第41話 ゴブリン軍団はダテじゃない
「な、どうして!?」
「そうか、無属性の攻撃魔法!」
思わず驚愕の叫びを上げたオレとほぼ同時に、クミコがその理由を看破する。
「無属性!?」
「そう、その通りっ! 七属性すべての攻撃が効かないなら無属性の魔法で攻撃すればいいんだっ!! どうだ、この攻撃なら、お前らのスライムにだって通用するぞっ!」
思わずクミコに問い返した俺だったが、勝ち誇るように答えたのはマサトだった。
「だが、無属性の攻撃魔法なんて、一番基本のマジックアローぐらいしか無い……そうか、だから数で押すのか!」
「正解だっ! ひとつひとつはダメージ十でも、それが二十集まれば与えるダメージは二百っ!! どうだ、『戦いは数』の正しさがわかったかっ!」
マサトの言うとおり、確かにコレはレインボゥにも効果的な攻撃だ。意外なところでレインボゥの弱点が明らかになったな。それにしても、マジックアローは基本の攻撃魔法だけに威力は低い。攻撃側のステータスが低い場合は魔法防御力が高い相手にはダメージが通らないこともある。ところが、今マジックアローを放った二十匹のゴブリンは、全員が「ゴブリン・アークメイジ」だった。種族特性としてステータスの魔法攻撃力が高いから、ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストにもダメージが通っている。
でも、前に見たときはゴブリン系ではあっても、ゴブリン・パラディンとかゴブリン・ソードマスターとかの結構多彩な種族で構成されていたはず。一匹くらいはゴブリン・アークメイジもいたと思うけど、こんなに大勢ではなかったんだが?
「ああ、わかった。確かにコレは凄い……んだが、お前の
「ハッハッハッハ、実はオレに与えられたゴリブリン様の加護のひとつに『ゴブリン進化リセット』があるんだっ! 一度進化したゴブリンを素のゴブリンに戻して、別の進化をさせることができるのさっ!!」
「それは凄いな。どんな戦況でも対応できるじゃないか」
自慢気に言うマサトに、イリスが感嘆する。俺も同感だ。今回みたいな場合に戦力を柔軟に組み替えられるってのは強すぎるぞ。本当にこいつら最強の
「ゴブリン
クミコもつぶやいている。そういや外見だけ飾ってることを「ダテ」っていうのは、昔そういう名前の冒険者が思いっ切り派手な装備で目立ってたかららしいけど……って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
「よし、今回は
「妥当だね」
俺の作戦案にイリスも同意する。見せ場を持って行かれるのは少し
「俺たちは、住民の避難誘導をする。
「ほかの人たちのことは任せて」
ケネスやホリーさんたちが言ってきた。この場には俺たち以外にもAランク、Bランクのパーティーが結構いるが、マジックアロー以外が通じないなら、それ以外のメンバーは確かに避難誘導をしてもらった方がいいだろう。
「わかった、頼む!」
そう言うと、ほかのパーティーのメンバーは会場を脱出しようとしている住民を誘導したり、ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストから守る位置に移動を開始する。
残ったメンバーがワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストを包囲する形で陣取り、散発的にマジックアローの魔法を放って、少しずつダメージを与える。
よし、このまま数の力で押し切れば、それほど被害を出さずに倒せるかもしれないぞ。ヤツの攻撃は全部レインボゥが防げるだろうからな。
だが、ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストはそんな俺たちの作戦を嘲笑うかのように、戦法を変えてきた。
ピカピカっと、その巨体がひときわ強く光ると同時に、四方八方に細い光線を乱射しだしたんだ。
「ゴブっ!」
「ゴブゴブゴブーッ!!」
「グッ!」
「痛ぅ!」
そのうち何本かはレインボゥが体を張って防いだんだが、数が多すぎて防ぎ切れなかった。ゴブリン
それだけじゃなく、俺たちやマサトたち、それに残ったほかのパーティーの
クソっ、そういえば光のエレメンタルも同じ攻撃をしかけてきてたな。同じことをしてくると考えるべきだった。
「今回はゴブリンさんたち優先ですぅ、オールヒール!」
ウェルチがオールヒールを使うが、俺たちとはパーティーが違うので回復するのはマサトのゴブリン
「とりあえず、まだHP回復ポーションは結構あるから、ゴブリン優先でやってくれ!」
俺自身がHP回復ポーションを一気飲みしてからウェルチの判断を支持する。今の場合、攻撃手段が失われるのが一番マズいからな。
「すまないっ! こっちも一部をリセットして回復役を作るから、少しの間だけ回復を頼むっ!」
