第42話 ココロの力
さっきワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストは上昇しながら攻撃していた。あれは高い位置から俺たちを狙うためかと思っていたんだが、同時にレインボゥから逃げるためでもあったんだ。
「じゃあ、またスクランブル合体で、ルージュを中心にしたフレアクラゲビッグスライムにすればいいんじゃないかな」
イリスの提案に、俺は手を打ってレインボゥに命令する。
「よし、レインボゥ、スクランブル合体だ!!」
そして、分離したレインボゥがルージュとウインドとソレイユを中心に合体して、フレアクラゲビッグスライムになる。だが……
「駄目だ『ドレイン』が無い!」
俺は思わず叫んでいた。
「駄目か……『ドレイン』が使えるようになる条件って、一体何なんだろうね?」
イリスが首をひねる。俺もそれは知りたいところだ。フレアスライムにドレインがあるなんて話は聞いたことがないから、ルージュの種族特性ってワケじゃあないだろう。
と、それを聞いて、少し
「それは、多分あたしの心が変わったからだと思うわ」
「心?」
思わず問い返した俺を、アイナは真面目な顔で見返して答える。
「そう。スライミースライマーの言葉をおぼえてる? 召喚獣は主人の強い思いを受けると通常以上の力を発揮するって。心を合わせて応援すれば、より強い力を発揮するから、仲良くしろって」
「ああ、実際『コンプリートビッグキャノン』はそれで使えるようになったんだし……って、まさか!?」
そのことに気付いた俺が思わずアイナを見返すと、アイナはしっかりと俺の目を見て言った。
「そう。多分、ルージュと合体したとき、そしてルージュが中心になったときだけ『ドレイン』が使えるのは……」
そこで、一度言葉を切って、俺を真っ直ぐに見つめて言った。
「あたしがリョウを好きになったからよ!」
「そういうことだったのか!」
そう言われてみれば、納得はできる。そして、こんなときにも関わらず、俺は思わずにやけそうになってしまい、そんな顔を必死で引き締めながら言う。
「よし、アイナ、俺とお前の絆で、ヤツを倒すぞ!」
そう言って、アイナの側に駆け寄ると、剣を鞘に収めて彼女の手を取る。どうせワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストに剣は通じないからな。
「だけど、攻撃が届かないよ」
イリスからツッコミが入るが、そこは俺に考えがある。
「レインボゥ、もっと上昇しろ、もっとだ!」
俺の命令を受けて、レインボゥはどんどん高く上がっていく。
それを見て、クミコは俺の作戦に気付いたのだろう。中指でツイっと眼鏡の位置を直しながら、俺にアドバイスを送ってくる。
「レインボゥがスクランブル合体から動けるようになるまでの硬直時間と、重力加速度から考えると、もう少し高度が必要だ。今の倍は欲しい」
「そうか! そういう作戦なんだね」
クミコの話を聞いて、イリスも俺の作戦がわかったのだろう。
「もう一回だ、『マジックアロー』撃てぇっ!」
マサトの命令で放たれたゴブリン
と、ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストが、ひときわ強く輝いたかと思うと、今度は最初にレインボゥに放ったのと同じド太い光線をウェルチ目がけて放った!
「カバー」
だが、いつもの冷静な声が、光線の発射前にスキルを使っていた。大きな盾を構えて光線の前に立ちはだかったカチュアは、HPの八割を削られてボロボロになりながらも、何とかウェルチを守り切った!
「カチュア、ありがとうなのですぅ! ハイヒールですぅ!!」
そして、そのカチュアをウェルチの回復魔法が癒やす。まだHPの七割くらいまでしか回復していないので、あと一発さっきのド太い光線を喰らったらヤバい状態だが、もうそんな攻撃はさせない!
「よし、高度は充分だ。レインボゥ、スクランブル合体!」
空の彼方で米粒のように小さく見えるレインボウが分離すると、再びルージュを中心に合体してフレアビッグスライムになる。
そして、飛べなくなったレインボゥは、重力に引かれて落下を始める……ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストの真上で!
