第33話 思い出の相手との再会
「召喚だっ! 出ろぉぉぉぉぉっ、ゴぉブりぃぃぃぃぃんっ!!」
そう叫ぶと同時にマサトは全身を使った派手なモーションで指を鳴らす。
すると、地面に召喚魔法陣が光の線で描かれ、その六芒星の中心に光をまとった人影が地面から浮かび上がってくる。
……えらく派手なモーションとか付けてるけど、これ、ただの「召喚」スキルだから。
「別に叫ばなくても召喚できるわよね」
「ああ。普通に『召喚』ってスキル名唱えるだけでいいのにな」
呆れたように言うアイナに俺も同意する。
「あの指パッチンは何なんですぅ?」
「ただの格好つけ。無意味」
不思議そうに聞いたウェルチに対して、カチュアがいつもの調子で切って捨てる。
「うるさいっ! 大事なのは召喚されたオレの『ゴブりん』の能力だろうがっ!!」
そんな俺たちのやりとりを聞いて顔を真っ赤にして怒るマサト。まあ、重要なのがそこであることは確かなんだが。
そして、実際に召喚されたゴブリンは非常に大柄で、大人の人間と同じくらいの体格をしており、立派な鎧をまとっていたし、そのステータスを見てみたら自慢したくなる理由はよくわかった。
「『ゴブリン・エンペラー』なんて種族、初めて見た。パッシブスキル『ゴブリン集団統率』がスキルレベル10でカンストしているのか」
「『集団統率』系のスキルの効果は、対象の集団の戦闘力をスキルレベルの二乗分のパーセントだけ引き上げるはずだよ。つまり、こいつが統率しているゴブリン集団の戦闘力は百パーセントアップで、事実上二倍になっているんだ」
俺の言葉をイリスが補足する。元々のスペックが高いゴブリン
「ゴブリンの名前が『ゴブりん』ってのはなあ……」
思わずつぶやいた俺に、マサトは非常に心外そうな顔で反論してきた。
「スライムに『スーラ』なんて名前を付けるヤツにネーミングセンスをとやかく言われる筋合いは無いっ!」
「うっ」
思わず詰まった俺に、俺の優しい仲間たちが……
「それは否定できないわよね」
「残念だけど……」
「リョウさんには、ほかにいろいろと取り柄がありますぅ。ネーミングセンスなんて大事なことじゃないですぅ」
「まあ、人間欠点のひとつやふたつはあるものでござる」
「センス皆無」
「ヲーッホッホッホッホ! 大丈夫ですわ。苦手なことがあっても、わたくしたちが補ってさしあげますわよ」
「ネーミングだけは任せられぬ……」
フレンドリーファイアの集中砲火を喰らって、俺、涙目(泣)。
と、そんな雰囲気の中でひとり激怒している方もおりまして……
「無視するなっ!」
まあ、ヘルベルトがこう叫びたくなるのはわかる。
「おう、話が脱線して申し訳ないっ! だが、こいつらを見ればミーネを守るのに充分な力があるってわかっただろっ!?」
「フン、いくら上位種とはいえ、たかがゴブリンではないか。お前のようなどこの馬の骨ともわからんヒューマンと組むなどと……」
そう言いかけたヘルベルトをさえぎったのは、孫のミーネだった。
「お祖父さま、失礼なことは言わないでください! マサトさんとゴブリンさんたちは、モンスターに襲われて危なかった私を何のメリットも無いのに助けてくれたんです!! 今だって私が困っているのを見て、見返り無しで協力してくれるって言ってくださっているんです! 私はマサトさんとゴブリンさんたちを信じます!!」
「み、ミーネ? お前まで……」
強い口調で主張するミーネに困惑するヘルベルト。おお、清楚なお嬢様かと思ってたら、意外に気が強いのかな? ……と思ってたら、アイナによると違うらしい。
「ミーネも変わったわね。冒険者なんか無理じゃないかってぐらい気の弱い子で、ヘルベルトのおっちゃんの言いなりだったのに」
「気弱な子だったんだ……てか知ってるのか?」
「この狭い村なんだから同世代の子はみんな知り合いよ。ヘルベルトのおっちゃんは嫌味だけどミーネ本人は良い子だし」
そんな風に話している間に、結局ミーネがヘルベルトを押し切った。
「フン、勝手にしろ!」
そう捨て台詞を吐いて去って行くヘルベルトだったが、その背中には哀愁が漂っていた。時代に乗り遅れた老人の悲哀ってヤツだろうな。
「それじゃあ、オレたちは行くぜっ! お前らには負けないからなっ!!」
「おう、頑張れよ。俺たちも負けるつもりは無いからな!」
マサトってのも暑苦しいヤツではあるが、別に悪人ではなさそうだ。正々堂々と勝負してやろうじゃないか! ……どうせ七組はエレメンタラーになれるんだから、どっちも勝ち組になれそうではあるけどな。
