
ただし、帝国への奉仕も義務づけられる。具体的には当主が三年間の兵役または十年間の行政府への勤務を行わなくてはならなくなる。このいずれかを行わない場合は騎士称号は剥奪されて平民に戻されるが、それ以上の罰則はない。また、名誉騎士の叙爵は受けても、世襲騎士の方は辞退することもできる。まあ、普通は辞退なんかしないけどな。
「俺の場合、親父が引退した時点で世襲騎士の嫡男になるから、本来は三年間の兵役義務が必要なんだけど、たぶんTAIの任務で
TAIの任務も立派な「帝国への奉仕」だからな。
「なるほどね。それなら何とかなりそうだ」
「うー、しょうがないか……」
うなずくイリスと、ブスッとした様子を変えないアイナ。そんな表情も可愛いと思ってしまうのだから、俺も大概アイナに惚れ込んでるなあ。だから、イリスともあくまで形だけで浮気なんぞしないよ。
とまあ、こういうワケで俺たちはイリスの実家に赴くことになったんだが、ほかのメンバーに事情を話したところ、何が起こるか分からないのでパーティー全員で行こうという話になった。
かくして、俺たちは全員でイリスの実家であるローザンヌ男爵家の本拠地であるローザンヌの街を目指して帝都を出発した。まあ、俺もクミコもローザンヌに行ったことは無かったけど、近隣の街には行ったことがあるので、そこへテレポートしてから歩いたんで半日もかからなかったんだけどね。
ところが、そこで待っていたのは予想外の事態だった。
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