そして、クミコの計算通り、レインボゥの硬直が解ける頃に、その巨体がワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストにのしかかる!!
「「レインボゥ、やっちゃえ!!」」
俺とアイナの声がしっかりと重なる。その瞬間、レインボゥがワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストを包み込みながらドレインを発動した!
バシィ!!
ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストのHPバーがゴリゴリと減っていき、すべて消え失せる。残HPはゼロだ。
レインボゥのドレインによって全HPを奪われたワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストは、その体を構成するエネルギーをすべて奪い尽くされたからか、キラキラとした細かい光の粒子に分散しながら宙に溶けるように消滅していった。
それと同時に、この場に残っていたメンバーから歓声が上がる。
ただ、アイナやミーネ、ホリーさんといったような
とはいえ、とりあえずの脅威はこれで去った。だが、今回の事件が終わったワケじゃあない。
「さて、ヘルベルトさん、あんたには色々と話してもらう必要があるんだけどな」
俺はヘルベルトに近づくと、単刀直入に切り出した。
「な、何をだ?」
おどおどと聞き返すヘルベルト。
「あの男、メイガスと何を話して、何をもらったのか。あの男の正体を知っているのか、そういったことだ」
「ふ、フン、お前に何の権限があって……」
少し気を取り直したのか、また文句を言いだそうとするヘルベルトに、俺はインベントリから取り出したTAIのメンバーズカードを突きつけて言った。
「俺たちは帝国政府直属の対インベーダー特務部隊TAIのメンバーだ。インベーダー対策については帝国政府に全権を委任されている。メイガスは明らかにインベーダーだ。その手先となったお前を、今この場で切り捨てても咎められることは無い」
それを聞いて顔面蒼白になるヘルベルト。
「し、知らん。わしは
「世の中への不満をいいように利用されただけか。その精霊融合の杖は帝国政府が没収して研究する。お前もこれだけの事件を起こしたんだからタダで済むと思うなよ。逮捕して帝都へ連行する」
「そ、そんな……」
愕然とするヘルベルトから精霊融合の杖を取り上げて見てみたのだが……
「このエレメンタラーの宝珠は封じられていた精霊力を使い果たしちゃってるわ。これじゃあエレメンタラーに転職できないわよ」
杖の先端に取り付けられた宝珠を見ながらアイナが言う。確かに七色に輝いていた宝珠はその輝きを失って、ただの石みたいになってしまっていた。
それを聞いたミーネがうなだれてつぶやく。
「そんな、それじゃあ、私はどうすれば……前のパーティーからは追放されてしまったから、今回エレメンタラーになれなかったら、もう私とパーティーを組んでくれる人なんて……」
「何言ってるんだっ! 四年後にまた来ればいいじゃないかっ!! 前に『オレが責任をもってミーネをエレメンタラーにしてやる』って約束しただろっ!? オレはまだその責任を果たしてないんだっ! 四年後にエレメンタラーになれるまで、ずっとオレたちと一緒にパーティーを組んでいればいいじゃないかっ!!」
力強いマサトの言葉を聞いて、ミーネの表情がパッと明るくなる。
「いいんですか!?」
「もちろんだっ! ミーネが一緒にいてくれたらオレも楽しいしなっ!!」
「ゴブゴブッ!」
マサトの言葉に、ゴブりんも同意するようにうなずいて吠える。
「どうやら、あっちは丸く収まりそうだな」
「うん、ミーネも良い人にめぐり会えたみたいね」
そう言いながら、俺に寄り添ってくるアイナ。わかってるさ、その言葉の意味は。
だから、俺はアイナに向き直って口を開いた。
「こっちも丸く収めような」
「え?」
俺の言葉にきょとんとした表情になるアイナ。そんなアイナも可愛いなと思いながら、俺はアイナの目を見つめながら、一番シンプルな言葉を選んで単刀直入に言った。
「アイナ、好きだ。つきあってくれ」
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