「それじゃ先に行くね、アイナ」
「気を付けなさいよ、ミーネ」
最後にアイナとミーネが挨拶を交わして、二人と二十体以上のゴブリンたちはゾロゾロと連れだってダンジョンに入っていく。
さて、いよいよ次が最後の組、つまり俺たちだ。
「よーし、みんな準備はいいか? 行くぞーっ!!」
「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」
全員で気合いを入れると、それに合わせて俺たちの足元のスライムたちも大きくふにょんと動く。よしよし、こいつらも気合い充分だな。
そうして俺たちは、改めて開いたダンジョンの入口から中に入ったのだった。
……が、正直、出てくるモンスターは大したことがなかった。
「このダンジョン、モンスターは弱くないか?」
「弱いわよ。各階のボス以外は雑魚ね」
スケルトンを切り飛ばしながら俺がアイナに尋ねると、「ジャイアント・バット」を弓で射落としたアイナが答える。
何しろ、今まで三回ほど戦闘したが、スーラたちを合体させる必要があるような強敵が出てきてないんだ。
今も、俺の目の前でスーラがふにょんふにょんと「コボルド」に近づいて、その頭部目がけてピョンと飛び上がると、ベチャッと顔面に貼り付く。しばらくスーラを引きはがそうと苦闘していたコボルドだったがスーラの持つ「物理打撃無効」スキルの前に手も足も出ず、そのうちに息が続かなくなって動きが鈍くなり、やがて動きが止まると同時に魔素に分解されて消えていく。
もう、物理攻撃しかできない雑魚相手なら充分に戦力になるくらい、スーラたちだって強くなっているんだ。既に全員のスライムが「物理打撃無効」スキルをおぼえてるし、攻撃力だって上がってきている。
ってか、物理攻撃の効かないスライムの窒息攻撃とか、結構な実力の冒険者でも下手すると詰むぞ。
そう考えると、ウチのパーティーは雑魚相手なら今や十六人パーティーと同等の戦力があるんだ。さすがに頭数だとゴブリンテイマーズには負けるが、五~六匹程度の雑魚モンスターが相手なら、ほとんど瞬殺できる。
「昔はひとりで挑戦するって慣習だったから雑魚でも結構手強かったって話だけど、今みたいにパーティーで挑むなら足止め程度にしかならないわね」
敵が全滅したのを見届けてから、アイナがそう言った。
「それじゃあ進むでござる。『罠感知』……今のところ、罠らしきものはござらん」
オリエが先頭に立って罠を調べるスキルを使ってから、俺たちを先導する。このダンジョンには物理系の罠は無いという話だったが、用心にこしたことはないからな。
そうやって、雑魚を倒しながら順調に探索を進めていく俺たち。この迷宮はローグライクダンジョンということで毎回地形は変わるというのだが、特に複雑な地形になるワケではないので、大して迷ったりもせずに順調に地下一階の最奥部の部屋に到達する……のだが、土壁の一部がへこんで扉のようになっているのに取っ手が無い。ダンジョン内の扉の場合は自動で開くこともあるのだが、そういう様子も無いようだ。
「これ、どうやって入るんだ?」
俺の問いに対してアイナが答える。
「これはね、精霊に頼んで開けてもらうのよ。この扉を守っているのは地属性の精霊ね」
「なるほど、このダンジョンをクリアするには
そう言った俺に対して、アイナはかぶりをふりながら説明する。
「確かに階段はあるけど、その前にこの階のボスがいるはずよ。普通はダンジョンのボスって最下層のボス部屋にしかいないんだけど、このダンジョンは各階にボス部屋があるのよ。七属性のゴーレムのうち、各階一種類ずつ違うゴーレムが出てきて、地下六階までに六種類が出てくるんですって。それで六属性までゴーレムを倒して、残った最後の属性のエレメンタルが最下層である地下七階のボスになるってことらしいわ」
「そういうことか。各属性のゴーレムだったら、今の俺たちの敵じゃないとは思うが、油断は禁物だ。最初から手を抜かずに行くぞ! それじゃあ、みんな準備はいいか?」
アイナの説明を聞いてから、みんなに最終確認を取ると、全員が装備を構えてうなずく。スライムたちもふにょんとうごめいて準備万端だと意思表示する。よし、それじゃあ、最初のボス戦だ!
……と意気込んで地下一階のボス部屋に突入した俺たちを待っていたのは、扉を守っていた精霊と同じ地属性のゴーレム……つまり、懐かしのストーンゴーレムだった。
レインボゥが瞬殺しました。
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