第32話 鮮烈、ゴブリンテイマーズ!
「あいつらが噂の『ゴブリンテイマーズ』か……」
俺は思わずつぶやいていた。Aランクのランキングで何度も上位で見かけたことがある実力派のパーティーだな。だけど、噂になっているのは、それだけが理由じゃない。雑魚モンスターとして知られるゴブリンを
「ほかのパーティーメンバーはいないのかしら?」
アイナもつぶやいたのが聞こえてきた。確かに、リーダーらしきマサトという男以外は、今回臨時でパーティーを組んでいるとおぼしきミーネのほかにはゴブリンしかいない。
「外野、うるさいぞっ! オレほどの
……なるほど、ボッチなんだ。そんなに大きな声じゃなかったアイナのつぶやきに反応してるのは、実は相当気にしてるからなんだろうな。
と、そこで俺たちの方を振り向いたマサトが、俺たちの姿を見て目をまん丸にして驚きの表情を見せると、キッと俺の方をにらんで叫んだ。
「そのスライムからすると、お前らが『スライムサモナーズ』だなっ! ここで会ったが百年目、今度こそオレたち『ゴブリンテイマーズ』の方が実力が上だと証明してやるっ!!」
あ、あれ……何かえらくライバル視されてるっぽいんですけど?
「えーと、会ったこと、無かったよな?」
思わず俺が尋ねたのに、マサトはうなずいて答える。
「ああ、これが初対面だっ!」
「なのに『今度こそ』ってどういう意味だ?」
それを聞いたマサトは憤然として叫んだ。
「オレたちが火竜とレッサー・ドラゴンを連続撃破したその日にワイバーン二頭とレッサー・ドラゴンを倒してただろうがっ! アレさえ無ければオレたちが念願の総合ランキング一位を取れてたのにっ!!」
「あー、なるほど!」
そうだった。あの日の日間総合ランキングの二位には、確かにゴブリンテイマーズの名前があったな。
確かに、普通なら竜種二頭撃破ってのはランキング一位になれる貢献ポイントを稼げるはずだ。それなのに、オレたちが三頭撃破をやっちまったもんだからトップを取れなかったってんで逆恨みしてるのか。
ちなみに俺たちが火竜二頭を倒した日については、特別貢献ポイントをもらったってことで例外扱いになってランキングからは除外されている。
「それは巡り合わせが悪かっただけで、別にあたしたちのせいってわけじゃ……」
アイナが言い返そうとしたのだが、マサトはそれを遮って叫ぶ。
「それだけじゃないぞっ! オレたちはゴブリン、お前らはスライム、どっちも最弱モンスターの代名詞だが、ゴブリンの方が実力は上だと証明してやるんだっ!!」
「なるほどな」
その気持ちは確かにわかる。俺たちだってスライムの強さを見せつけてやりたいという気持ちはあるからな。
と、そんなマサトに対してクミコが、少しズレた眼鏡を中指でツイっと直しながら、気取った口調で言い返す。
「そこまで言うのならば見せてもらおうか、ゴブリンの実力とやらを!」
そして、
「何ィ!? 『ゴブリン・パラディン』に『ゴブリン・セージ』、『ゴブリン・ソードマスター』、『ゴブリン・マスターニンジャ』……上位種ばかりだというのか!!」
ザシャアァァァ! と派手に足元の砂を蹴立てながら後ろに下がって驚きを表すクミコ。いちいち芝居がかってるんだよなあ、こいつは。
だがまあ、驚くのも無理はない。俺だってゴブリンたちの種族名を見て驚いたってのは同じだからな。
「上位種ばかりテイムしてるってのは、さすがとしか言いようがないね」
そうイリスがつぶやいた言葉を聞いて、マサトはチッチッチッと舌打ちをしながら指を振ってそれを否定してから反論する。
「勘違いするな、こいつらは全部オレが進化させたんだっ! 元は全員ただのノーマルゴブリンだぞっ!!」
「そりゃ凄い」
思わず目を丸くして言ってしまった。確かにゴブリンってのはスライムと並んで成長が早いモンスターだが、ここまで進化させるのは相当に大変だっただろう。
それを聞いたマサトは、自慢気にふんぞり返って言った。
「フフン、驚いたかっ! 何しろオレにはゴブリンの女神『ゴリブリン』様の御加護があるんだからなっ!!」
「「「「「「「「ゴブリンの女神!?」」」」」」」」
思わず全員でハモってしまった俺たち。それを聞いたマサトはさらに自慢気に叫ぶ。
「そうだっ! ゴリブリン様から『ゴブリン魅了』『配下ゴブリン取得経験値倍増』『配下ゴブリンステータス成長率倍増』『配下ゴブリン進化要件緩和』『配下ゴブリンステータス倍増』の
こいつも女神の使徒だったのか! ……って、随分加護が優遇されてる気がするんだが。
『その代わりスペックは
うぉう!? 突然頭の中にツッコミが入ったぞ。これって、もしかしてスライミースライマーからの神託だったりするのか?
『そうです』
役に立たない神託下ろしてくるなあ。ってか、何でこのタイミング?
『彼は確かにわたくしの宿敵であるゴリブリンの使徒です。いいですか、決して負けないでくださいよ! あのゴリラ女なんかに負けるなんて、わたくしのプライドが絶対許しません!!』
……なるほど、女神業界でのライバルなのね。それじゃあ、しょーがない(←棒読み)。まあ、確かに俺たちにもスライムサモナーとしてのプライドがあるからな。
「だが、俺たちにもスライムの女神スライミースライマー……様の加護がある。一匹一匹は弱いけど、合体すれば無敵だ!」
……一応反論はしてみたんだが、やっぱりあの駄女神に様付けするのには少し抵抗があったり。
『何でですかー!』
胸に手を当てて考えてみろ、駄女神! まあ、一応使徒だし、確かに恩も無いわけじゃないから人前じゃあ敬ってやるけど。
だが、そんな俺の反論をマサトは鼻で笑って言い返してくる。
「フン、何で帝国軍が強いかわかるかっ!? 『戦いは数だよ兄貴』と昔の偉い人も言ってるぜっ!」
「聞いたことないぞ」
「ソロモンの英雄の言葉なのだよ……」
うっ、俺は聞いたことなかったんだが、クミコは知ってたらしい。さすがに博識だな。でも、ソロモンってのは確か南の方の海に浮かぶ小島の名前だったような気がするんだけど、あんな所に有名な英雄っていたかな? いや、あの島の名前自体が古代の英雄だか王様だかの名前から付けられたんだったかな? うろ覚えだからよくわからん。
そんな風に思っていたら、突然キャシーが高笑いと共に反論を始めた。
「ヲーッホッホッホッホ! いくら数が多くても、それだけでは烏合の衆ですわよ。あなた自身には統率系のスキルが無さそうですけど、それで戦えますの?」
おお、意外に鋭い指摘だ。確かにマサトのステータスを見ると「集団統率」系のスキルが無い。
だが、それを聞いたマサトはニヤリと笑うと、先ほどと同じようにチッチッチッと指を振ってから言った。
「甘いなっ! 確かにオレ自身には統率系のスキルは無いが、それを補ってくれる強い相棒が居るんだっ!! 見るがいい、これがオレの
そこで一度言葉を切ると、腹の底から響く声で絶叫する。
「召喚だっ! 出ろぉぉぉぉぉっ、ゴぉブりぃぃぃぃぃんっ!!」
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