マサトが叫ぶ。
「わかった! みんな、しばらくは自力で回復するぞ」
俺がみんなに指示を出すと、クミコが意見を具申してきた。
「我は攻撃に回った方が良いと思うので、誰かに回復を頼みたい。リョウも回復は誰かに頼んでマジックアローを撃つ方が良いのではないか?」
そう言ってから、マジックアローの魔法でワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストを攻撃するクミコ。言われてみればその通りだ。俺は基本的な攻撃魔法しか使えないが、あいつには通じるんだから、今回は俺も
「確かにな。アイナ、頼めるか?」
「ええ、回復は任せてもらって大丈夫よ。でも、その前にひとつ、あたしに考えがあるの」
「考え? 何だ?」
「レインボゥをルージュを中心にスクランブル合体させて欲しいの」
「何でだ? まあいいけど。レインボゥ、スクランブル合体だ!」
アイナの頼みに首をひねりながらも、大したことじゃないのでレインボゥにスクランブル合体を命令する。一度分離したスライムたちは、今度はルージュを中心に合体して、赤く輝くフレアビッグスライムになる。
それに対して、アイナは
「やっぱり! 『ドレイン』が使えるようになってる!!」
「何っ!?」
俺も同じようにして見ると、確かにレインボゥの攻撃スキルに「ドレイン」が増えている。ミドルルージュには有ったけど、さっきノーマル状態のレインボゥを見たときには無かったのに、どうしてだ?
「ドレインを試してみて。実体の無いフレイムゴーレムに通用したんだから、きっとエレメンタルにも通じるはず!」
「よし、レインボゥ、とにかくドレインしてみろ!」
ふにょん、とひときわ大きくうごめくと、合体後の短い硬直が解けたレインボゥが動き出す。
ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストの真下まで移動すると、ぐにゅっと大きく一度へこんでから、びょーんと高くジャンプした!
それでも、ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストには届かないか!?
だが、そのジャンプの頂点から、今度はぐにゅーんとレインボゥが体の一部を伸ばすと、その先がワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストに届く。
バシィ!
ダメージエフェクトがワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストに重なって表示される。
「よし、効いた!」
それも、HPバーを四分の一も削るくらいの威力があった。
「ミドルルージュのときは、こんなに威力なかったよな?」
「レインボゥになってステータスが底上げされてるから威力が上がったんじゃないかしら」
なるほど、アイナの言う通りだろうな。そんな会話をしていたら、ミーネがアイナに回復魔法をかけてくれた。
「私もみなさんの回復に回ります。命の精霊よ私の友達を癒やして……『トリート・ウーンズ』」
「ありがと、ミーネ! 命の精霊よ、クミコの傷を癒やして……『トリート・ウーンズ』」
今度はアイナがクミコの傷を癒やす。まだ完全ではないけど、とりあえず回復はできたな。
「よし、ここは押すぞっ! 『マジックアロー』斉射ぁ!!」
マサトの指示で、再びゴブリン
着弾と同時にワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストのHPがゴリッと削れて、半分以下まで減る。
それに対してワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストが上昇しながら反撃の光線を乱射する。レインボゥが盾役でなくなってしまったので、前よりもダメージを受ける者が増えるが、致命傷には至らない。
ウェルチが再びマサトたちのパーティーを回復させる。彼女自身は常にカチュアがガードしているのでダメージは受けていない。そのカチュアや、ほかのメンバーは自分の持っていたHPポーションで回復している。
その合間に、俺とクミコはマジックアローの魔法で僅かながらもワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストのHPを削っていく。
「命の精霊よ、リョウの傷を癒やして……『トリート・ウーンズ』」
俺が受けたダメージはアイナが回復してくれた。そのアイナは光線の射線から外れていたのでダメージを受けていない。今回はミーネがクミコの傷を癒やしてくれた。
さあ、レインボゥの攻撃だ……と思ったときに気が付いた。
「あれじゃ届かない!?」
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